エスタリア大陸戦争

瀬名晴敏

プロローグ

 遥か昔、記録や物語に出てくる争いの主役は『人と魔物』ばかりだった。


 それが『人同士の争い』へと移り変わっていったのは、今から500年以上も前の事。異なる世界より様々な人・モノを手に入れて魔物を討伐してきた結果、世界は人のものとなった。その結果、人同士で世界を奪い合う事になった。


 長い争いの果てに、世界は七つの大国が世界の秩序を担う事となった。国力とそれに裏付けられた軍事力が世界に永遠の繁栄と安寧をもたらすと信じ、200年に渡る均衡が保たれる事となった。


 それが崩れたのは今から30年前の事。二つの『転移国家』がその秩序を崩し、最初の『世界大戦』をこの世界に引き起こした。列強の名を冠する国は入れ替わり、新たな国際秩序がもたらされる事となった。特に世界で最も東にある大陸エスタリアは、東方大陸圏の半分を呑み込んだ軍事大国サント・ガーリア神聖共和国と、西方大陸圏の覇者となった軍事大国ソディアティア帝国の板挟みとなり、世界で最も緊張の高まる場所とも呼ばれた。


 その中で、エスタリア大陸東部に面する島国ユースティアは、独自の外交政策と富国強兵政策によって、国家としての独立主権を守ってきた。かつて人と対立する存在であった魔族を社会の一員として受け入れる事で発展を手にしてきたこの国は、表向きはソディアティアの属国として振舞いつつも、裏では東方大陸圏に真の秩序をもたらさんと画策していた。


 一見するとただの覇者に対する背信行為ではあるが、その頃は軍事装備の近代化を兼ねた大規模な軍縮の最中であり、その上でサント・ガーリアの動向を警戒しなければならなかった。何よりエスタリア大陸東部諸国はソディアティアの有力な貿易相手国であり、軍事力ではなく経済力で影響力を方針にシフトしていた。


 そういった新たな情勢のもたらした世界秩序。それは歪ながらもずっと続いていくものだと思われていた。


・・・


紅星暦1030年9月13日 エスタリア大陸東部 フューメ大公国 首都エチセレ


 エスタリア大陸の北東部にある国、フューメ大公国。東方大陸圏最大の軍事大国であるサント・ガーリア神聖共和国と接するこの国は、特別な来客を首都エチセレのフューメ公城に迎えていた。


「ようこそ、陛下。それに王女殿下」


 公城の謁見の間にて、大公は二人にそう挨拶の言葉を述べる。彼らユースティア国王とその王女は、このエスタリア大陸東部でも最も顔の知られる高貴な身分の一人であり、彼らの存在は外交の分野にて大きな効力を発揮していた。


「久しいですな、大公。東の情勢が厳しくなりつつあり、大分苦労なさっている事でしょう」


 ユースティア国王ははにかみながら、相手をいたわる様に答える。何せ大陸の西半分を陸軍4個軍団と多彩な大量殺戮兵器で支配するサント・ガーリアと直接国境を接しているのだ。武力ではなく話し合いで安寧を保つ事の難しさは察するに余りある。


「ですが、大陸東部には13の国々があり、その上で貴国や、その背後にあるソディアティアと対峙しているのです。議会でも軍の強化に予算を投じる事を決定しておりますし、気でも触れない限りは大丈夫かと」


「そうですな…ん?」


 とその時、外より幾つもの轟音が聞こえて来て、その数は増していく。そして数人の侍従が駆け込んできた時、天井が破ける様に崩壊した。


「危ない…!」


 国王は血相を変え、急ぎ王女を庇う。直後、彼らの姿は解放堂のおとる多量の瓦礫の中に消えた。

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エスタリア大陸戦争 瀬名晴敏 @hm80

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