転生先は恋愛エンドありのホラーゲームの世界!? 最強アイテムは魂入りのランタンだった

須々木ニテル

序章

有り触れた人、といわれてまっ先に思い浮かべる人間。

それが、“自分”という人間だった。


別に、自分の人生を悲観してそう言っているわけじゃない。

ただ、なんというか。「あなたの長所はなんですか?」と聞かれたら、「前向きなところです」というテンプレートでしか答えられないくらいには、“自分”には特筆するところが無かった。


容姿は平凡。性格は事なかれ主義。

幼少期からずっと、緩やかなアップダウンのある人生を歩み続け。今はただただ生きるために社会の歯車の一つとなっている。

適度に楽しみはあるけど、生きる糧と言えるほどハマれるものもなく。流行りのものにちょこっと手を出してみては、すぐに飽きてやめている。

そんな、何十何百万人といる人間の一人が、“自分”だった。


「はぁ……」


思わずため息がこぼれ落ちる。

…いやまあ、別にそんな追い詰められるほど悩んだりはしてないんだけど。


でも、つまらない。

こんな日々が、明日も明後日もずっと続いていくと思うと。なんとなく憂鬱になって辟易する。

それで、こんな日々から脱却したいと、継続できる趣味を探してインドア派になったりアウトドア派になったりしているが。

今のところ、まったく成果は無い。


「(とりあえず、また新しい小説があがってないか見てみるか…)」


そう思って、いつものように通勤に使っているカバンからスマホを取り出した。

これも毎日繰り返しているルーティンだ。

職場から駅までのバスを待つ間、自分はいつもバス停の雨避けの隅に立って小説アプリを見て時間を潰している。

お気に入りにしている作者さん達の新作があがっていないか確認したり、面白い話はないかと発掘作業をしてみたり。


「あ、すみません! カバンが倒れちゃって」


「あらあら、いいのよ。今日も塾に行ってたのかしら?」


「はい」


「いつもご苦労さまね。気を付けてお家にお帰りよ」


「はい」


「ありがとうございます」


そうしていると、前のベンチから穏やかな会話が聞こえてきた。

この時間はバス停が混むので、ベンチは満員だ。

よく見かけるお年寄のおばあさんに、隣には塾帰りの女子高校生が二人。そして、雨避けの中には、自分と同じように仕事帰りの会社員がスマホを見たり、音楽を聴いたりして時間を潰している。

これもいつものメンツだ。

そしてもう少し待つと、自分の隣にベンチに座る子達と同じ制服の女子高生がやって来る。


「(あ。来た)」


アプリを開いていると、その子がやって来た。

ベンチに座る子達は、いかにも最近の若者といった感じのキラキラと青春オーラを纏った子達なのだが。

その子は、古き良き大和撫子といった女の子だった。腰上まである長い濡れ羽色の髪に、小さくて赤い唇。長いまつ毛にパッチリとした大きな瞳。

多分、学校でもそうとうモテるんじゃないかなという容姿をしている。


「(また横見てる…)」


その子はいつも、スマホやイヤホンを取り出すことなく、カバンを淑やかに両手で持って横を向いていた。

多分、バスがそっちから来るからそこを見ているんだと思う。ただ、その「え、モデルですか?」って顔がこっちを向いてると、たまに視界に入ってドギマギするんだよなぁ…。


今日も今日とて、その子が来たことに少しソワソワしつつも、自分はスマホを見下ろして小説ページを開いた。

そこには、今日の新作がズラっと並んでいる。

有料会員だと【スキ】数の多い順におすすめを並び変えれるのだが、自分は一般会員なので普通に新着順だ。


「(あっ)」


そして、その新作の一番上に0分前に投稿された新作小説が載っていた。

作者名は…「ニテル0000」と書かれている。名前被りしたアカウント名みたいな名前だ。…なんでこの名前にしたんだろう? よく見たら、名前の上には【初投稿】という新入生のバッジのようなマークがついていた。


「(初投稿作品か…)」


なんとなく、その小説が気になってタップして開いてみた。

すると、閲覧数が増える。その上のタイトルには【転生先は恋愛エンドありのホラーゲームの世界!? 最強アイテムは魂入りのランタンだった】と書かれている。

…ホラーゲーム?


「(なんだろう。ゾンビとか幽霊が出てくる感じか?)」


でも、恋愛エンドとか書いてあるぞ。

どういうことだろう?

よく分からないが、開いたからには少しだけ読んでみようと、ページをスクロールした。





目を覚ますと、あなたは知らない部屋にいた。


ぼんやりと青白い光が辺りを照らす、不気味な部屋だ。

そこで自分は、横向きで寝転がっていた。

目の前にはボロボロの板張りの床があって、長らく使っていない倉庫みたいな匂いが鼻をついている。


…頭が痛い。

動けないほどじゃないが、今のうちに頭痛薬を飲んでいないとヤバくなりそうだなという感じの頭痛だ。


あなたはグッと力を込めて目をつむると、ううっと喉奥で唸りながら腕に力を入れた。

グワンと頭を揺さぶられるような痛みに歯を食いしばりながら体を起こし、辺りを見渡す。


パッと見た感じは、古い洋館の一室といったところだろうか。

広さは畳でいうと十二畳ほどあり、縦にも横にもだだっ広いといった印象だ。

壁沿いには僅かに本の置かれている本棚があって、その隣には質素な机と椅子が置かれている。

それ以外には、壁に火の付いていないロウソクが掛けられているだけで、あとは何も無い。

引越してきたてみたいな寂しい部屋だ。


「どこ、ここ…」


あなたは口に出してそう言った。それから何してたんだっけ…と考えて、ここに来るまでの記憶が無い事に気がつく。

…え、なんで。なんで何も思い出せないの? 名前も…。

え、これって記憶喪失ってやつ…?

困惑しながらもあなたは立ち上がろうとする。



「ようこそ。魂の結び付きの世界へ」



すると、背後からそんな声が聞こえてきた。

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