14 第3章第5話 希望の光
「……ん……うん……んん、ああーー」
僕は、布団の中で大きな伸びをした。
「ん?時間か……学校がお休みになってもう二週間になるなあ」
これでよしっと。なんか『目覚まし時計』がなる前にスイッチを切るのも慣れてきたなあ……。
四月の下旬だとは言え、まだ早朝だ。冷たい空気に気を引き締められるような気がして、周りの景色を見渡した。
「今日は……東まわりにしようかな……」
「お!
「あ、新聞配達のおじさん。おじさんこそ、いつもありがとうございます」
「なーに、おれは、仕事だよ。じゃ、気をつけてな」
「はい、おじさんもがんばってください」
「さあ、今日もいくぞー」
今日のコースは、商店街の方に決めたてたんだ。朝だから店は閉まっているけど、いろいろなお店がある。パン屋に八百屋、洋服屋、電器屋。この町には大きなデパートはないけど、親切なお店もたくさんある。
「そーいえば、うちのクラスの情報網でも、商店街の豆知識はあったよな~さすが、女子は詳しかったな~」
僕は、商店街を見ながら、クラスの子供達のことを思い出していた。
確かこの辺に住んでる子もいたよな……元気かな。早くみんなに会いたいな。
とにかく毎日校区を一回りすることに決めたんだ! あの子達が住んでいるこの町を走ることで、なんとなく気持ちが繋がっているような気になるから、不思議だ。
僕は、自分には取り柄が無いと思っていたんだ。
そして、今は、走ることぐらいしかできないけど、そのうちに……。
「ん?……あの角で何か光ってるぞ!……」
僕は、薄暗い中で、光の方に進んでみた。
「何だ? これは?……鉛筆か? うちの学校の子が落としたのかな?」
後で落とした子に返そうと思い、拾ってみると、珍しい三角軸の鉛筆だった。僕は、鉛筆をポケットに仕舞い、そのまま朝のランニングを続けた。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
その夜、拾った鉛筆の事なんかすっかり忘れて、いつものようにベッドに潜り込もうとした時だった。
脱ぎ散らかしたジャージが妙に光っているのに気が付いたんだ。
「何だ?」
不審に思い、そばへ行って片手でそーっとジャージをつまみ上げてみた。すると、ポケットのあたりが光っていたんだ。
「あ!」
僕は、思い出した。朝、道で拾った、あの鉛筆を入れたままだった。恐る恐るポケットに手を入れ、中を探ってみた。
「あった!!」
あの鉛筆をポケットから出した途端、とてつもない光が辺りを照らし出した。でも、そんな強力な光でも目を開けたままで居られたんだ。だから、僕はしっかりとその光を見ることができた。
色は、緑。きれいな緑だった。爽やかで、鮮やかな森を感じさせる色だった。次第に光は、渦を巻きながらある一点に集約されていった。
光が集まって行ったのは、僕の部屋に置いてある五十インチのテレビだった。六畳間の部屋にしては大きすぎるテレビ。でも、彼にとっては、就職祝いでじいちゃんが買ってくれた大事な宝物だった。
光を吸い込んだテレビは、チャンネルがランダムに変わり出した。秒単位で、次から次へといろんな番組を映しだし、突然あるところで、ピタッと動かなくなった。
そして、嬉しい顔が映し出されたんだ。
『……北野先生だ!……わーい、……元気ー?……』
「?……わあああ、みんな、おおおーーい。見えるのかい?」
『見えるよー』
「……一週間ちょっとしかたっていないのに……凄く長い時間会っていないような気がする……」
『先生?……ぼく達に会えて、嬉しい?』
「おう……当たり前だよ……」
『あれ?……あんまりうれしくて、泣いてんでしょ!』
「うるさいぞ……」
『あはははははは』
「もうう……」
そこには、五年三組の子達がみんないた。元気のいい子も、大人しい子も、おしゃべりが得意な子も、絵が得意な子もみんないた。
『北野先生、オレ知ってるぞ。毎朝、町内走ってるだろ。オレんち、豆腐屋だから朝早いんだ。学校が休みになって、勉強いいからお前も手伝えって、朝から起こされて大変なんだよ。でも、おかげで先生を見つけたんだ』
「そっか。今度見かけたら、声かけてくれよ」
『うん、わかった』
『ずるいなー。わたしも早起きしようかな』
『私も、早起きしてみるー』
・・・
・・・
・・・
・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
≪プルルルル……プルルルル……プルルルル………≫
「……おっと、いけない! 今日は、寝坊するとこだった…………。よく寝たななあ、何か気持ちがいいなあ……。さあ、今日も走って来るぞ。今朝は、いつもより体が軽いぞ……」
いつもとは違い、目覚まし時計に起こされた僕だったが、気分はとても爽快だった。
「夕べ、何かいい夢見たような気がするんだけどな……なんだっけかな?……確か、子供達の顔を見たような気が……思い出せないなあ……まあ、いいか。今日もがんばって走るぞー……それにしても、誰かに見られてるような気がするなあ……」
(第3章 完 ・ 物語はつづく)
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