PrologueⅡ sideアリシア

「久しぶり、お母さん」


 アリシアは風にたなびくその亜麻色の髪を押さえながら、墓石に声をかける。

 流行り病だった。

 全然元気だったのに、あっさりと逝ってしまった。

 自分や義父、まだ幼い弟妹たちを残して。


「なんか遠くに行かなくちゃならなくなって、当分ここには来れなくなりそう。ごめんね」


 謝罪の言葉を口にしても、当然、返ってくる言葉はない。

 それが悲しい。

 一年前は、返ってくるのが当たり前だったのに。


「お母さんに教えてもらったことは、今もこの胸にいっぱい残ってるよ。それをクロードやセリアに伝えられないのが残念だけど、きっとお義父さんが立派に育ててくれるよ。大丈夫、お母さんの選んだひとだもん」


 半ば自分に言い聞かせるように、アリシアは言う。

 まだ弟妹たちは四歳と五歳。

 おそらくほとんど母の面影も覚えていまい。思い出も多分ない。

 だからこそ、自分が色々教えてあげたかったのだが、それも叶わない。


「二人のことをお願いね、って頼まれたのに、ごめんね。でも、形は違うけど、絶対にあの二人は守ってみせるから」


 ぐっと胸に手を当て、強く誓う。

 そして笑って言った。


「いつかまた絶対ここに帰ってくるから。それまでまたね。大好きなお母さん」

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