勇者達の翌朝・新書(中編3)

L・ラズライト

[1].シレーヌの庭

1.春先の旅立ち

舞踏会の直ぐ後、


「ようやく『御披露目』が終わった。」


とグラナドが茶化して言った。




オリガライトや、暗殺未遂やら、未解決の問題は沢山あるが、王子が都に帰り、旅は一段落した。俺は計画の完遂があるが、普通はパーティー解散のタイミングだ。


が、みな、それぞれの理由で、グラナドの側に留まる事になった。




ミルファは、「魔法院留学」で残った。実際、狩人族の地で起きた事は、彼女の魔力に変化をもたらした。今まで、魔法があまり得意でない事から、基本的な魔法技術しか履修していなかった。が、この先は、もっと高度な技術も覚えないといけない。属性が土ということもあり、火と土のヘドレンチナが指導する事になった。魔法院の副院長である彼女は、上級者以外に直接教える事はまれだ。特殊ケースという以外に、ミルファの「立場」を考慮しての事だった。


カッシーは、 ミルファがラッシルから連れてきた侍女、という設定で、あちこち付き添っては、情報を集めて回った。意外な事に、恐らくタイプが合うまいと見ていた、ヘドレンチナやシスカーシアとも、直ぐに親しくなっていた。




俺とファイスは正式に、ハバンロとシェードは非公式に、グラナドの護衛になった。ハバンロに関してはともかく、シェードは、半ば無理矢理に、グラナドが決めてしまった。レイーラが、王都で再び、リスリーヌの元で学ぶ事になり、彼はそれを受けて「大人の決意」をした。一人でロサマリナに帰ろうとしたのだ。それをグラナドが止めた。


「今帰っても、 メドラに呆れられるだけだろ。『一人前』になったのか?」


と言って。一見辛辣だが、グラナドは、シェードの能力は評価していた。


レイーラは、リスリーヌの元で 学ぶとはいえ、神官に復帰はしなかった。神官から転身する者のために、魔法医師や民間聖職者になるクラスがあるので、そこに入る。


本人は、何だか思い詰めていて、上級への道を取りたがっていたようだった。(はっきりと聞いたわけではないが。)


しかし、彼女は、魔法結晶との相性が、上級神官になるには低かった。結晶は、何年かに分けて口から取り入れて体内にため、神殿地下の魔法結晶に触れ、貯めた物を育てる。この最初の段階で、うまく結晶が育たない、定着しないで効果が消えてしまう体質の者は、弾かれる。


この方法は、人を選ぶし、効率は良くないが、安全な方法である。遥かな大昔は、胸に結晶を埋め込んだり、大量の結晶を一度に飲んだりした。それだと、相性が低くても、短時間で強い力を得られるが、事故率が高かったので、今では禁止だ。


リスリーヌも、、レイーラには、上級への道は勧めなかった。彼女個人の意見ではなく、今では、二十代のうちは、一部の例外(神官長の未来が決まっている、王家の姫など)を除き、上級には進ませなくなっていた。ディニィの死を受けて、ルーミの取った政策の一つだ。(前に紹介されたファランダが、女王と同い年くらいだったので、絶対的な物ではないらしいのだが。)




グラナドは中断していた最終試験を受けるために(今更だが)、しばらく魔法院に詰めた。試験官は、直接の師匠は担当出来ないので、ヘドレンチナではなく、別の魔法官が着いていた。その間、ハバンロを除く男三人は、魔法力のチェックを受けた。グェンドリン師、トーマス師という、二人の魔法官が担当した。前者が女性で水、後者が男性で風だ。二人は、魔法院は引退して、故郷で教鞭を取っていたが、クーデター後の人手不足で、呼び戻されていた。


俺に関しては、


「完璧です。教えることはないくらいに。」


という評価だった。ホプラスをベースに、上から付与された能力だ。当然と言えば言える。


暗魔法のファイスは、チェックのしようが無かったが、当然、珍しがられた。ユリアヌスが戻れば、魔法院に復帰するそうで、その時には、いくつか実験に協力して、と、言われた。グェンドリンは、ユリアヌスと、比較的親しかったようで、無属性の研究にも一時携わっていた。


シェードは、「魔法は苦手」と公言していたが、グラナドは、


彼を、


「短絡思考で魔法技術がわからんだけだ。資質は高いほうだ。」


と評していた。それは当たっていて、トーマスは、「キャパがある」という言い方をした。だが、一方で、「魔法官には真っ直ぐ過ぎる」と、冗談めかして言っていた。


「魔法官ってのは、『溜め込む』性格のほうが、向いてますからね。」


言われてみれば、そうかもしれない。確かにがらっぱちな魔法官というのも見ない。




旅は終わり、一年後くらいには解散かもしれない、そう考えた時もある。グラナドの担当は、当面は魔法院と王都の完全復興で、基本は王都を出ない。




しかし、春の初め、ルーミの好きなリョクガクの季節になる頃、俺たちは、再び、旅立つことになった。

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