Eternal Organ ZERO

ECHO3

第1話 暗黒大陸~Dark continent

揺れが止まる。

手足を縛られたうえに顔を布袋に包まれ、ゴミ収集車に詰め込まれる粗大ゴミかのように軽トラックの荷台に詰め込まれて数刻は経っていた。

これから起きるであろう事を考えると車酔いも合わさって腹にあるものが溢れ出そうとしてくるがこれをどうにか精神力で抑える。

少し離れた所からチャキッと金属部品が擦れる音、自分はこれを拳銃の薬室に弾丸を装填している音だと瞬時に理解した。

スリングの金属部品が下げているだろう銃やベルト等に当たって鳴る音とともにガツガツとたてる足音が近づいてくる。

そして自分の首根っこを掴んで持ち上げてくる。頭の右側に袋越しで拳銃の銃口を当てる感触がある。自分の首根を掴む男はアラビア語で降りろと言っている。従わなければ殺されるため自分は男の従いに応じることにした。

荒っぽく誘導してくるため荷台から転げ落ちてしまい男達に蹴られたり殴られたりしたがなんとか自分はどこか椅子のような場所に座らせられ手足をロープか何かで椅子に固定された。実は足を痛めていたので座らせられるのには助かった…手足に自由がないことを除けばだが。

殴られた所で歯止めが効かなくなり胃の中に入っていたMRE戦闘糧食だった物が食道を通って逆流し、口の中がしょっぱい。

ふと子供の時に観た「ブラックホークダウン」が頭をよぎる。その映画で敵に捕まった米兵がいたのだがそいつがどうなったか思い出せない。彼と非常に似た状況に立っているのに思い出せない。結局救出されたのか殺されたのか、はたまたそもそも明かされなかったんだったか。

カメラの三脚を複数立てているような音が聞こえた所で現実に戻った。次にピピッと携帯、もしくはカメラの起動音のようなものが流れると袋越しで3点の強い明かりが付いた。

そしたら突如目の前を覆っていた布袋が取られた。


布袋の暗闇に慣れた目が眩む_____




*****




__________遡ること数時間前

2032年7月5日 現地時間03:00

南アフリカ共和国 ヨハネスブルグ郊外上空


始まりは34時間前に遡る。長い間対立し続けた枢軸国と西側先進国達はお互いに歩み寄りをし始めて遂に南アフリカで講和会議が開かれることとなった。枢軸は勿論のこと西側からも政府要人が集まる。

だが、枢軸は一枚岩ではなかった。いわゆる過激派の武装勢力がこの講和会議を襲撃した。

現地警察と南アフリカ国軍、その他武装した民間人やPMC民間軍事会社等が現在対応しているが最悪なことに武装勢力は政府要人も一部を人質に取っている。さらに最悪なことがもう一つ。人質の中には自分こと黒部半蔵の父親である黒部十蔵が含まれていることだ。

そんな自分は特戦群だったため、米軍とうちのお偉方から誘われUSSOCOMアメリカ特殊作戦軍タスクフォース合同任務部隊に加わることになった。そして今、一生行くつもりなんか無かった暗黒大陸の果てにいる。


自分が入ることになったチーム【Xray】はプレトリアから南に行った所にある空軍基地からナイトストーカーズ第160特殊作戦航空連隊所属のティルトジェット機に乗り込んで出撃した。

今まで薄暗かった機内が完全に暗転する。

地図が載っている携帯端末を確認するとブリーフィングの時に聞かされた先行している【Gregory】チームとの合流地点が見えてきたことに気付く。

そろそろ降下の時が来たようだ。ヘルメットに付けているゴーグル型の暗視装置を目のある所まで下げる。手元すら見えなかった機内が、碧みがかった視界でくっきりと見えるようになり機内反対側の席に座ってるヘンリーとビケット、それにハーマンの三人それぞれの頭の上に緑がかった逆三角形のエフェクトがかかる。これは暗視装置に内蔵された敵味方を示す表示機能で、敵の場合赤くなり民間人などは黄色になるらしい。まだ米軍にしか導入されていない最新鋭の装備らしく少々分かりにくい色だが敵味方識別装置すらない我が国の特殊部隊の装備よりも優れている。

チームリーダーを務めるヘンリーが無線機の送信ボタンに手を伸ばす。

「Xray2-1からGregory1-1へ、ランデブーポイント合流地点まで残り30秒を切った。降下準備に入る」

≪こちらGregory1-1、了解。DZ降下地点は確保出来ている。目標は依然として予断が許されない状況だ。そっちの坊主のためにも全力を尽くすよ≫

≪伝えとく、オーバー≫

機内で隣に座っている白人海兵のジェイクが陽気に話しかけてくる。

「お前のことだな」

「わざわざ言わなくても良い物を」

「そういって実際のとこは心配だろ」

「当然だ。じゃなきゃ参加しない」

「素直だな」

「嘘を言えば良かったか?」

「そん時はツンデレって言ってやる」

「本場日本じゃツンデレは美少女にしか許されない特権だ」

そんな雑談をしている内に機体はホバリング動作をし始める。

ACS光学迷彩システム解除、ハッチ開放」

パイロットがそう言うと密閉空間だった機内に外の空気が風となって切り裂くように差し込んできた。

ハッチが開いた瞬間にファストロープのフックを天井部にある金具に引っ掛け、ハッチが完全に開いた所で地上を見やる。味方を示す緑色のアイコンと薄っすらと片膝立ちをしてこちらを見つめる4人の人影を確認する。薄っすらとしか見えないのは特殊部隊が着る最新の対赤外線戦闘服なのだろう。そんなのを着ている特殊部隊はこの地にGregory以外恐らくいない。

それを確認してすぐに降下する。ジェイクやビケット、ハーマンにヘンリーも後を追うようにすぐに降下していく。

すぐにロープから離れて付近に警戒を走らせる中、背後では自分達が使ったファストロープは切り離され特殊作戦用ティルトジェット機はホバリングを辞め、ハッチを閉めると同時にACS光学迷彩システムを起動させて街の真夜中に溶け込んだ。

無線機から全体に対して発信されている音声が流れる。

≪Warlord、こちらSaviour0-2。全Xrayの配置完了。これより上空支援に移る≫

≪こちらWarlord、了解。Saviour0-3と0-4はタイミングを合わせて屋上にYankee及びZuluを降ろす。XrayとGregoryは合流後すぐに地下道から会場へ侵入せよ。オーバー≫

ヘンリーが胸先辺りにある小型の長距離通信機のボタンを押す。

「了解、Xrayアウト」

そして通信機から手を離して薄い人影に顔を向ける。

「Gregoryだな?Xray2-1だ」

「ああ、Gregory1-1だ。地下道へ案内する」

Xray2-1とはXrayの指揮官であるヘンリーのことだ。ビケットは2-2、ハーマンは2-3でジェイクは2-4。そして自分は2-5である。ちなみにGregoryは指揮官の1-1から以下1-4までいる。

遠くで銃声や砲撃音に絶叫が鳴り響く、そんな中を自分たちは進んだ。枢軸の過激派勢力が講和会議を襲撃したと言ったが正確には誤りで、過激派勢力は講和会議の会場だけでなく街の至る所に襲撃のため潜伏していた。 そのため会場の外でも散発的にゲリラ兵が出てくる状態で、なおかつ大分治安は良くなっていたらしいが未だにスーパーマーケットにAKで武装した警備員がいる国であるため街中で警官どころか民間人を交えた戦闘が起きている。

Gregoryの4人は事前に知らされていた地図上では湖のある方向に向かっていた。周りを警戒しながら湖に到着し、Gregory1-4が指をさす。指をさす方向にはあるのは大きく開いた穴、放水路だ。

この放水路は共同溝と繋がっており、さらに会場となる美術館と地下の共同溝は整備目的で繋がっているらしく、そこから侵入する。

湖の浅瀬を歩きながら放水路の入口にたどり着いた。


「想像以上に臭うぞ」

ビケットが鼻を摘まみながらそう言う。たしかに臭い。

Gregory1-3が

「偵察時には放浪者の集落が出来る寸前だったからな」

と、語る。

「ホームレスから漏れて仕事失敗したら最悪ナンバーテンどころじゃないぞ」

ハーマンはちょっと心配そうに言った。

自分はナンバーテンという単語は死語じゃないのかと思う。

Gregory1-1が安心しろとでも言う風に

「そいつらは中佐のポケットマネー使ってバイキングのレストランに送らせた」

ジェイクは笑いながら

「そいつぁ良い。大佐も太っ腹だな」

と言い、Gregory1-2が

「あぁ…帰ったら殺されるがな」

と何やら不穏なことを言う。

ジェイクは苦笑いしているが顔が笑ってないし、ビケットに関してはこの世の終わりかのように青ざめている。ハーマンとヘンリーは「ご愁傷様」とでも言いたげな顔をしている。もっとも全員暗視装置のせいで目元が分からないが。


放水路に入ってから5分ほど経ち電線や配管等が出てくるようになって来た。そろそろ会場が見えてきても良いと思っていた時に上に向かう錆びついた梯子が地下道右側に見えた。

「1-3、1-4、先の方に行け。俺はこっちをする」

了解ラジャー

了解ラジャーボス」

一番先頭を歩いていたGregory1-1が構えながら持っていた、一般部隊で6.8mm弾が普及してもなお特殊部隊で使われ続ける.300Blackout弾が込められた自動小銃(アサルトライフル)を背後に回し、消音器を付けた拳銃に切り替える。右手に持った拳銃を梯子の先にあるハッチを指しながら梯子を音立てないように登っていき、あっという間にハッチの手前まで登り切りハッチを開け外に出ると全員の短距離無線用のヘルメット内蔵通信機から«クリア»とGregory1-1の声が届いた。

1-1からの命令通り更に地下道へ進んでいくGregory1-3と1-4を除いて次々と皆登っていく。


腐った水の臭いが充満する地下道から出ると草の臭いと外国にいることを確認させるかのように日本では感じられない熱気が包み込む。外は塀と会場となっている6階建ての建物の壁との間で人が3列に余裕になって並んでも大丈夫なほど幅があった。月明かりと街の至る所にある街灯によって照らされていたためそこまで暗くはなかった。

建物と塀はレンガ造りで一見新品な色合いをしているがレンガブロック一つ一つが経年劣化でボロボロ取れていたりする。建物には展開されていない避難用の2連式梯子があった。

最後尾にいたヘンリーが外に顔を出し全員が地上にいることを確認。

Gregoryとはここで別れ、我々Xrayはこの避難用梯子を展開して会場がある3階へ侵入する。

Gregoryはこの梯子とは別の方法で2階に侵入しセキュリティルームを制圧する。

Gregory1-1と1-2は既に我々から見て建物の端まで行ってしまった。

「XrayからSaviorへ、全要員が塀の内側に侵入成功」

«こちらSaviour0-2、空中からも視認した»

«Saviour0-1から各員へ、空中部隊はSCSサウンドキャンセラーシステムを使用しながら作戦空域に侵入。0-3から0-4は降下準備に移る»

SCSはエンジン音と全く逆の波長の音を流すことによりエンジン音を消すシステムだ。

だがこのシステムは速度を大きく落とさなければならないという大きな弱点を抱えていた。

«Gregory1-3から各員へ、そちらが準備出来次第で電源を落とす»

«Gregory1-1、こちらは突入準備完了»

「こちらXray、少々待ってくれ。2-5!先に行って梯子を降ろせ!」

「1人で登れるのかよ」

「やってみなきゃ分からないさ」

ビケットの言葉にそう返した。

左右の足に外付けされた強化外骨格によってちょっとしたジャンプでも地面から約1m離れられるぐらいには跳躍力が上がっているため助走を付けて跳べば3〜4mはある梯子まで届くかもしれない。

軽く助走を付けて跳び梯子を掴んだ。そのまま登っていき梯子にあるロックを解除し2連式 梯子を降ろした。

さっそくジェイクが登ってきて「よくやったぞブラック」と相変わらず陽気な口調で言われた。

ジェイクは少し日本語を齧っていたらしく自分の名前を知ってからブラックと言ってくる。

それはそうと馬鹿にされた感じがしてあまり良い感じがしないので不満気に「黒部だ。俺は黒人じゃない。それと、こんなの猿でも出来る」と言う。

「猿のほうがもっと早く登れる」と返事が返って来た。ここで「イエローモンキー」とか言ってこない所がジェイクの魅力だろう。

ジェイクの後ろから続々と登って来ている。ハーマンが次に三階に辿り着く。

一方ヘンリーとビケットは二階の方にいる。2人は違う方法で侵入する。

«こちらSaviour0-1、残り30秒で降下する»

«Gregory1-1、セキュリティルーム制圧。監視カメラから人質の状況を確認する…人質を確認。危険な状態だ»

少し遠くからティルトジェット機のエンジン音が聞こえてくる。だがSCSによって実際に流れるはずの騒音よりも小さく、まるでイヤーマフを通して聞こえるような感覚が耳を通して脳を麻痺させるように。

«こちらYankeeリーダー、Zuluと共に降下する»

「よし、俺らもそろそろだぜ」

「スキャンしたが爆薬は仕掛けられていない。鍵をすりゃ良い」

ジェイクに促されるように言われ、自分は持っていたショットガンを鍵穴の少し右にずらしてかんぬきを狙うように構えた。

深い深呼吸をする。そして…

「スリーカウント!1…2…3!」

2発ほど撃ち込んでかんぬきがあるところを粉砕させる。

施錠されているドアを破壊して突入エントリーするこの行為はドアブリーチングと呼ばれ突入機材エントリーツールにはスレッジハンマークソデカハンマーハリガンバーバールもどきバッテリング・ラム鉄の一物などなどの工具を使ったメカニカル・ブリーチングという手法があるが、今回は即応性が重視されたためショットガンマスターキーを使ったバリスティック・ブリーチングという手法を採用した。

「Xray2-5、建物内に入る」

かんぬきと共に鍵穴が粉砕された扉を蹴って建物内に侵入するのだった。


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