汚れて、汚して、一番大事なものだけを...
男女混合ダブルスのバトミントンは決勝進出を決めた。
神代とセカンの懸命なプレイで辛勝。俺たちの総合2位以上は確定したが、ここでバトミントンが優勝すれば逆転総合優勝となるドラマチックな展開。
決勝はやはり柚子とムッツリくんペアだ。正直なところつばきに入れ替わっても無理だろう。
なぜなら、神代の疲労がピークだ。準決勝でのセカンへのカバーが効いている……。
「デッくん!総合2位ってすごいやん!」
「まだ、逆転の総合優勝が残ってるぞ。柚子たちが負けてくれたらの話だが」
「オレたちは手を抜かねぇ!神代と八蓮花をボコボコにしてタイトルを獲る!」
つばきと別れてセカンと神代に作戦を伝えようと探していると、柚子とムッツリくんが話しかけてきた。
あわよくば、手を抜いてくれないかと期待するが、俺は誰にも期待しない男だった……ちぃ。
「お前らバト部のくせに大人気ないぞ。素人に毛が生えたような二人に本気を出すつもりか?」
「デッくんがウチとデートしてくれるっち言うなら手を抜いてもいいかも〜」
「こ、
本当か?そんなことで総合優勝が獲れるなら安いもんだ!まずは柚子と約束し、ムッツリくんにもそれなりの報酬を準備しなければならない……いや、ムッツリくん一人なら神代のカバーでなんとか……。
「そんな条件にデ……ユキタカくんが乗るわけないよ、柚子ちゃん!」
「――!セカ……つばき」
「つばきちゃん!」
「私たちは正々堂々勝つよ!だよねユキタカくん!」
「お、おう……」
「そっかぁ……デッくんならワンチャン乗ってくれるかなぁって思ったそ……残念」
セカン……乗るわけないこともないぞ。
「正々堂々勝つだと?オレたちに?ハッハッハッハッ!冗談だろ?守日出に卑怯な手でも考えてもらえよ、八蓮花!お前と神代じゃ120%無理だ!」
いかにもイキった中ボスばりに吠えるムッツリくん。人のこと言えんが、そんな笑い方してると友達出来ないぞ。
「ムッツリさんですね!わたしはアナタを許してませんよ!」
「
「デッくん……ププ……つばきちゃんが……ププッ……ムッツリさん……ブゥ〜!ウチ無理〜!」
「ククク……柚子……やめろ!それ以上言うな……クク……俺も耐えれん」
セカンとムッツリくんが睨み合うなか、俺と柚子はムッツリさん事件で笑いを堪えるのに必死だ。
この二人の因縁には俺が関わっているので申し訳ないが、面白いものは面白い。
セカンはムッツリくんに一発ビンタを入れている。背後から俺を襲い気絶させたからだ……でもおかげで俺たちは気持ちのすり合わせが出来たんだぞ!もう、許してやれ。
「ムッツリジマさんみたいにすぐに暴力を振るうような人は、ユキタカくんの足元にも及ばない!」
「何だと!俺が守日出に勝てねぇって言いたいのか?」
「ブハァ!!ムム……ムッツリジマ……ププッ……デッくん……ウチはもう決勝に出れんかも……骨は拾ってくれるかい……?」
「ククク……分かった。あとのことは俺に任せて、お前は棄権してくれ。代わりの選手は、なるべくど素人を用意しろ!」
「むむむ……デッくん……マジで勝ちにきちょるね。珍しい」
「今回は大マジだ。総合優勝がかかってるしな」
「ふ〜ん……そっかぁ……そういえばデッくんって負けるところが想像出来んほ!ウチちょっと見たいかも」
「おいおい、しょっちゅう負けてるぞ!」
「ないない!見たことないって!体育なんてみんなに合わせてるし、勉強もめっちゃ本気ってこともなさそうやん!」
「……」
コイツまで俺に踏み込もうとする……つばきといい柚子といい……ここらで盛大に大負けする必要があるな。
「ユキタカくんはアナタなんかに絶対負けない!」
「あっそう!全員を勝利に導くみんなのヒーローってか?自分は高みの見物しといて、みんなを駒のように扱う軍師様か?はいはい、クールだねぇ」
「違うよ!みんなのヒーローなんかじゃないし!クールじゃないの……一番汚れてるの……」
「ハッハッハッ!汚ねぇってよ、守日出!」
セカン……お前……。
「汚れて、汚して、一番大事なものだけを見てる……最低で最高なの……みんなのヒーローなんかにしたら壊れちゃう!だから、ユキタカくんの作戦でわたしがアナタたちに勝つと!」
「へぇ……神代もろともボコボコにしてやるよ!」
「つばきちゃん、カッコいいそ……こりゃぁウチも負けられんね!よろしくね、つばきちゃん!」
「え?う、うん……」
これは……柚子とムッツリくんの全力モード確定でしょうか……完全に逆効果で、限りなく勝率がゼロに近付いたかなぁ。
(ええっと……あやめさん……だいぶブチかましてくれましたね)
(デ、デク……わたし、もしかしてやっちゃった?)
(だな……まぁ、でも……ありがとな)
(――ん?ありがとうって……何が?)
(ククク……いや、お前のそういうところが好きなんだろうな……)
(……え?……は?……)
「えぇぇ!!デクいま何て!!」
(セカン……声がデカいぞ!)
何言ってんだコイツ……前にも言っただろうが、お前が好きだって……ん?言ってなかったか……いや、でもまぁ大事だとは言ったよな……。まぁ、もう振られてるから今さら感はあるが。
(だってデクが変なこと言うから……)
(悪かったな!変なことで)
(そ、それで……すす、好きって……お、女の子として……ってことでいいのかなぁ?……なぁんて……つばきのこともあるし……ゴニョゴニョ……そのへんどうなのかなぁ……でもでも……仮ではあるけど、お母さんの前では付き合ってるもんね……ゴニョゴニョ……)
「守日出、決勝の打ち合わせしてるの?僕も混ぜてもらっていい?」
「か、神代くん!」
セカンと肩寄せ合ってコソコソと話していると、勘違いした神代がキラキラスマイルで現れた。しかし、そのキラキラスマイルも陰りが見える。かなりの疲労があると見て取れるの。
そして、セカン……ゴニョゴニョ言ってて聞き取れないんだが……ただでさえ小声なのに……でもなんか可愛いぞ。
「神代……お前、疲れは大丈夫か?」
「――!う、うん……君は相変わらずだね」
「か、勘違いするなよ!決勝ではお前が頼りなんだからな!」
「分かっている。君の指示通りに動くよ」
「そうか……勝てば総合優勝だ。気合い入れろよ」
(わたしもいるよ!)
セカン……コソコソはもういいぞ。神代がいるのであまりイチャイチャっぽい行動は慎んでね。しかも、耳打ちはドキドキするので勘弁してください。
「じゃあ、難易度はかなり高いが説明する!」
コクリと頷く二人の目を見て覚悟を感じた……ふぅ……疑いようのない真っ直ぐな目……久しぶりだな、この感覚……。
青蘭高校クラスマッチ最終種目、男女混合ダブルスによるバトミントン。試合結果次第で総合優勝も決まるということもあり、体育館には全校生徒が集まっている。
2階の客席を見上げると1年から3年までの生徒で埋め尽くされている。
そんな中、3名ほど俺に手を振ってくる女性たち。さくらさん、つばき、岩国先生はご機嫌な様子で応援席にいる。
とりあえず、軽く手を上げてその応援に応える。さくらさんの応援は無下には出来ん!そう思い、応えたのだが、キャッキャッと可愛いらしいリアクションで盛り上がっているのを見て後悔する。
アイドルじゃないので勘弁して……周りに生徒たちもいっぱいいるんだから……。
気を取り直してコートを見る。
バトミントン部2年女子副キャプテン・
バトミントン部2年男子・
バスケ部2年エース・スーパーヒーロー
帰宅部2年・麗しきミス青蘭・
1セット21点、2セット先取で勝利。
『意外と大したことないんだね』……その言葉が耳の奥に鳴り響く……俺の手が震えていることなど誰も気付かないだろう。
試合に出ない俺を見ている者などいないからだ。消えろ、消えろ、消えろ!鳴り響く声と目の前の暗闇が俺の視野を狭めていく。
今はただ、神代とセカンをサポートすることだけを考えろ!勝負の空気が俺のトラウマを呼び起こす。
ふぅ……俺はまだあの頃のままなんだな。人と深く関わると浮き彫りになる自分の弱さ……
このままずっと、目の前の暗闇から這い出せないでいるんだろうか……。
「始めて下さい!」その号令とともに決勝戦が始まった。
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