第1話

バシュン


「ここは…?」

「親愛なる国民の皆さん。今日は特別な日であり、厳粛な日であり、間違いなく歴史的な日であり、真実と正義の日である。

ソビエト連邦が誕生した時代やロシアがウクライナを作った時代に立ち戻らずにはいられない。

現代のウクライナを作ったのはロシアであり、ロシアの歴史的な広大な領土と国民を与えたが、どこに、どのように住みたいのか、自らの将来や国家について何も問われなかった」

「くっそ、2023年のロシアかよ!もう一度!」


バシュン


 5837年、多元宇宙論が立証され、異なる宇宙間でのテレポート技術が確立された。

 テレポート機器の小型化が進むにつれ、テレポート機器のバリエーションは増えていき、コイン型や人体内臓型など様々な物が展開されている。

 先ほどからテレポートを繰り返しているのは牟田口泰典、17歳。

 彼が持っているのはランダムな惑星の、ランダムな時代に、ランダムな知的生命体の肉体に自分の精神を転移させるタイプの機器を持っています、コイン型です。

 彼は20世紀前半に流行った“とある世界”を求め転移を繰り返している様ですが……、果たしてどうなるのでしょう?


バシュン


「ここは…?」

 薄暗く、埃っぽい。

 やけに視線が低く、声も高い。

「これは鉄格子…?」

 首輪がついているのか首が重い。

キィィィ カツカツカツカツ

 何者かが歩いてくる。

 ここもハズレかなぁ…

「出ろ」

 鉄格子が開かれ、首輪についているチェーンを強く引っ張られ、外に出される

「うぁっ」

チリーン

「!」

「あ?お前金なんて持ってたか?」

 男がテレポート機器を取り上げる。

「ちょっ、それは…」

「まあいいや、貰うぞ」

「ちょっ、返せ!」

「暴れんな!奴隷如きが人間様に歯向かってんじゃねぇ!」

ガン

「ぐはっ」

 腹部を思いっきり蹴られ、意識が朦朧とする。まともに力が入らず、されるがままになってしまう。

「はぁ〜…。全く、手間かけさせんなよ…」

 首輪を掴んだまま引きずられ、店の外に連れ出される。

「こんにちは。アークさん。それが今回の廃品ですか?」

「あぁ、最近仕入れたが今のトレンドの品種じゃねえ、魔法もスキルも使えないんじゃ使い物にならん。処分頼んだよ。確か前払いだっけ?」

「はい。どこに捨てましょうか?」

「あー、南にある離島あるだろ?」

「カリエス諸島ですか?」

「そこら辺で頼む」

「では、40万ゴールドですね」

「高いなぁ…」

「まあ、安全のためにはこのくらい離れていたほうが良いでしょう」

「そりゃそうだな」

「しかし、子供の狐獣人、それも雌ですよね?一定の人気はあるのでは?」

「スキルが使えないのが欠点でね。全然売れないのさ」

「しかし、こいつは見事なまでに白い…。白い毛並みの品種は2年前の流行でしたっけ?」

「あぁ、今のトレンドは水色だな。はい、40万ゴールド」

「では、それをこちらに」

 乱雑に地面に投げられる。

「首輪はどうしますか?」

「外しておいてくれ。最近高いんだ」

カチャカチャ

「では、転移させますよ」

「あぁ」

 体が光に包まれ、やがて視界が光で埋め尽くされる。

 そして意識がはっきりしてきた頃には絶海の孤島に飛ばされていた。

「酷い目に遭った… しかし、ここは一体?」

 辺りを見渡しても、青く透き通った綺麗な海、ダイヤモンドのように輝く砂浜、そして殺伐とした雰囲気を纏っている森林しかなかった。

「ここは、無人島なのだろうか?」

 正直言うと、人がいるようには思えない。

「うーん... ここからどうしようか?」

 今できることは、限られている。飲み水の確保、食料の確保、寝床の確保、人(獣人含む)を探し回る、他色々。救助など来ることはないので考えるだけ無駄だ。

 実際、人間は水だけで二週間は生き残れると聞いたことはある。しかし、今の俺は獣人の子供。この世界の情報はほぼ0と等しい。だから、今までに培った知識を用いるしかない。

 色んな世界を巡るためのコインも取られてしまった。

 なので、今後はサバイバルをしながら方法を探さないといけない。タイムリミットは、まあ死ぬまでが妥当だろう。

「まあ、まずは飲み水からかなぁー」

 どんだけ考えても、正解はやってこないので、今はできることをする。ただそれだけだ。

「この殺伐とした森林に入るしかないのか?」

 海水を飲む馬鹿はいない。しかし、綺麗な水は消毒でもしない限り飲めないだろう...

「まずは、人間が捨てたゴミが海岸にあるはずだ。」

 元いた世界もそうだった。海岸に流れ着くゴミ達は、環境問題になっていた。正直、どこぞの世界に生きる食物連鎖の最上位で、知能がある動物は馬鹿でペテン師でクソだと思っている。それは、自分もそう。自分では何にもできないくせにでしゃばってくるやつしかいない。

 と、そんなことを思いながらとても熱されている砂浜を進むと

「わーお。何にもないじゃん」

 しばらく海岸を歩くもののゴミ一つない、あっても流木や砂に塗れた海藻である。

 しかし、砂浜の端の方に行ってみると複数個木箱のような物が流れ着いていた。

「なにこれ?」

 中を開いてみると沢山の新聞が入っていた。

 内容は様々だが政治関連の物が多い気がする。

「えーと、“6大陸のうち社会主義勢力はオーシア、ルミネア、ミラグラードの東側3大陸のほぼ全域を支配、国家無神論を目指し、西側諸国と敵対している”

“社会主義統一党率いるカール連邦とゲルニア共和国はカリエス諸島をゲルニア共和国に割譲する事で合意”

“西側諸国は教会の関係者を政府の高官に就任させることで合意。教会の影響を利用するのが狙いか”

“教会は獣人に対する抑圧を強化、社会主義統一党以外の勢力はこれを承認。国際社会における獣人の立場はより一層低くなる”

“社会主義統一党は獣人に対する新たな法律を施行、自国民の獣人が農村部以外に3日間留まるのは違法に。更なる労働力確保の狙いか”

“自然信仰の背神者達に鉄槌を!(教会が出してる新聞)”

“阿片に取り憑かれたプチブル達を轢き殺せ!(社会主義統一党の党新聞)”

この世界での獣人の立場はかなり低いっぽいな…

それに、こんなに大々的に新聞に差別が掲載されるってことは、ほとんどの国民にも差別が蔓延してるんだろうな…」

 新聞を読み進めて行くと、この惑星にはスキルと呼ばれる特殊能力が存在することがわかった。

 またスキルをもっていないと全ステータスが固定になり、レベルアップによるステータスの上昇も起こらず、道具などを装備してもステータスが変動しない事が判明した。

「まともに戦闘もできないのか...これは相当厳しいぞ...」

 とりあえず水の確保は厳しそうだから...寝床になりそうなところを探そう。

 しばらく探索を続けていると以下の事がわかった。

・この体は12歳ほどである

・年齢相応の身体能力はあるが年齢が年齢なのでまともに戦闘はできない

・やけに耳が良い

・なぜかホッキョクギツネ(白)の姿になれる

・ホッキョクギツネの次の時は身体能力は移動速度が1.5倍になるのみでステータスは変動しない

・この世界のグローバル言語の読み・聞きはできるが、会話と書きはできない

・この島にはヤシの木や川魚などがいる

 さて、もうかなり日が傾いてきたし寝るとしよう。

 枯れた草を敷き詰め、その上に被さるようにヤシの葉を複数置く、ベット代わりである。

 ブランケットはこの体に転移した時に身につけていたボロ布で代替しよう。

 満天の星の下、少女はただ一人眠るのであった。

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