愛を知らない貴方へ

風宮 翠霞

第1話 犠牲の上で

明るい太陽の光が、大地を力強く照らす。

家族におはようと挨拶をし、行ってきますと言って仕事に行く。

だるいねとか言いながら仕事を終わらせて、また家に帰って温かい夕飯を食べて眠りに着く。


嗚呼、なんて素晴らしい一日なんだろう。

嗚呼、なんて……気持ち悪いんだろう。


一年前。


太陽が隠れ、病による突然死が流行り、世界は混沌こんとんと化した。

たった一年で、人々はその暮らしを立て直した。

一年前に“神の奇跡”と呼ばれた現象によって、世界は元に戻ったから。


でも、その裏であった事を。


皆が、知らない。

皆が、気がつかない。


いや……

皆が、知らないふりをしている。

皆が、気がつかないふりをしている。


「王国の太陽華たいようか」と評された、一人の公爵令嬢がその時期から姿を消した事に。

王太子の婚約者が、何故か急に変わった事に。


平民、貴族、王族……生きとし生ける全ての人間が、彼女の死を。

彼女の犠牲ぎせいを無かった事として扱っている。


表向き、とても綺麗きれいで正しいこの世界は……ふたを開ければ、みにくい人間の欲が大蛇だいじゃのようにトグロを巻いている世界だ。本当に、気持ちが悪い。


あの日彼女に問うた言葉には、いまだに答えが返されていない。

私に出来るのは、推測する事だけだ。

ただ、それでも……命懸けで守ったこの世界を壊す私を、貴女は許さないのだろうという事だけは、痛いほどにわかった。


「私は、貴方の従者ですから」


それでも、私にはもう……こうするしか方法が残されていなかった。

あの日嘆いた言葉を、貴方に誓った言葉を、嘘にしない為に。

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