フェアリーダスト・ドロップ ～俺をクズ呼ばわりするクラスの女子が眷属に堕ちたんだけど？～

第4話 刑事たち

ㅤ雫は嘆息した。

「お互い、これ以上話すのは生産的じゃないと想うが」「それもそうですね」

ㅤ文句をつけてきたわりに、向こうはあっさり引き下がる。

（プライドばっかり高いクソ女か）

ㅤ顔と紫がかった黒髪長髪は耽美でさえあるが、こちらを批難するということは敵にほかならない。

（林檎姐（りんごねぇ）、俺には女の子と仲良くするとかやっぱり無理だよ……）

ㅤ身の程は弁えている。こんなみすぼらしい服でなければ、ここまで屈辱を感じることはないんだろうけれど、今はほかにない。ようやく視力を手に入れて、得られたのは視力の快感に水を差す赤の他人の陰ばかり。もっと素直に、視界を得た奇跡を歓びたかったのに――この社会はクソである。

ㅤ当初の目的通り、ドライヤーにヘアワックス、衣類をひと通り揃ったなら店を出るが、出た途端に背中から殺気が飛んできた。さっきの女子だ。

（あいつさえいなければ、今日は最高の買い物だったのに）

ㅤ男子寮へ帰ってくると、警察が来ていた。

ㅤ寮父へ尋ねてみる。

「なにかあったんですか？」「お前……っと、飴川くん」

（普段からぞんざいに扱っているのを、取り繕う気もないのか）

ㅤ養護施設にいた頃から、そのような扱いには慣れていた。

ㅤだからといって、外部の人間を前にお前、とは。

ㅤ訪れたのは二人組の刑事だ。

「へぇ、刑事さんたち」

「よろしく、飴川少年。私は小此木（おこのぎ）だ」

「僕が海部（あまべ）、このひとのパートナーをやらせてもらっている。

ㅤ寮生たちにも聞き込みをやっているところなんだけど、昨日の夜、この写真の子たちを見てないかな」

「――」

ㅤ雫はすぐに例の三人だとわかるも、目を閉じて黙りこくる。

「そいつは生まれつき、目が見えないんですよ」

「え？」

ㅤ海部は無遠慮に提示した写真を持った、その姿勢で固まっている。

ㅤ雫は手元のステッキを振る。

「おかげで足腰もそんな強くならなかったんです、バリアフリー頼りや人一倍インドアの運動に気を使わなきゃならない」

「そうか、それは――すまないことを」

「いえ、慣れてるので」

ㅤ寮の自分の部屋へは、目を閉じたままでいける。

ㅤだが三人組については、情報をとりたい。

「その三人は、誰なんです」

「三人？ㅤ海部はいま『この写真の子たち』としか言ってないだろう」

「やだなぁ、魂魄鎧ですよ。

ㅤ厳密には俺、眼は見えずとも“わかる”んです。

ㅤ学内の教員さんがたにも言ってみてください、自分の名前のひとつも書けなくて、進学を許してくれる方々じゃありませんから」

ㅤボロを出したのは口にした途端にわかったが、言い繕える範囲だ。

ㅤ刑事たちは怪訝そうだし、一度疑うとなおのこと疑わしいらしい。

（これってもろ、“秘密の暴露”ってことか、幸先よろしくないな。

ㅤそもこいつらが死んだのを、彼らが知っているかだって今定かでないんだ、もっと慎重に――）

「魂魄鎧にそんな機能が？」

「ここはそういう学内ですよ、魂魄鎧はエーテル体の領域を拡張することで、従来の五感を上回る超常的な知覚が可能になる。ご存知でしょう」

「それはそうでしょうが……中途半端ですね、生まれつき目は見えないのに字は書けるし読めるなんて」

「そういうことになりますかね。

ㅤ『エーテル体の制御技術』と国籍があれば、ここは誰でも受け入れてくれますから。

ㅤというか、そうでなければ僕のようなのは、高等教育なんて受けられないですよ」

ㅤ隠したところで疑われれば、そこら辺すぐに調べがつくだろう。