第2話
足元の振動が一際大きくなったと思った瞬間、堅い岩の地面を砕き割って、下から巨大なモンスターが通路に飛び出してきた。
土気色の嫌にぶにぶにした質感の体躯が、僕の視界を覆い尽くす。
それは体長5mを超える巨大な
「うわあああっ!? ダ、ダンジョンワームっ!!!」
僕はダンジョンワームが飛び出した時の衝撃で、真後ろにひっくり返った。
盛大に尻もちをつくも、羞恥心など沸き上がる暇もなく、僕は必死の形相で起き上がり全力疾走を敢行した。
(まずい、まずい、まずい、まずい、まずいいいいいいいっ!!!!)
よりにもよってこいつに遭遇するなんて。最悪についてない。
ダンジョンワームは激しい
そして、新人冒険者を最も多く殺している、
とはいえ、一階層にまで登ってくることはまれで、目撃情報も一階層では半年に一度くらい。当然だ。こんな化け物が一階層に頻繁に現れては、新人冒険者のほとんどはダンジョン探索などしていられない。
すなわち、運がない。
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!?!!!」
冗談抜きでそう叫びながら、決死の逃亡を図る。
直ぐ背後から巨大なブヨブヨの化け物が迫ってくる音が聞こえる。
正規ルートなどお構いなしに、分かれ道を右に左に曲がってなんとか撒こうとするも、ダンジョンワームは執拗に僕を狙って追いかけ続けてくる。
他の冒険者がいれば狙いも逸れたかもしれないが、こういう時にかぎって誰ともすれ違う事はなく、死のストーキングは一向に終わらない。
「くそお、しつこいぞっ!! って、のわああああああ!!」
思わず後ろを振り返り悪態を吐いてしまったが、その一瞬の減速を逃さずに、奴はその気色悪い質感の巨体でもって、ヘヴィーボンバーをかましてきた。
バイーンと跳ねる巨虫、砕ける地面、余波で吹っ飛ぶ僕。死を覚悟した。
「ってぇ……」
壁まで吹っ飛ばされて背中を強打し、その拍子に左腕が壁のとがった部分に引っかかってしまい、二の腕の部分が派手に切れた。
避けた服の隙間から血が出てくる。初期装備は壁にすら負けるらしい。
「やばい……、ん?」
ここにきて、負傷。いよいよ焦燥感がせり上がってきたが、その時僕の視界にとあるものが映った。視界前方の通路の奥に、見覚えのあるオブジェが立っている。
地面に突き刺した槍の穂先に骸骨を刺した、趣味の悪いオブジェ。
「あそこだっ!!!」
そのオブジェの正体を確信した瞬間、僕は再度の逃走を始めていた。
目指すは前方通路の最奥。そこにあるであろう場所まで突っ走る。
いい加減しびれを切らした、と思われるダンジョンワームはより一層激しい動きで追走してくる。遅まきながら、目がないのにどうやって僕を正確に追跡しているのだろうかと疑問に思う。
ともかく、実におぞましい動きのそいつを引き連れて、通路の奥に飛び込んだ。
『ぎゅえ? ぎぇえええええええっ!!!!』
通路の奥はドーム状の空間で、そこはゴブリンの巣だ。あの趣味の悪いオブジェは縄張りを主張するもので、使われていたのは冒険者の骨と武装。
巣に冒険者とダンジョンワームが同時に突っ込んできたことで、ゴブリンたちは激しいパニックとなった。それはそうである、すまんね小鬼たちよ。
本来、新人冒険者がゴブリンの巣に入るなど自殺行為だが、今僕にはダンジョンワームが付いている(物理的に)。そう、
天敵と対峙したことで、ダンジョンワームもゴブリンも僕への注意は薄くなる。
「っ!!」
今度は通路に向かって全力疾走。その動きに反応し、何体かのゴブリンが行く手を阻もうとしてきたが、強引なタックルで体をねじ込み、一気に巣から飛び出した。
そのまま振り返ることなく走り続け、ダンジョンワームが動き回った痕跡を頼りにして、なんとか正規ルートまで辿り着くことができた。
「はあ、はあ、助かった~」
どうやらゴブリンもダンジョンワームも追って来てはいないようだ。
ふにゃふにゃと力が抜け、安堵の溜息と共に床にへたり込む。死ぬかと思った。
しかし、のんびりはしていられない。ここはまだダンジョンの腹の中だ。
とりあえず包帯で二の腕の傷を雑に手当し、無くした装備品などが無いかを確認。
戦利品を入れた巾着袋があることにほっとしつつ、気合を入れて立ち上がる。
三十分もあれば出口に辿り着けるだろう。ようやく、長い探索が終わりそうだ。
「……なんで今日、こんなにしんどいの?」
多分、今日だけで顔のしわ二つ増えた。
(*´ω`)
ダンジョン一階層の奥地には、俗に
一階層にしてはレア度の高い鉱石が取れる場所なのだが、その代わり出現するモンスターは三階層レベルの強さであり、かつ絶え間なく現れ続けるため数も多い。
そのためこの場所を利用するのは、到達階層が三階層以上の初級冒険者パーティーがほとんど。もっと言えば、楽して稼ぎたい惰性の集団である。
例えば、先刻
彼らは五人組パーティーだが、その実力は全員が初級の域を出ていない。
また、初級冒険者にとって最初の関門とされる四階層に挑むことを渋って、一階層から三階層までの良エリアを占領して金を稼いでいる連中だった。
そんな彼らは幸運なことにダンジョンワームが出現する前にアステールと遭遇し、そのまま
いや、もしかしたら、アステールと一緒にダンジョンワームに襲われていた方が幸運だったのかもしれない。
なぜなら、真の恐怖はダンジョンワームが出現した直後、ダンジョンワームが掘って生まれた穴を通じて、ダンジョン一階層に上って来たのだから。
ダンジョンワームの蠕動で光源のランプが壊れていたため、穴の周辺は真っ暗。
そこにそれは現れた。それは全長3mほどで、一見すると狼のようなシルエットをしていた。ふっふっと荒い鼻息が洞窟に反響する。
紛れもない怪物。ダンジョンワームを一階層まで追いやった、元凶。
常時にはいるはずのない脅威が、一階層を走り出した。
直前までこの場にいたアステールとダンジョンワームを追うのではなく、その嗅覚でもって見つけ出した、より多くの獲物がいる場所へと向かったのだ。
十分後、
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