第9話
為朝が隈本城を落として半月。為朝は鎮西二十烈士と馬琴を連れて海に来ていた。
鎮西二十烈士の面々は海に潜って魚を捕っており、為朝と親常、馬琴は捕られた魚を木の枝に刺して魚を焼いている。
そして馬琴は持っていた小刀で魚を捌いて刺身にしていた。
「これとか刺身のほうが美味しいですよ、為朝様」
そう言って差し出された刺身を為朝と親常は一切れずつ刺身をとるとそのまま口に運ぶ。そして驚いた表情になった。
「うまいな」
「うま! 馬琴、お前阿蘇育ちだろ。なんで海魚の刺身がうまいとか知っているんだ?」
親常が思わず尋ねると馬琴はふふふと妖しく笑う。
「知らないんですか、親常様。女は秘密が多いほうが美しくなるんですよ?」
「お前それ上兄者に言ってめっちゃ怒られてなかったか?」
「怒った宗運様すごい怖かったです。あ! 親秀様! それも捌いちゃいますので私にください!」
「おう、俺達のぶんも残しておいてくれよ」
「大丈夫ですよ、いくら為朝様が大食漢でもこの量を食べきるのは無理……というか本当に処理しきれなくなりますよ、為朝様」
「ふむ、じゃあそろそろ切り上げるか。親秀、潜ってる連中にもういいと声をかけてくれ」
「承知」
為朝の言葉に親秀は海に潜っている鎮西二十烈士の面々に声をかける。すると各々海から上がってきて焚火を始めて身体を暖め始めた。
為朝がいる焚火には親常、鎮昌、親秀がいた。そして為朝の傍では馬琴が小刀を使って魚を捌いている。
「そういえば殿、城氏や名和氏、それに相良家の動きはどうなっているんですか?」
鎮昌の問いに、馬琴が焼き加減をみて綺麗に焼けた魚を受け取りつつ為朝が答える。
「城氏と名和氏は臣従を申し出てきたから許した」
「相良家は?」
「親房に和睦交渉をさせてみたが、向こうが拒否してきた」
その為朝の言葉に聞いていた鎮西二十烈士の面々の視線が為朝に集まる。その視線を受けて為朝はにやりと笑った。
「喜べもののふ達よ。戦だ」
為朝の言葉に鎮西二十烈士から鬨の声があがる。それは喜びにも似た叫びであった。
そんな鎮西二十烈士を頼もしく思いながら為朝は一口焼き魚を食べる。焼き加減はちょうどよく、一口食べると口の中に魚の油が広がってうまかった。
「うむ、うまい。よし、みんな食え。うまいぞ」
「お~っと、皆さん、焼き加減は私がみていますので順番ですよ、順番。とりあえずこちらはもう大丈夫です」
為朝の言葉を馬琴は切り取ると、てきぱきと焼き上がった魚を鎮西二十烈士に配っていく。鎮西二十烈士もそんな焼き魚にかぶりついたり、刺身を食べてうまいと歓声をあげている。
親秀は口の中から焼き魚の小骨を焚火に吐き出すと、馬琴に話しかける。
「馬琴、お前料理うまいな」
「ははは、忘れられがちですが私は阿蘇大社の巫女なんですよ。一応、料理も仕込まれてます」
「為朝様の物語で余計なこと書いて宗運殿にしょっちゅう怒られている癖になぁ」
「く! 自由に物語を書くことを許さないなんて宗運様め……!!」
「それ上兄者に直接言えよ」
「あ、私、鬼から怒られて喜ぶ事ないんで」
馬琴の言葉に突っ込んだ親常からも笑いが出る。
だが、すぐに鎮西二十烈士の面々に緊張が走る。為朝達のところにやってくる集団がいるのだ。警戒を始め、刀を手元に持ってくる鎮西二十烈士の面々を他所に、為朝はもう一匹かぶりつく。
そしてやってきた武士達に鎮西二十烈士は唖然としてしまう。
年齢は為朝と同年代くらいの武士が四人。それらのお目付け役のような年の武士が一人。
それだけだったら剽悍な鎮西二十烈士の面々は唖然としなかっただろう。鎮西二十烈士の面々を呆けさせたのは為朝と同年代の武士の恰好であった。
全員が浴衣の袖を切ったものを着崩して着ており、腰には何かが入っているかのような袋を下げている。
そして先頭にいる髷を茶筅のように結んだ男が、為朝に向かって声をかけてくる。
「よう、お前が鎮西八郎為朝か?」
その言葉に為朝は魚が刺さっていた木の枝を焚火に投げ入れて答える。
「いかにも俺が鎮西八郎為朝だ。そういうお前は誰だ?」
為朝の言葉に男は嬉しそうに笑う。
「俺は尾張の織田吉法師だ。座っていいか?」
為朝が手で合図を出すと親常、鎮昌、親秀、そして守昌が為朝の背後に立って刀に手をかける。
それをみて刀に手をかけようとした若い武士三人を制し、吉法師は座り込んで焚火にかかっている魚を指さす。
「食っていいか?」
「ああ、いいぞ」
為朝の言葉に吉法師は嬉しそうに食べ始める。そして嬉しそうに叫んだ。
「うまい! 特に塩加減が絶妙だな! これは為朝が?」
為朝を呼び捨てにしたことで鎮西二十烈士から殺気が漏れるが、為朝は気にする風もなく続ける。
「やったのは俺の祐筆だ」
そう言って馬琴を指さす。馬琴も黙って頭を下げた。
吉法師はあっというまに一匹を食べ終えると為朝に尋ねる。
「女を祐筆に置いているのか?」
「祐筆の仕事は主の書状を書くことだ。字が書けるなら別に男でも女でも問題なかろう」
「はははは! いいな! そういう考えは俺は好きだ!」
上機嫌に笑う吉法師。それに今度は為朝が尋ねる。
「それで? 尾張という中央に近いところから辺鄙な九州まで何しにやってきた?」
「あの篠栗栄と対馬宗氏が全面支援すると決めた漢を見に来た」
「……ん? なんだ、栄殿の知り合いか?」
為朝の問いに吉法師はカラカラと笑いながら言葉を返す。
「去年、拉致される形で俺と勝三郎……この真ん中で為朝を睨んでいる男だ。こいつと栄の船の船員としてマラッカや天竺まで行ってきた」
「なんだと!」
吉法師の言葉に為朝は驚いたように立ち上がった。
栄と王直から聞いたポルトガル人よる武力占拠の現場。それを吉法師は見てきたという。
吉法師は真剣な表情になって為朝を見つめる。
「為朝、お前も栄から日本の外の状況を聞いたはずだ。お前はどうやって日本をぽるとがるの侵攻から守る?」
「日本を強くしてぽるとがるを侵略させない。だが、奴らのいいところは取り入れる」
為朝の即答に吉法師は力強く頷く。
「そうだ。奴らを排斥するのではなく、奴らを利用して日本を強くし、それをもって日本の独立を守る。それが日本を守るための策だ」
そして吉法師は指を一本立てる。
「そのために朝廷や将軍家も利用する。日本の全てをもって、日本を世界と戦える国にするのだ」
そこまで言うと吉法師はにやりと笑う。
「為朝、俺と組め。お前の武勇は日本のためになる」
「断る」
為朝の言葉に吉法師は呆気にとられた表情になる。それを見ながら為朝は言葉を続けた。
「吉法師という名前からしてお前はまだ元服していないな? 俺は弱い奴とは組まない」
「んだとてめぇ!」
「よせ! 犬千代!」
為朝の言葉に為朝や鎮西二十烈士を威嚇していた若者が思わず怒鳴るが、吉法師が止める。
「では、どうすれば俺と組んでくれる?」
「俺に勝て」
吉法師の言葉に為朝は即答する。その言葉に吉法師は大笑いする。
「はははは! そうか! 鎮西八郎為朝に勝てばいいか!」
「おう。俺は強い奴となら組んでもいい」
「いいだろう。今はまだお互いに小さな身の上だが、いずれ天下を賭けて戦おうぞ」
そう言って立ち上がった吉法師を馬琴が止める。
「失礼、織田殿。どうせだったら為朝様がどれほど戦が強いか見物をしていっては如何?」
「おい、馬琴」
止めてくる為朝を無視して馬琴は吉法師に言い重ねる。
「幸い、近日中に相良の人吉城攻めが始まります。それを見物して為朝様が組むに相応か判断しては?」
「ふむ……」
吉法師は少し考え込むが、すぐに笑顔になった。
「それもよさそうだ。為朝殿、良いか?」
「まぁ、別にいいだろう」
「感謝する。ああ、そうだ。しばらく世話になるなら俺の家臣達を紹介しておこう」
そういって吉法師は背後に立っている男達を指さす。
「この真面目そうな男が丹羽万千代、こいつはさっきも言ったが池田勝三郎。そして為朝殿や鎮西二十烈士を威嚇しているのが前田犬千代。そして俺のお目付け役の滝川一益だ」
万千代は真面目な表情を崩すことなく頭を下げ、威嚇していた勝三郎と犬千代も渋々頭を下げる。
それら三人をみながら為朝の視線は一益から外れない。
「滝川……だったな。お前、忍か?」
為朝の問いに一益は答えることなくにやりと笑うだけだった。
その反応に文句を言おうとした親常を止めて為朝は立ち上がる。
「俺は鎮西八郎為朝。そして俺に従う一騎当千のもののふ鎮西二十烈士。その戦ぶりをみて腰を抜かすなよ」
「ははは!! 鎮西八郎が戦ぶり、楽しみにしよう!!」
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