ツンデレ美少女に「あんたなんかいらないんだからっ、出ていってくれる?」とパーティーから追放されかけたので素直に従おうとしたら引き止められ、なぜかそれ以降美少女がやたらと構ってくるようになった件

水面あお

第1話 ツンデレ美少女、デレる

 俺には最近、悩みがある。


 それは、パーティーリーダーである魔法使いの少女が俺をやたら嫌っているということだ。


「あ、あんたなんかこのパーティーに必要ないんだからねっ!」


 毎日のようにパーティーから抜けてほしいといったニュアンスのことを言われ続けている。

 

「別にあんた一人くらいいなくたって、このパーティーはなんとかなるんだからっ!」


 次の日も。

 

「あんたなんかいらないんだからっ、出ていってくれる?」


 その次の日も。


 別に俺は足を引っ張ってはいない。

 大活躍しているわけではないが、それなりには成果を上げているはずだ。


 なのに、この少女は毎日毎日俺に詰め寄ってくる。


 美少女ではあるが、さすがにそろそろ精神的に参ってきていた。


 俺はこの日、堪忍袋の緒が切れた。


 だから言い返してやった。


「わかった、抜けてやるよ」


 その言葉を口にした途端、スッと身体が軽くなった。

 

 散々言われ続けて、既に俺の心は限界だったようだ。これで、辛い毎日とおさらばできる。そう思うと調子が上がってきた。


 清々しい気持ちで、パーティーから抜けた記念に軽く一杯飲みに行こうかなと思っていた時だった。


「ま、待って……」


 微かに、声がした。

 振り向くと、少女はその目には涙を浮かべていた。

 なぜ泣いているんだろうか。


「ぬ、抜けないでっ!」


 俺が困惑していると、衝撃的なことを口走った。

 少女が抜けろと言うから抜けたのに、今更何なのだろう。 


「ああああんたが抜けたらタンクは誰がやるの!?」


 続けざまにそんなことを言ってくる。

 

 そう、俺はこのパーティーでタンクを担当していた。

 

 俺以外は後衛しかいないアンバランスなパーティーなので、抜けたら大変な気がするがもうどうでもよかった。


「知らんがな。適当に他のやつでも入れるんだな」


 俺はそう言い捨てて去ろうとするが、少女が俺の服を掴んだ。


「あ、あんたは自覚ないかもだけど、ホントはあんた、すっごく優秀なタンクなんだからね!?」


 なんか急に褒めてきた。

 

 え、なにこれ怖い。

 新手の詐欺? 勧誘?


 意図が読めなさすぎる。


「さっきから抜けろっつったり、抜けんなつったりどっちなんだよ!」


「ぬ、抜けないで! お願い!」


 泣きながらそう懇願してくる。


「抜けて欲しくないなら、なんで前々から抜けて欲しいみたいなこと言ってきたんだよ」


「そ、それは……」


 急に顔を赤らめ、もじもじとしだす。

 泣いたり、怒ったり、恥ずかしがったり、忙しいやつだ。


「ひ、ひみつ! とにかくパーティーには残って欲しいの! な、なんでもするから!」


 新しいパーティーを探すのも面倒だ。

 少女の発言を省けば、居心地も悪くはなかったし。

 ここまでお願いしてくるのだ。これから抜けると俺へ言ってくることはなくなるだろう。 


「はぁ……わかった。でも残れるなら他に頼むことはないけどな」


 こうして俺は、パーティーに残ることにしたのだった。


 ――――――――――


「ねぇあんた! これ好きだって言ってたよね? いっぱい買ってきてあげたから食べなさい!」


 夕食時。

 どうやら少女が俺の好物の串焼きを山のように買ってきてくれたようだ。


「べ、別に感謝なんていらないんだからっ」


 そう言われたが、たくさん買ってくるのに労力も金もかかっただろう。

 この少女のことはあまり好きではないが、素直に礼を述べることにした。


「ありがとな、俺のために買ってきてくれて」


「はうぅぅ?!」


 素っ頓狂な声を上げたかと思うと早足で部屋から出ていってしまった。

 相変わらずよくわからない奴だ。


 ――――――――――


 次の日の朝。


「きょ、今日は行きたいところがあるの。ついてきてくれない?」


「なんで俺なんだよ、他のやつといけよ」


「そそそその男の人にプレゼントを贈りたいの! それで、その……あ、あんたくらいしか頼れる男の人がいないから仕方なく、そう仕方なくなんだから!」


 パーティーは俺以外全員女子だ。

 少女には男友達がいないのかもしれない。


「わかったわかった」


 俺は仕方なくついていくことにした。



  

 ハンカチを贈りたいとのことだったので、二人でその手の店に行き、物色し始めた。

 

「わっ、これ見て! すっごく可愛い!」


「目的ズレてないか?」


 少女が見ていたのは可愛い柄のハンカチだ。


「はっ! 男の人に贈るハンカチを探しに来たんだった」


「これとかどうだ?」


 俺が指差したのは落ち着いた色合いの物だ。シンプルながらも、どこか上品な印象である。


「こういうの、あんたは好きなの?」


「まあそうだな。いいと思う」


「っ!? こ、これにする!」


 そう言うと、ダッシュでレジに向かって行った。


 俺はふと、さっき少女が見ていた可愛い柄のハンカチが目に入った。


 



「きょ、今日はお買い物付き合ってくれてありがと」


 店を出て、通りを歩く。


「……はい、これ」


 少女がおずおずと差し出してきたのは、さきほどの落ち着いた色合いのハンカチだった。


「ん?」


 誰か贈りたい人がいるという話ではなかっただろうか?


「だから……その……あ、あんたに、贈りたくて」


 相手はまさかの俺だったようだ。 


「そうだったのか。ありがとな」


 俺が礼を言うと、少女は耳を赤くしていた。

 

 今までの反省代のようなものだろうか。 


「俺も、渡したいものがある」


「……?」


 少女がさきほど見入っていたあの可愛い柄のハンカチを差し出した。

 実はひっそりと購入しておいたのだ。


「え、これ!?」


 驚愕に目を染める少女。

 サプライズで買った甲斐がある反応だった。


「その……まあ、プレゼントってやつだ」


 ぎこちなく、俺はそう答える。

 

「正直お前のことは気に食わないし何考えてるかもよくわからん。でも戦闘中、俺に回復魔法とかバリアとか戦況を見極めて適度に唱えてくれるから……。まあ、その礼だ」


 いいところもあるし、好きになれない部分もある。

 それでも、仲良くしていきたい。

 俺達は同じパーティーのメンバーなのだから。 


「……ありがとうっ! 一生、一生大事にするからっ!」


 少女は心の底から嬉しそうにはにかんだ。

 その笑顔に俺も口角が自然と上がった気がした。 


「一生は無理だろ。いつかボロくなるし」


「ボロくなっても使えるもん!」


「そうなったら買い替えてやるから、無理して使うな」


「次も買ってくれるの!? あああありがとっ!」


 早口でそう告げる少女。

 ハンカチを落としそうになっているが、大丈夫だろうか。 


「あ、あんたのも、ボロくなったらまた買ってあげるから! べ、別にあんたに喜んでほしいわけじゃないんだからねっ!?」


「お互い様ってやつだな。でも、ありがとな。すごく嬉しい」


「はぅぅぅうう?!」


 変な声を上げていたが、その表情はどことなく嬉しそうであった。 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ツンデレ美少女に「あんたなんかいらないんだからっ、出ていってくれる?」とパーティーから追放されかけたので素直に従おうとしたら引き止められ、なぜかそれ以降美少女がやたらと構ってくるようになった件 水面あお @axtuoi

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画

同じコレクションの次の小説