プライディア:Pride in the Dungeon 0
星作委員会
浅層編
新人冒険者アステール
第1話
ああ、カフィア。一にダンジョンに、二にダンジョン。三もダンジョン、四に金。
大陸西方ハルナイアに位置する都市カフィアは、世界最大、最深のダンジョンを有しており、名実ともにダンジョンの
ダンジョン。通常は地下に広がる迷宮、あるいは大洞窟であり、その内部には外界と全く異なる世界が構築されている。
曰く、ダンジョンは『世界史の貯蔵庫』であると言われる。
特殊な力で外界と断絶されたダンジョンは、
数百、数千、もしかしたら数万の年月を封じ込めているダンジョンは、まさに現代の神話の舞台であり、世界のあらゆる偉業、文化、技術が起こる場所でもある。
そしてカフィアが有する世界最大、最深のダンジョン、カフィアダンジョンこそが世界で最も人々を熱狂させ、世界最高の偉業、文化、技術が生まれる場所なのだ。
ゆえに、人々はこぞってカフィアダンジョンに挑む。
己の飽くなき欲望を晴らさんと、ただひたすらに地下へと潜る。
愛すべき、時代を作る大馬鹿者たち。それこそが、カフィアの冒険者だ。
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プライディア:Pride in the Dungeon
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「はあッ!!」
横薙ぎに繰り出された斬撃が、狂犬の凶悪な顔を斬断する。
僕の魔法の力量では片手剣に【斬撃強化・微弱】をかけるのが精一杯だが、ダンジョン一階層のモンスターであれば、それでも十分に両断は可能。
中級、上級の冒険者たちは、刀身をはるかに超える巨大なモンスターを、まるで綿細工かのように切り裂くらしい。今の僕には想像もつかない世界だ。
「ふうー、これでラストか……」
顔面を両断して絶命させた狂犬が、エンカウントした群れの最後の一匹だった。
計五匹の犬型モンスター、ダンジョンドッグを仕留めた僕は一息ついた。
ここはダンジョン一階層の、多分、南端の方のエリア。
かれこれ五時間も潜っているが、大した収穫はない。
「やっぱり一階層じゃ、いくら探索しても無駄かなぁ」
腰にぶら下げた巾着袋を覗き込み、愚痴を一つ。中には本日の戦利品が入っているのだが、どれもはした金にしかならないレア度ゼロの鉱石ばかり。
とはいえ貧乏新米冒険者にとっては大事な収入だ。
戦利品なら雑魚くても買い取ってくれるダンジョン管理会には感謝しかない。
ダンジョン管理会、通称ダン会はダンジョンや冒険者の管理を行っている団体で、冒険者ギルドと国家間の仲次、ダンジョン発掘品の流通の調整などをしている。
その職務の性質上、ダン会には上級冒険者レベルの戦闘員も所属している。
またダンジョン発掘品には文明を進歩させ、あるいは破壊しかねない代物も多々あるため、それらを統括する彼らの影響力は計り知れない。
まあ、何のギルドにも属しておらず、その日の飯にありつければ上等な僕には全く関係のない話である。ダン会の新人育成コースの対象にもなってないし。くそぉ。
「……帰るか」
今日は朝から潜っていたので、時刻はまだ午後二時。
時間的には余裕があるが、正直既に疲労が溜まっていて即急に寝てしまいたい。
無理は禁物、早寝は金。古今東西に伝わる、ダンジョン攻略の金言である。
踵を返して元来た道を戻っていく。ダン会が公表しているダンジョン各階層の正規ルートを辿って行けば、比較的安全にダンジョンを行ったり来たりできる。
しかし、正規ルートを使えば、時には同業者とすれ違ってしまう事もある。
そもそも商売敵。加えて、僕には特別同業者と会いたくない理由があった。
「ッ……」
噂をすれば、進行方向から冒険者パーティーが歩いて来た。
ソロの冒険者がパーティーとすれ違うと、何とも言えない気まずさを感じる。
ただでさえ、僕は他の冒険者から毛嫌いされやすいのに。
なるべく通路の端に寄り、息を潜めてパーティーの横を通り過ぎる。
おしゃべりをしながら歩く冒険者パーティーの威圧感たらない。
「お? おい、皆見ろよっ!! お子様が遠足から帰って来たぜ!?」
完全にすれ違う寸前で、一際大きな声でしゃべっていた男が立ち止りそう言った。
びくりと肩を跳ねさせる僕。うろんな顔で冒険者たちが僕を見、そして爆笑した。
「はは、こりゃいい。子猫ちゃんにはソロがお似合いだ」
「なんだよ、
クソほどデカい声で好き勝手言い放ち、止めに最初の男が僕の尻を蹴り付けた。
吹っ飛んで、受け身も取れずに床に転がる。ダンジョンの固い地面は無慈悲だ。
「正規ルートは人様のもんだ! 猫風情が通るんじゃねえっ!!」
理不尽な暴言を吐き捨てて、性悪集団はダンジョンの奥に消えていった。
僕はしばらく立ち上がれず、震える体をダンジョンの地面に押し付けていた。
そう、僕は猫の獣人、赤毛が特徴の
猫の獣人の特徴は優れた皮膚感覚と敏捷性、そして細く小柄な体躯。
力と権威が全てのこの世界で、猫の獣人は小人と並ぶ貧弱種だった。
「くっそ、猫だから何だって言うんだよっ!!」
僕は抑え込んでいた怒りを床にぶちまけた。あいつらが去ってから叫ぶ自分が情けないが、あそこで我慢できるだけ大人だと自分に言い聞かせる。
どれだけ優秀な動物の因子を持っていようと、獣人はどこまでいっても人種。
そして人種である以上、体の大きさは覆せない能力の差を生んでしまう。
「はあ、早く出よう……」
ああいう連中は無駄に刺激せず、穏便に事をすました方がいい。
いつか見返せばいいのだ。ダンジョンは種族など関係なく、冒険に見合ったモノを返してくれるのだから。それが死か栄光かはわからないけど、挑む価値はある。
にしても子猫って。僕はもう十五歳なんだが。全くひどいぜ。
ボロボロの初期装備に付いた汚れを落としながら、とぼとぼと歩き出す。
ここですんなりダンジョンから出られれば、非常に腹立たしくはあるが、いつも通りの日常が過ぎ去っていた事になる。
しかし、気まぐれなダンジョンは僕の気持ちなどお構いなしだった。
「……あれ、なんか揺れてる?」
最初は微弱な振動。それは徐々に大きくなり、振動とともに何かを削るような音が迫ってくる。僕の足元から。
一瞬で空気を変えたダンジョンが、死の迷宮たる姿を覗かせた。そして。
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