3.なぜ小説?
文書を書くということは嫌いではなかったし、むしろ好きだった。
ただ、これだけでは語弊があるので説明する。
まず、基本的に文章を書かされるのは大嫌いだ。
手紙、自由作文、読書感想文、日記、レポート…………
主に学校で課題として出された、これら受動的な“作文”には度々苦しめられてきた。小学校の卒業論文みたいなものを見返すと、抽象的で無難な内容であり、「あ、こいつやる気ねえな」とすぐにわかる。
その一方で、自分の意思で筆を執るときは、これが別人に変わる。
最も古い思い出は小学五年生。手元に余っていた四百字の原稿用紙二枚に物語を書いた。
ストーリーは小学生らしいといったら多方面の大勢に失礼かもしれないが、下品なネタが存分に盛り込まれ、登場人物が著作権に厳しい、某夢の国の住人たちだったため泣く泣く割愛する。
完成した物語はクラスの仲がいい男子に回し読みされ、好評を得た。
月日は流れ、大学二年。
当時、熱烈にハマっていたYouTubeチャンネルがあり、私はそのメンバーの一人についてWikipediaと並ぶほどに詳細な記事を書いた。
本人からも公認を得て、たくさんの人から称賛のコメントが届いた。
動画をすべて見返し、あらゆるネット上の情報をかき集めたため、制作に費やした時間は三、四か月ほどに及んだと記憶している。その道のりは大変ではあったものの苦ではなく、自分がそのコンテンツに関して圧倒的な情報量を持っているという勝手な優越感から体験したことのない楽しさを覚え、より高いクオリティを求め仕事のように熱心に取り組んだ。
このように、自ら書きたいと思って連ねた文字には、魂とも呼べる確固たる自信と質が込められ、能動的な“作文”はもはや私の得意分野の一つになった。
大学四年の四月中旬。授業中にふと降りてきたストーリーの書き出し。「これは面白い!」と思った。
授業のことなんか放り出し、すぐに設定を考え始める。
私はこんな物語を書きたかった。
***
時は現代日本の四月。主人公は高校二年。今日から新学期。
主人公は仲のいい女子に朝の挨拶をしたのだが、彼女は主人公のことを全く知らなかった。
その謎を解き明かし、記憶を取り戻すために主人公含む四人の生徒が、超能力を駆使して戦ったりなんやかんやする、学園系現代ファンタジー。
タイトルは……「記憶」とか「メモリーズ○○」とか……?
***
早速、シャーペンを右手に持ったまま、スマホのメモに文字を入力していく。
これがもう本当に楽しかった。九十分の授業時間では足りないくらい、言葉がどんどん溢れてくる。
その日以降、話を聞いていなくても単位が取れそうな授業では毎回のように物語を書き進め、家でもPCで本格的に執筆するようになっていった。
ある程度話の流れを決め、第一話が自分なりに体を成してきた頃、ある一つの懸念が生まれた。
二年一学期からではなく、一年の入学式から書くべきではないか?
夢の出発点となったシーンは、主人公がヒロインに忘れられていることに戸惑うというところだ。
この場面から話を進め、後で過去編をやるか、スピンオフ的な作品を別で作ろうなどと最初は考えていた。
しかし、それをやろうとすると、設定や舞台背景の説明を一から書かなければならず、情報量の多さからストーリーの理解に支障をきたすだろう。
プロの作家でもなければ、普段まともに本も読まないような私が、いきなりそんな高度なことができるはずもないと、時系列をあえて逆にする“オシャレ路線”は断念した。
となると、一番やりたかったシーンを描くには、そこに行きつくまでのあれこれを作り上げる必要がある。
こうして私は、主人公が二年一学期の始めに驚くワンシーンを描くためだけに、そこに至るまでの一年分のストーリーを描くことにした。小説なら自分で絵を描かなくて済むし、文章だけなら表現できそうだと思ったのだ。
文章を書くにあたって、基本的なルールを勉強した。
・三点リーダー(…)とダッシュ(―)は偶数セットで並べる。
・感嘆符と疑問符の後ろは一マス開ける。
他にも、暗黙の了解を含めていくつかのルールが存在する。
上記二点すらできていなかった私は、作品を公開する前に文章を直した。
初めに講義室で浮かんできた文がこれだ。
――――――――――――――――――――
「○○さーん!おはよー!」
○○はいつものように、いやいつもよりも元気よく仲の良い女の子に話しかけた。
「・・・誰?」
「へ?」
――――――――――――――――――――
ルールに則って修正するなら、今の私はこのように書くだろう。
――――――――――――――――――――
「○○さーん! おはよー!」
俺はいつにもまして元気よく、仲のいい女の子に朝の挨拶をした。周りの生徒たちは俺の大声にびくりとしながらも、一瞬鈍った足を再び動かし大きな校舎へ向かっている。
「……誰?」
「え?」
――――――――――――――――――――
当初、三人称視点の構成を考えていたが、主人公の心の声をたくさん書きたいという理由から、一人称視点に切り替えた。
バトル要素がちらつく作品ではあるものの、日常系のアニメに傾倒していたこともあり、あまりガチ戦闘は描かずに、基本はコメディ展開を大事にしつつ、ときにシリアスで闇深いストーリー構成を目指した。
タイトルを決め、キャラや舞台となる学校、異能の設定を練り、サイトに連載という形式でアップしてみた。
それがここ、カクヨムだ。
理由は特になく、ただ何となくで。
まずは作品を読んでもらわないことには始まらないため、カクヨムユーザーが誰でも参加できる“自主企画”というところに「黒いマジック」を張り付けてみた。
反応はいくつかあり、いいねや作品の評価を貰った。
しかし、コメントはなかなか付かず、自分の作品がどう思われているのかわからない。
そこで、ある企画を思いつく。
カクヨムには小説や俳句などのほかに、創作論・評論というジャンルもある。
中にはサイトに投稿されている小説を読み、レビューを書くということをしている人もいて、自分もこれをやってみようと考えた。
題して、「本気で読み合いしたい人の溜まり場~みんなで作品を育てませんか~」
この読み合い企画を経て、私の作品は大きく進化することになる。
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