第12話 妖精とは気ままである

「まぁ本当に妖精との混血なら、捨てられて当然ですよね」

「お前さっきからマジでなんなの、……一応どういう意味か聞いても?」

「あぁ、今のは他意なんてないですよ、誤解しないでください。

ㅤ妖精種にはそもそも、子どもを“育てる”という概念がないって話です。

ㅤあなたのどちらか片親は人間でしょうけど、妖精自体が身寄りを嫌う孤高な人間なんてのを好んで犯すんですから、芸術肌だと尚のことそうなる。

ㅤそういうプライドばかり高いやつが、子どもばかり押し付けられて、まともに愛を注ぐ環境なんて作れるはずありませんもの」

「つまり?」

「あなたが味わった不自由は、妖精が孤独な人間を好き放題しゃぶり尽くした結果です。

ㅤ妖精との子は肉体的な交配ではなく、妖精のいる森林のエーテルとの調和が偶然にも取れてしまった、それこそ人間にも妖精にもほんの極々稀な事故のような存在ですよ、そうとわかって生まれるほうが難しい。

ㅤつまりあなたが生まれついて脆いのは、誰の責任でもないのです、彼らはまぐわったわけですらなく、心を通わせただけ。あなたという器に、浅ましい性欲は絡まない……だからこそあなたは誰にも望まれない、哀れなまがい物なのです」

「――、へぇ」


ㅤ出自に絡んでいるとはいえ、ここまで人をコケにした口上が世の中に存在したことに、ほとほと呆れている。世界がもっと露悪的なら、その方がマシだった。俺には人から愛されない必然がある、愛されないのは浅ましく腰振ったバカ親どもが悪いんだとそれまで考えていたぐらいだが、自分がそれこそ超自然的なアレであったなどと、言われたところで。

ㅤそも、坪内葡萄は俺個人の納得などはなからどうでもいいのだろう。


「それでお前はこれからどうしたいの」

「ご主人様の仰せのままに」

「人をおちょくるならもっとマシな――いや、それが誰かさんの妖精としての力?」


ㅤ言いつ、彼は辺りを見回す。

ㅤ一応食堂にほかの生徒がくる前に、この話は切り上げたいところだ。最悪不特定多数に聞かれる羽目になる。


「お前に対して、強制力が働くってことか。いつまで?」

「あなたがそう望むかぎり」

「そうか、できれば一生俺と関わらないでくれる?」

「そんなやっと掴んだ神秘種の手掛かりをむざむざ手放す理由なくないですか」

「お前俺に逆らえないんじゃないの」

「粒を作ったあなたが、効力もなにも把握できてなきゃおかしいんですよそれこそ。

ㅤそれが一分一時間一日か一週間あるいは一生か」

「わかった。

ㅤじゃあ少ししたらお前に命令してやる」「なんでしょう」

「少ししたらっつったろ、ええい『俺の食後まで話しかけるな』」

「――」


ㅤ今度こそは第六感的な意味でフィードバック、実感があった。

(なるほど、これが紫の粒石ドロップの拘束力。少しづつやれることを試していこう)

ㅤすると葡萄はもう暫く、情報を引き出すために生かさなくてはなるまい。

ㅤ最近のエロ同人界隈には『人格排泄』なる便利な概念があるそうだが、あれは程度が分からないし、それをして彼女の人格矯正に至るか、外部社会からその変化をけどられない確信がない、すると最後の手段にはとっておいたほうが良いのか?

ㅤあんなものを人生の選択肢、大真面目に入れなきゃならない日が来るなんて――不謹慎ながら、初めてこの女を黙らせる力を得られたことに、俺は多少なりにも昂揚しているらしい。

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