空色杯応募作品

海埜水雲

長くは続かない


健二は疲れ切って家に帰ると、さやかが「おかえり」と背伸びをしながら抱きしめてくれた。少し気まずくなり、健二は「仕事を辞めてきた」と告げた。「どうしたの?」とさやかが尋ねる。健二はため息をつき、「もう無理だ」と言った。


さやかは「お疲れ様、私がご飯作るね」と言い、台所へ向かう。健二が着替えて戻ると、さやかは踏み台に乗り、必死に食器棚の上段から大皿を取ろうとしていた。「これ、取るよ」と健二が手を伸ばすと、さやかは「もう少し背が高ければいいのに」と笑った。


その時、レンジが米を温め終わった音が鳴る。カレーを盛り付け、二人はテレビの前のテーブルに並んで座った。「いただきます」と手を合わせ、食べ始める。


何気にテレビをつけると、中学生女児誘拐事件のニュースが流れ始めた。「またやってるよ」とさやかがため息をつく。健二は「消すか?」と尋ねるが、さやかは「どっちでもいい」と答えた。


健二はカレーを頬張りながら、さやかに「本当にいいのか?」と聞く。さやかは「うん、帰ってもいいことないし」と笑ったが、その目には少し悲しみが見えた。静かな時間が流れ、健二はふと呟いた。「ここもそろそろ出ないとな」。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

空色杯応募作品 海埜水雲 @kouhuu

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る