第十話
私達は、これから街同士をつなぐ街道を整備するため、【魔法少女】の力を使う。
なるべく【高層ビル】の入ってくることのない山地などの部分を人が通れるように、魔法でどうにかするのだ。
戦力は、私とみりはちゃんの二人。ゆいはまた街の防衛に徹してくれる。
今回も、みりはちゃんをこんな危険なことに随伴させてしまうことには悔しさがあるが、直接戦いに行くわけでもないし、何かあれば私が守ればどうにかできる。
こういうことを魔法で行うのは前代未聞というか、今までしたことがない。それでも、これからはこんな事では済まないような前代未聞の数々に挑まなくてはならないのだろう。少なくとも、千メートルを超える【超々高層ビル】に挑むことは確定はしているのだし。
「準備はできた?」
「うん」
「行こうか」
肝心の整備・舗装自体は整備班がやることになっている。私達の主要な任務は、少なくとも一般の人が通れるような道を切り開き、そして、ねむりちゃんやゆうねちゃんの居る街につなぐこと。整備班は一般人が務める。【魔法少女】以外の任務成功率は何にしろ低いのだから、その任務がなるべく成功するようにする責任を私達は背負っていのだ。
私個人の思いとしては、これによって街への【高層ビル】の侵入経路を減らしたり、人の逃げる道が確保されて守るべき人をより守りやすくなったり、今後も広げていく道路網によって【魔法少女】同士の連携を上手く取れるようになってほしいと思う。
まだまだ【超々高層ビル】を倒すには【魔法少女】の協力が必要だ。その一歩をまた踏み出す。
——街道整備は順調だった。いや、順調過ぎた。旧道はなるべく使うようにして、山の地域では山登りにはならないように、人が簡単に通れるような道を切り開いていたのだが、どうしても山は大きい。だがみりはちゃんはやってしまった。歴史の神話でも、山割りという話は聞いたことが無いが、それはそれは、どこからか小気味よく「ぱっかーん」というような効果音が聞こえそうなほどに、山はみりはちゃんによってあっけなく割れてしまった。
「……山、割れたね」
「わったから」
こうもすごい事をされると、現実みが無い。現実に起きているということをぼんやりとしか理解できなくなる。驚いた反応を時間差で見せてしまった。
「え、みりはちゃんすごいね⁈ どうやったの?」
「がんばった」
「がんばったのか〜」
頑張っただけでできるなんて! でも、それを頑張ればできてしまうみりはちゃんに、私は追い着きたい。
「みち、たいらにして」
「あ、うん」
私は、人間の通れそうなように道を均していく。その間にみりはちゃんは、【高層ビル】がやって来ることのないように、ぽんぽんと土砂で法面を造ってしまう。
私達が使うのは、正真正銘の「魔法」だったはずだが、なんだか今は本物の魔法を見ている気分だ。今まで私達は魔法を全く使いこなせていなかったということがよく分かる。
「すごいや」
作業は【高層ビル】と遭遇しないルートで、街との直線距離に近付くように作っているので特に気を張ることは無かったが、一方で坂には苦労させられた。上りも下りも体がきつい。
手を動かし続け、休憩できるような小屋を定期的に作っては休む。街道を歩くことになる人の休憩場所も兼ねているので、設備も二人で使うには少し豪華にして、快適に休めるのがありがたい。
「いつもは平地で戦ってばかりだから、坂で体がきついよ〜」
「……くんれん、ふやす?」
「あぁ、はい」
……余計なことを言ってしまったかもしれない。いや、みりはちゃんが私を心配してのことだから、ありがたく受け取ろう。
——そうして、私達の街道整備は四日続いて、特に何事もなくゆうねちゃんの街に着いた。
「おかえりなさい、みりはちゃん……ゆめさん」
ゆうねちゃんの「おかえりなさい」という言葉に、希望というか、今までの疲れがどっと体中に出てきて、私達の仕事は一区切り付いたんだという気持が出てきた。
思わず道に寝っ転がってしまう。
「え、ちょっと、ゆめさん大丈夫?」
「大丈夫〜。寧ろみりはちゃんがぴんぴんしてる方がおかしいと思うよ。そのくらいの苦行を五日だったか連続でやってきたから……」
本当に、みりはちゃんは私よりも年下なのだろうか。そもそも年齢を聞いたこともないし、その可能性はあるのかもしれない……? でも、可愛いからきっと私より可愛い年齢はしているはずだ。
「とにかく起きて、休もう?」
「は〜い」
ゆうねちゃんに起こされ、ゆうねちゃんのお家に行く。中にはお姉さんのいちはさんも居た。
「こんにちは〜」
「こんにちは。泥だらけですね」
今までの事情を二人に説明する。以前渡したみりはちゃん謹製の本にも触れられているので、すんなり納得してもらえた。
「それで、まぁ、今後私達の均した道を舗装する協力とか、私達の街との協力とかが今後色々あるので……どうでしょう」
話は通じているので大雑把に訊く。
「事前に話は聞いていましたし、食糧が確保できるのならば、私達に拒む選択肢もありません。道の舗装に関しても、できる協力は惜しまないつもりです。これは、街全体としての結論になります」
「ありがとうございます」
こちらは問題が無いとは思っていたので、ひとまずは良かった。
「次は、あの、敵対していたっていうことになってしまっていた、ねむりちゃんの街に行こうとしているのでそれも話合いなどに協力してほしく思っていて」
「それも私達が行いましょう」
「助かります」
この街で一日だけ休んでから私達はねむりちゃんの居る街まで行くことにした。その街までの今の地形の情報などは知らないので、その情報も集めつつだ。勿論、ゆうねちゃんには街の防衛のために残ってもらった。
昔の地図を基に私達は、ねむりちゃんの居る街があろう所にまで歩く。
二つの距離は比較的短く、また特に作業もないので一日半で辿り着いた。今回は【高層ビル】も現れる可能性のあるような平野を歩くので、警戒度合は引き上げたが、結局何事も無かったのは良かった。
「この街もなんか寂れてない?」
その街が見えた時、私は思わずこう言ってしまった。
その街もゆうねちゃんの街と同じく、どこか暗い様子だったのだ。
「やっぱり【高層ビル】は早くこの世から消えてもらわないと……」
これが【高層ビル】が居る世界の現実で、これでも明るい方だということは知っているが……。
街に入ったら、ねむりちゃんを捜す。
ただ、簡単には見付からない。何も約束もしていないし、お互いに何も知らないので、会えない。もし家の中に居たらすれ違うことすらないので、地道に聞き込みをしよう。
——すれ違う街の人達にねむりちゃんの居場所を訊いていたら、夜になってしまったが、ねむりちゃんの家に辿り着くことができた。
こんこんノックをして待つ。
「あら、こんにちは」
多分、ねむりちゃんのお母さんだろうか。
「ねむりちゃんのお家ですか?」
「ねむりのお友達? ねむり〜来なさい〜。お友達よ!」
お母さんがそう言うと、遠くで「は〜い」と聞こえてきた。
少ししてねむりちゃんが降りてきた。
「あ、みりはちゃんとゆめちゃん!」
「来たよ」
「待ってたっすよー!!」
そういって、私にだきついてきた。
「何しにきたんすか? 寂しくなって会いに来てくれたんっすか?」
「いや、それは違うけど」
「ええ〜。そんなご無体な」
茶番も一まず、ねむりちゃんのお母さんに案内されてねむりちゃんの家の中に入った。
中は、ゆうねちゃん、いちはさんの家とはまた違うけれども、「家」という同じような感じがする。外はこんなにひどい状況で余裕も無いだろうに、お母さんはねむりちゃんのお友達だからとお茶を出してくれた。ありがたい。
「私に早く会いに来てくれたことは嬉しいっすけど……街同士の協力とかの話で来たんすよね」
「話が早くて助かるね〜。そうそう、今すぐねむりちゃんやこの街にお願いしたいことがあるというわけではないんだけど、そういう話に近いかな」
まだ、この街のことを知らないので、何をしてほしいかなどはまた別に伝わると思う。
「私達は今、街同士の道、一般の人達でも通れるような街道を整備しようとしているんだよね」
いつものように、みりはちゃん謹製のマニュアルを渡す。
「この間から数日掛けて、【魔法少女】の力を使って整備できるように道を切り開いたりして、ゆうねちゃんの居る街まで来たの。この街に来たのも同じ理由なんだ」
「すごい計画っすね」
「うん。あれもこれもみりはちゃんが居てくれたからできるんだけど……まぁ、それで、ねむりちゃんの街とゆうねちゃんの街の間ではその作業はしてこなかったっていうのは言っておくね。そもそも私達はこの街に来るのが初めてで、ルートの選定作業っていうのもできていなかったから」
ここからが重要な話だと分かるように一呼吸置く。ねむりちゃんの眼差しは真剣そのものだ。
「この街の人達とねむりちゃんに、その協力をしてほしいの」
「そういうことっすか」
少し考え込むような仕草をして、ねむりちゃんは言う。
「私は、前に協力するって言ったし、街の人にもいい【魔法少女】だって、二人のことも、ゆうねさんのことも言っておいたっす。でも、街のみんながどういう反応をするかは、正直分からないっすね。私も、街の人全員に何か言えるわけじゃないんで」
まぁそうだろう。街に住まう一人一人に意思がある。いきなり来た部外者にそんなことを言われたって、食糧争奪のための準備かと考える人も居るだろうから、信頼が必要なのだ。
「今すぐに街の人達に協力してほしいってわけでもないよ。街道のルート選びっていうのにも時間は掛かるし、そもそも私達だってこの街の人達のことを知らない。だから、ねむりちゃんに、まずはこの街の人達と仲良くなる——信頼関係を築くお手伝いをしてほしいんだよね」
「そうっすか。……そういうことなら、任せてほしいっす」
「頼もしいよ」
その協力を、この街唯一らしい【魔法少女】のねむりちゃんに言ってもらえるととても心強い。
私は身に染みて知っているが、街を防衛する【魔法少女】は街の人から大変に慕われて、感謝されて、他の仕事なんかは変わってくれたりする。当然だ。【魔法少女】がいなくなってしまったら、街は危機に陥る。いつも私達は街を守るために命の危険を顧みずに戦いに行くので、それが無くなってしまっては困るのだ。
この街でのねむりちゃんの影響力もきっと大きいだろう。私達がねむりちゃんの居場所を訊ねる度に、それは感じたし、影響力が小さければ辿り着けていない。
「すっかり暗いから、うちにお二人も
「ありがとうございます」
「ねむり、空いてる部屋貸してあげなさい」
「おっけ〜」
ねむりちゃんのお母さんの好意で今日はねむりちゃんの家に泊まることになった。
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