4.新しい墓地

四人は、待つ間に、あちこち聞き込みをしてくれていた。レイーラは医師の手伝いなので、多少土地勘のあるハバンロと、シェードを組ませ、カッシーはオネストスを連れ出した。


オネストスは騎士団の所属のため、俺達につけられているとは言え、勝手に連れ回せないはずだが、カッシーが、


「こういうのは、一人で聞いて回るより、二人で行ったほうが、やり易いのよ。」


と、強引に連れ出したらしい。


街の噂では、もっぱらトーロと、墓地にいた一団が関わっている事になっていた。トーロ自身は、一応自警団の所属のため、彼等とは、基本は仲が悪かった。だが、パーロとソロスという、比較的「話の通じやすい」人物と、話している姿を何度か見られていた。二人は買い出し部隊のような役割だったようだ。


街の人たちは、ジーリとは違い、彼等が、墓地(キーリの墓のある、街の墓地)にも、旧市街にもおらず、町を出た、と思っていた。つまりは、トーロが連中を手引きし、娘たちをさらわせた、というわけだ。目的に関しては、「よくわからんが、新氏族を作るため」程度の推測だが、主犯とされる一団より、何故かトーロが非難されていた。場所については、以前、複合体のいた洞窟、という事になっていたが、洞窟には小規模だがエレメントの監視施設があり、職員がいる。また、落盤で、今は内部に入れる状態ではないそうだ。まとまった人数が人質を連れて、施設職員に見とがめられずに、身を隠す場所ではない。さらに、距離もあり、そこから、マドーナが一度の転送魔法で、ゲイターに出られるとは思えない。


このような理由から、近郊に適当な場所は、という話になり、「新墓地」を揚げた者がいた。


揚げた人物は、適当に言っただけで、今は何もない更地だから、と付け加えた。だが、よくよく聞いてみると、地下墓地として設計したため、先に竣工した地下部分は、内装以外はできているらしかった。


内装のデザインは、クーデター後に、予算不足から変更されたのが、それが、伝統的な狩人族の様式ではない、という事で揉めて、数ヵ月以上工事が中断していた。結果としては、今の墓地の蔵(副葬品をまとめて納める所。一緒に土葬または火葬にされるのが普通だが、死者の地位が高いと、記念品が集まるため、保管・展示している。)を改装し、新しい納骨堂にし、蔵は街の記念館に移す事になった。


ただ、それはそれで、予定より狭くなるため、揉めているそうだ。建築はジーリが中心になっていたが、話し合いが二度も破綻しかけているため、一部に反発する層があり、それがトーロへの非難に繋がっているらしい。


狩人族は、従来は土葬で、墓碑は建てず、森に深く掘って埋葬していた。ただ、真夏に病死した場合や、怪我で遺体の損傷が酷い時や、小さい子供の場合は、火葬になる場合も多い。


土葬の時は、各氏族で決められた場所に埋葬する。墓碑は建てないため、墓参の習慣はない。ただ、定住化が進み、コーデラやチューヤの影響が強くなってからは、土葬でも火葬でも、墓碑を建てるようになった。


特に、最近は、昔の死者の墓を、氏族・一族のモニュメントとして、新しく建てる事が流行り、墓地は混雑している。新墓地の工事も、そのうち必ず再開するだろう、と言われていた。


カッシーたち二人は、その話を仕入れた後、すぐ新墓地に様子を見に行った。更地、と言われていたのは、確かにその通りだが、三十度ほどの角度のついた地下への扉があり、鍵穴がなく、施錠されているようには見えなかった。だが、中から塞がれているようで、オネストスの力でも、開かなかった。


墓場に、中から施錠する機能は必要ない。ということは、中に人がいて、開かないように「細工」している。


シェード達は、墓地と旧市街を見に行ったが、こちらは入れ替わり立ち替わり街の人が来て、怪しい者がいないことを確認していた。


グラナドは、この話を聞いて、まず俺とファイス、カッシーを先に連れて、新墓地に行き、探知魔法を使った。探知魔法は特定した故人は探せないが、エレメントを帯びた人や生物、物は探せる。モンスターの索敵に使うのが一般的だ。


「確かに、いるな。生きた人間だけのようだ。人数は…二属性使いがいないとすると、最低三人か。風がない…訳じゃないが、ごく弱い。いや、魔法を使えない者がいるとすると、正確な人数はわからんな。中の広さが図面通りとすると、二十人越える事は無さそうだが。


風以外は、各属性がバランスよくいるが、水がやや強いか。


扉は…金属用の強力な接着剤だな。これじゃ、中からも開かない。魔法でしか出入り出来ないようにするためか、別の入り口があるか。観光用なら、後者の可能性はある。


これも、ハバンロなら、気功で破壊できるだろうが。」


俺は、


「ハバンロ達が来てから、突入するか?」


と尋ねた。人質は取られているが、不意討ちの機会だ。ファイスも、


「敵も、一人逃げた以上、ばれるのは時間の問題だ、と思っているだろう。それでも、ここを離れない、ということは、『儀式』とやらに欠かせない『何か』がある。動けないなら、今のうちに。」


と言った。カッシーだけが、


「囲んでからのほうがいいわ。もっと人数が欲しい所ね。」


と言った。


「オリガライトこそ無いけど、無関係じゃないでしょ。ミザリウスが、エレメントが揃う事に意味がある、とか、そういうことを言っていたわ。風の子が一人抜けてる事もあるし、必要な人数が揃うまで、何も出来ない、と思っていいかもよ。」


と言った。するとファイスが、


「最もだが、もう皆が警戒している。新しい風魔法使いの女性を、直ぐに調達するのは無理だろう。それまで時間があるのは事実だが、不十分なままで、『儀式』をはじめる可能性もある。男性の風魔法使いならいる。この際、彼で間に合わせるかも知れん。」


と言った。俺はファイスに賛成し、


「地方の思想団体に、エレメントの制御に長けた魔導師が揃ってるとは思えないけど、何をやらかすにしても、早く止めておかないと。」


と意見を言った。一番大きな理由は、ミルファ達が心配だからだが、それはここにいる全員がそうだ。


グラナドは、


「それでは。」


と言いかけた。だが、結論をいう前に、シェード達の声がした。彼とハバンロ、レイーラの他、フィールとオネストスが来た。


最後の二人は意外だったが、フィールは、見取り図を始め、五種類ほどの文書を持っていた。建築士に借りてきた、という。俺達がジーリから借りた図面に比べ、詳しく、建築計画の変更点なども書かれていた。


カッシーが、


「ずいぶん、違うとこ、あるわね。」


と、グラナドを見た。フィールは、


「ややこしくなるから、トーロは巻いてきた。たぶん、役人と旧市街に行ってる。ゾーイに頼んで、自警団の強い人達に、搬入口を見張ってもらってる。」


と説明した。やはり出入り口はもう一つあるようだ。


オネストスは、フィールの説明の間、食い入るようにグラナドの顔をみていた。そして、終わったとたん、


「虫のいい話ですいませんが、殿下、お願いがあります。」


と切り出した。


「ピウファウム達の説得、俺にさせて貰えませんか?」


どこに彼らがいるのか、と、ハバンロが不思議そうに言っている。だが、俺は納得した。


謎の風魔法使いは、ピウファウム。彼はそれを悟っていた。




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