29 鵐(しとど)の窟(いわや)
今でいう、ホオジロという鳥のことらしく、警戒心が強く、通常は藪の中にいることが多い。
当然ながら、その
「鳥……
頼朝は、狩りが得意な郎党に、もしあの鳥がまだいたら捕まえておけと命じ、その
先導するのは土肥実平で、彼はかがり火を焚こうとしたが、頼朝に止められた。
「火や煙は目立つ。においを残す。やめておいてくれ」
幸い、今は夏。
少しひんやりする程度なら、我慢すればいい。
頼朝はある程度奥へ進んだところで、広がった空間を見つけ、「ここでいい」と言って、座った。
「いざとなれば、腹を切ることになる。ここなら、切れる」
常に慎重で、何事にもそつなくこなす頼朝にとって、今、人生の一番の「賭け」の時期だった。
今回の挙兵自体も「賭け」であるし、石橋山で生き残ることも「賭け」だが、やはり最大の「賭け」は、この
「それがしの女房が参りました」
周囲の様子を見て来た実平が、握り飯をかかえて戻って来た。
これには思わず頼朝も
*
ひとしきり握り飯を食べたあと、頼朝は実平の女房に礼を言おうと、彼女の姿を探した。
「いえ、もう戻りました」
実平が言うには、一度、大庭景親らが土肥館にやって来たため、女房は彼らが去るまで動けなかった。
ようやく行ってしまったので、こうして握り飯を届けに来たが、やはり館が心配なので、すぐに戻ったという。
「……そうか」
なぜそれを早く言わぬ。
頼朝は叫ぼうとしたが、無表情のまま、抑えた。
今この場で実平を叱り飛ばしても、何にもならない。
どころか、実平が変心したら、それこそ一巻の終わりだ。
「鳥は捕まえたか?」
狩りが得意な郎党に言うと、郎党は「これに」と片手につかんだ
「重畳」
頼朝はその
郎党は不思議そうな表情をした。
食べるつもりかと思っていたらしい。
「さて……鬼が出るか、蛇が出るか」
ここから先は「賭け」だ。
まことの、「賭け」だ。
頼朝にとって、人生最大の「賭け」。
それはこの
*
梶原景時は、土肥の
大庭景親が物見の兵を何人も放って、実平の女房の行方を捜した結果、この山から出て来る姿が確認できた。
景親は物見の兵に、実平の女房を見つけても何もするなと命じていたため、彼女は何も知らずに館に戻って行った。
頼朝が危惧していたのは、実にこれである。
「よし、おれと景時はこの椙山を。海老名どのは、隣のあの山を」
景親は飽くまで慎重に、実平の女房が
海老名季貞もうなずき、それぞれ任せられた山に向かう。
景時はその二人の背を見送ってから、山に入った。
「さあ、山狩りじゃ、山狩りじゃ」
景親は勇んで、すでに山中に入っている。
景時もあとにつづく。
「よいか、隠れ場所を見つけても、ひとりで探そうとすな。かならず、ふたりで見るのじゃ」
景親が兵たちに指示を飛ばす。
彼らが散らばって行き、自然と、景時は景親との「組」になった。
「わしはここに
この場合、景親は全体の指揮を
この戦いで着目されたとはいえ、平三は大庭一族の中でも、
しかたあるまい、と景時は肩をすくめ、探索に向かった。
*
その枝葉の置かれた山に気づいたのは、偶然だった。
梶原景時は、源頼朝が隠れるのなら、洞窟のたぐいだろうと思って、そういう「入り口」を探していた。
まだまだ未開の坂東で――相模で、このような山の中、どこにどのような洞窟があるのかは不明だ。
「しかし、人が隠れるのであれば、もうすでに人が見つけた
大庭景親は最前の場所から動かないので(指揮を執るため)、景時はひとりで歩く。
歩きながらも、地面に目を落とし、足跡がないか確かめる。
そしてふと目を上げると――その斜面にこんもりと、山があるのだ。枝葉の。
「……何か、人をさえぎるように感じる。というか、夏なのに、なぜこんなに枝葉が」
生木であるならば、人が折ったものではないか。
落ちている枝葉なら、なぜこのように集まっているのか。
景時が指に
「風が流れている」
やはり、この
景時は、枝葉をがさりとどかした。
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