4.曇りなき眼(リーナ)
街の女の子達は、エールを悪く言ってたけど、私は彼女が好きでした。
私は、小さい頃は体が弱く、同い年の子と、対等に付き合うには無理があり、元気な女子には相手にもされなかったので、兄の後をついて回っていました。兄と仲の良い女子は、気の強い人が多く、エールも勝ち気でしたが、一番優しかったからです。シャーンが、遠足で馬車に酔って吐いてしまった時に、ちゃんと面倒見てあげたのはエールでした。上級生グループが、ジェムを廊下に転がして苛めていた時に、立ち向かって止めたのはエールでした。この時、彼女は、突き飛ばされて硝子に手を突っ込んでしまい、怪我しました。また、あの岬の飛び降り事件、お嬢さんを騙して妊娠させた相手がヴァルドスさんだと、ばれるきっかけを作ったのも、エールでした。
最後のは、今さら、誰のためにもならない、余計な事だと言う人もいました。でも、結果として、街の子供たち、特に女の子達は助かりました。
ヴァルドスさんは、いわゆる大商店の跡取り息子で、お嬢さんを騙した時点では、25歳でした。ですが既に二回結婚していました。
16で最初の結婚をして、すぐ娘さんが産まれたのですが、最初の奥さんは、二年もしないうちに亡くなってしまいました。娘さんのために、まもなく再婚し、その方が今の奥さんです。親戚からの紹介で出会った人(血縁ではなかったらしいです。)で、最北系の容姿をした、痩せ型でしたが、骨太な感じの女性でした。年は、たしかヴァルドスさんより、四つかそこら、上でした。街の祭礼や行事にはあまり参加しない人でした。
前妻の娘さんは、私よりひとつ上ですが、地元の学校ではなく、早くからポルトシレルの、私立の寄宿学校に入りました。ヴァルドスさんのお母さんの卒業した、旧い学校でした。
ヴァルドスさん本人は、そのころ、島で力を伸ばしていた、原聖女教会の、熱心な信者で、教育教会長の補佐も勤めていました。こちらは、名誉職です。ご両親は、キャビク聖女会だったらしいですが、らしい、と言われることからも、宗教熱心な人達ではありませんでした。当時は、お父さんがご病気で、入退院を繰り返し、お母さんは、そちらに掛かりきりでした。店は息子の運営で回っていました。
いわゆる、街の名士なご家族です。ヴァルドスさんは、宗教的に「古風」な教育改革をしよう、と、いう派閥のリーダーでもありました。
島で一番旧くて、数が多いのは、キャビク聖女会です。これは、デラコーデラ教の元になったアルコーデラ教から、直接派生しました。原聖女教会は、そのキャビク聖女会から派生した、新しい教会です。教義を偏屈にしすぎて、後で異端扱いされましたが、その頃は、「キャビク聖女会より、少し厳しい」程度でした。無理やり、アルコーデラ教より旧い、なんて主張することも無かったと思います。
問題のその夜は、「春の海鳥祭り」に、みんなで出掛けていました。みんな、と言っても、カラロスはもういないし、クリスンとポッペアは、主催者側の手伝いなので(漁師組合主催のため)、兄と私、ジェス兄弟とリーン、エールでした。これだけ揃うのも、当時は久しぶりでした。私がいると、兄は早めに帰らないといけないのですが、その日は父が旅から帰宅していたので、皆を連れて、夜のパレードまで見ました。
ですが、人混みで、はぐれてしまい、兄と私、ジェスだけになりました。はぐれた時の集合場所は、クリスンのお父さん達のいる案内所でした。私たちのいる所からは、ごった返しの広場を挟んで、反対側です。
「シュテ通りを行こうよ。今日は、かえって透いてるよ。」
と、ジェスが提案しました。
シュテ通りは、いわゆる歓楽街でしたが、祭りの日は休みの店が七割くらいでした。店で働く人が、島の出身者の多い場合は、このお祭りの時は休みます。この通りには、観光客向けの宿はないので、普段からは考えられないくらい、透いています。
誰しも考えることは同じらしく、通りに立ち入るとすぐ、向こう側から、ジェムが走ってくるのが見えました。でも、私たちを見かけたから、ではありません。転がるようにジェスにぶつかると、
「大変だ、大変だ。」
と、息を切らせています。背後から、よく通る、特徴のあるリーンの声が、
「出てきなさいよ!卑怯者!人殺し!」
と、叫んでいました。
びっくりして、兄は声のした方に走り出しました。ジェスも続くところでしたが、ジェムが止め、大人を呼んで、と言ったので、反対側に走りました。私は、苦しそうなジェムの背中を摩りながら、何があったか、聞き出そうとしました。でも、今度は、兄の声がし、何か叫んでいたので、私も走り出しました。
赤い宝石の絵のついた、木の扉のある、酒場らしい店の前に、皆がいました。エールが、仰向けに倒れています。何か布地を掴んでいます。リーンは、暴れて、扉を蹴飛ばしていて、兄が背後から押さえていました。
彼女は、
「開けなさいよ!人でなし!」
と、叫びました。その店の扉は開きませんが、周囲の店から、人がちらほら出てきました。
「岬の子達だね、どうしたの。」
と、赤毛の女の人が、エールの具合を見てくれました。
リーンが、
「突き飛ばされたんです。わざと落とされたんです、階段から!」
と、さらに扉を蹴ろうとします。見ると、扉の前には、五段ほど小さな階段がついています。誰かが、エールを、ここから突き飛ばしたわけです。大した高さではないのですが、エールは、気絶していますので、叩きつけられたみたいなものなのでしょう。リーンが「人殺し」と言っていたので、まさかと思ったのですが、赤毛の人が、
「早くお医者様に。頭を打ったみたい。」
と見立てていました。私がただ唖然としていると、ジェスが、警察官を連れて、戻ってきました。ジェムもいます。リーンは警察官を見ると落着き、扉への敵意は相変わらずでしたが、事情を話そうとしました。
その時でした。しゃらん、と、何か砕ける音がして、扉の向こうから女性の叫び声が聞こえ、中から、黒いガウンの女の人が、飛び出して来ました。興奮して、警察官にしゃべり出しました。
「窓から、客が、隣の店の屋根に飛び降りた。」
と言っていました。左右は、宝石の扉の家と、同じ高さの建物で、窓はあっても、飛び降りるのは無理です。警察官達は、
「裏はキャロンの店か。あそこも大概だ。」
「さすがに、今回は責任無いだろ。」
と会話し、回り込むため、走り出しました。私も本能的に走り出そうとしましたが、その時、ルースンに連れられ、父が駆けつけて来ました。
私と兄は、そのまま父と帰宅しました。父は、目を離した、と、母に怒られましたが、早くも翌日に伝わった「真相」に驚き、怒りは忘れました。
以下は、色々な人から集めた話になります。
エールは大きな怪我はありませんでしたが、大事をとって入院しました。病室には、エールのお母さんが付き添っていました。すると、そこに、ヴァルドスさんの奥さんが入ってきて、いきなりエールを殴ろうとしました。止めようとした、エールのお母さんと半ば乱闘になり、看護師さんやお医者さん、お見舞いの人、総掛かりで止めました。ヴァルドスさんのお母さんも入ってきて、三者三様の口論になり、内容から、真相が全部ばれました。
お店の窓から飛び降りたのは、ヴァルドスさんでした。あのお店は、「特殊な宿屋」もやっていて、ヴァルドスさんは、お部屋で、浮気相手と会ってから、店を出ました(相手は店の人ではなく、どこの誰かは、結局わかりませんでした。よその街の人らしく、騒ぎに紛れて逃げたようです。)。顔を隠しているマフラーを、巻き直そうと外した時に、偶然、エールに見つかりました。
エールは、知ってる人がいたから、通りを抜けるまで、一緒に来て貰おう、と、駆け寄りました。名前を呼び掛けたら、知らない、全然知らない人だ、子供だ、と言い張り、また店に逃げ込みました。店の人は、
「一度出たら、また部屋代はもらう。」
「子供は連れ込まれたら困る」
と言ったそうですが、ヴァルドスさんは強引に中に入り、マフラーを掴んだエールを、振り切るために、思いきり蹴飛ばしました。リーンとジェムは、やっぱり広場を通ろうか、と、地図を書きながら真面目に話し合っていて、エールの叫び声で振り向いたので、ヴァルドスさんの顔は見ていませんでした。
ヴァルドスさんは、二階に「追加も払わずに」駆け上がったのですが、警察が来たので、逃げ出そうと、椅子で窓を割り、飛び降りました(縦に開く型の窓でしたが、焦って横に開けようとして、開かないから割ったそうです。)。そして、キャロンの店の煙突で頭を打ちました。当然、彼も入院しました。
病院に運ばれた時は、彼は意識は無く、エールもなので、突き飛ばされた時の直前の状況がわからず、普段の彼を知る人は、浮気だとは思いませんでした。何か事情があって「赤い宝石亭」(そのままの名前ですね)に居たのだろう、あそこは、基本は宿を貸す店だし、表通りの観光用ホテルは一杯だったから、と、考える人達がいました。実際に、ラッシルとコーデラの間の密輸に、一度キャビク島を介している、とか、イスタサラビナ姫とテスパン伯爵が、別荘をこっそり建てる、とか、島の中央の古い鉱山から、いい温泉が出るらしいから、カオスト公爵が新事業をする、とか、出所の怪しい噂がたくさんありました。
ヴァルドスさんのイメージから、内緒の調査や新事業に関わっているかも、と思われていました。このため、男がヴァルドスさんだと言うことは、すぐ解っても、最初から浮気と思った人は少なく、エールがそれを駄目にした、と非難する人もいました。
ですが、駆けつけた奥さんは、一発で浮気、と見抜いたようです。そこは大したものだと思います。夫婦ってすごい、と思いました。
でも、相手は間違いました。なぜか、それが、まだ子供の、エールだと思ってしまったのです。エールの枕元には、マフラーがあったのですが、それはもともと奥さんの物で、手編みの品でした。彼女の家に伝わる模様が編まれていました。それを見て、逆上したのでしょう。でも、エールに向かって、
「これで『知らない人』『知らない子』って、何?!」
と噛みついても、知らない、と言ったのは、エールじゃありません。
その他、彼女が興奮して、捲し立てた事を合わせると、ヴァルドスさんは、もともと、少女のような、小柄な黒髪の、ふわっとした女性が好みだったそうです。最初の奥さんが、そういう人でした。でも、親に、子供のために、と、決められた再婚相手は、金髪でがちっとした感じの、年上の女性です。なので、好みの女性と、たまに浮気する事がありました。その一人が、岬で死んだ、ポルトシレルのお嬢さんでした。ヴァルドスさんは、幼い娘さんに会うために、たまにポルトシレルに通っていて、その時出会ったお嬢さんに、寡夫だと嘘をついたらしいです。
奥さんは、その事は知っていましたが、口をつぐみました。カラロスのお父さんと、私の父が疑われているのを、知っていたのに。
病院で、奥さんは、エールを疑う片手間に、これだけの事を、勝手に喋りました。お母さんのほうは、奥さんを宥めつつも、
「黙ってれば、誤魔化せたのに。岬の事件と同じに。」
と、白状してしまいました。奥さんは、興奮して倒れ、二人目がお腹にいたのに、これで流産してしまいました。それで離婚して、島を出ました。
ヴァルドスさんとご両親も、店を畳んで、出ていきました。娘さんも学校は辞めて、ついて行った、と聞いています。娘さんまで、と思いましたが、誰かがポルトシレルのお屋敷に知らせたらしいです。ポルトシレルの名門校を出ても、街で権力のある人の気に障ったら、近辺での、就職も結婚も無理でしょう。島は出たと思います。
当然、改革なんかは、お流れです。
後から母に聞きましたが、この改革が実施されたら、島の若い娘の多数が、高等教育が受けられず、滅多に島を出られなくなったそうです。だから、女性や、娘を持つ親達は、猛烈に反対していました。でも、一部の男性と、お年寄りには、妙に支持が多くて、どうなるかわからない、と言った所でした。
ですが、島はコーデラ領なので、伝統ならともかく、コーデラの法律に違反する改革は、通りません。ごり押ししても、ルミナトゥス陛下が許さないでしょう。
どちらにしても、いずれは失敗して、島を出ることになったと思います。
エールは、間接的に、島の女性を守ったことになります。
だけど、これに喜んだのは、女性ばかりではありません。ヴァルドスさんは、歓楽街に手を入れようとしていたからです。歓楽街とはいっても、表向きには、酒場の集まりですし、たいていのお店は、今では、お酒や夜食を楽しむものです。ですが、こういうお店が隠れ蓑になって、誘拐や人身売買が横行した時代・時期もありました。この街は、「漁り火女」伝説がある事と、港町ということを顧みると、まったく健全な街ではなかったでしょう。ヴァルドスさんは、完全に健全な街、聖女の街を作ろう、と考えていました。
表立って主張しているのは、女性の教育を見直す、だけですが、個人的な会話では、自分の理想を熱く語っていて、だいたいこんな感じだったそうです。
酒場は酒を販売するだけ、飲むのは家のみ。夕食時の外食は禁止。祭りはデラコーデラ教起原が明確な物のみ(アルコーデラ教から原聖女教会に受け継がれている物、と言いたい所でしょうが、ここがコーデラ領である以上、デラコーデラ教に基盤を置く点は、後々の事を考慮すると、崩せません)、極めつけは、女性の浮気や不倫は、第三者の告発で刑罰(死刑にも)に処せる、などです。
仮にこれが実施されたら、最低でも、名物の地酒の生産と、港街を主軸にした観光は、死にます。キャビクの港町の中で、ニアヘボルグは賑やかで豊かな方ですが、海流の関係で、港が凍結しない南側であることの他に、大陸から来やすい、観光の便利さが一役買っています。
なので、実は街の名士の人達は、ヴァルドスさんを煙たがっていました。エールのお父さんと、ジェス達のお父さんが、父と家で、お酒を飲みながら、話していました。私は寝てましたが、御手洗いに起きた時に聞きました。
ヴァルドスさんは、成長が遅くて、男子からよく苛められていたけど、15になってから、背が急に伸びて、急成長したそうです。もともと運動神経も成績も良く、容姿も整っているほうだったので、周囲と立場が逆転したみたいになりました。でも、エールのお父さんによると、
「それで舞い上がっちまったんだな。だが、しょせん、根性が小男のままだから、ひがみっぽい、卑屈な小さい男にしかなれなかったんだろうな。」
ということです。確かに、陰湿な「小さい」人だな、とは、感じましたが、小柄でも性格の良い人は、いくらでもいます。これはどうでしょうか。エールが好きでも、エールのお父さんの、こう言うところは、苦手でした。
私の父は、
「でも、子供の頃は、大人しいだけで、頼りない感じはしたが、女子にも優しいと評判の、良い子だったよ。ちょっとクリスンに感じが似てたか。ラゼ(最初の奥さんです)も、そう言うところが良い、と、のろけてたくらいだ。
ラゼが生きてたら、良かったろうに。サンラ(二番目の奥さん)も、たぶん、訳ありなんだから、お互い、早く折り合いをつけてれば。」
と答えました。ジェス達のお父さんは、少し詳しく、
「どうだかな。ラゼが亡くなった時、女達の間で、一時、自殺の噂が流れていただろ。結婚も仕事も上手くいって、急に自信のついたヴァルドスが、ラゼの妊娠中に酒場通いして、浮気したから、という噂だ。
酒場通いは本当だったが、浮気までしてたかは、わからん。勝手な憶測で、無責任な事を言うな、と、妻には言ったんだが…結局、女の勘はバカにできないのかな。」
と語っていました。結論は、
「自分の政策が上手くいったら、浮気は出来なくなるのに、最近の若者は解らん。」
でした。
私は子供だったので、妊娠中に、配偶者に浮気される、ということが、どういうことなのか、分かりませんでした。だから、エールの拒食症と過食症が、また再発するかもしれない、と、思ったら、殴ろうとしたサンラさんは、悪い人だと思いました。もちろん、突き飛ばしたヴァルドスさんのほうが悪いし、リーンやエールを病気にした事件のもとは、彼です。でも、自分の夫の浮気相手が、10歳かそこらの女の子、だなんて、本気で信じる奥さんのほうが、邪に思えてしまいました。
そう信じさせてしまうだけの事を、ヴァルドスさんは、過去にやらかしていたのですが。
エールは、この事件に対しては、意外にけろっとしていて、拒食症も過食症も、再発する事はありませんでした。
「やっぱり、結婚は大恋愛して、好きになった人とじゃなきゃ、駄目ねえ。」
とあっけらかんと言っていました。リーンもポッペアも同意していました。私達の年で、恋愛より、お金や地位や家柄に憧れて、結婚を夢見る少女は、いません。みんなより、ちょっといい花嫁衣装を着たい、くらいはありますが。
エールとクリスンの結婚式の時、参列した幼馴染みの友人は、私だけでした。ポッペアは出るわけはありませんし、姉のリーンはいましたが、兄は欠席、ジェム兄弟もです。私は、両親から、出席は考えろと言われましたが、私は、幼馴染み二人が結婚するのに、出ないなんてありえない、と、この時は言い張りました。
他は、女子は同学年のダリアナが、彼女のグループで集めたお金で、黄色い、タンポポみたいな花を贈ってきましたが、出席はしませんでした。これは、リーンが、エールが見る前に、脇にやってしまいました。あるオペラで、「裁き」「報い」の意味のある花、として扱われているから、と言っていました。
ダリアナは意地悪な人でしたが、そこまでするのかな、と思いました。リーンが片してくれて、良かったと思います。
式は、役所の小ホールで、十数人だけであげました。内の二人は、デラコーデラ教とエカテリン派の聖職者です。
ポッペアがルースンと結婚する時は、大ホールで、大勢の人を呼んでやりました。クリスンとエールも出席していました。兄とリーンは都合が着かず、私と
ジェス兄弟は参加しました。
色とりどりの花の中に、前に見たのと、よく似た花もありました。色は白です。 またダリアナ、と思い、脇に片そうとしましたが、通りかかったシャーンが、
「おや、珍しい。ウスユキソウだね。」
と言ったので、花について詳しく聞きました。
「王都で流行ってる、『雪夜の王子』って、小説に出てくるんだ。ある国の王子が、婚約者の姫のために、永遠の愛の象徴である、ウスユキソウを、山に取りに行く。だけど、急な大雪のため、山荘に缶詰になる。夜、取ってきた花から出てきた、男とも女ともつかない人物に、王子は恋をしてしまう。雪は降り続け、二人は、愛の日々を送るけど、雪が止んだ朝、相手は死んでしまう。王子がどうなったかははっきり書かれてないが、舞台劇では、一緒に死んだことになってる。」
この逸話のせいで、高山植物のウスユキソウが流行って、コーデラでもラッシルでも品薄らしい、と添えて。
死んでしまうけど、永遠の愛の誓いなら、いいのでしょうか。迷いましたが、送り主は、リーンだったので、片すのは止めました。出席出来ない代わりに、手に入りにくい流行りの花を、わざわざ探したのでしょう。
シャーンが詳しそうだったので、エールの結婚式の時の、黄色い花について、聞いてみました。オペラに出てくる花で、よく似てるけど、いい意味のない、黄色い花はないか、と。
「ああ、たぶん、『ファルスの店員』のコルスフットか、『鳥と泉』のタカノキズグスリだろうね。『ファルスの店員』は喜劇だけど、裁判のシーンで、主人公の恋人が、花の名前を間違えたせいで、浮気がばれてしまうんだ。最後は、主人公は不実な恋人を捨てて、本当に自分を慕ってくれる、義理の妹と婚約する。
『鳥の泉』はファンタジーの悲劇で、泉の魔法使いの主人公が、自分の許嫁を殺した、鳥人族の女勇者を、知らずに介抱して、恋に落ちてしまう話だ。傷を直す万能薬は、タカノキズグスリから取ったんだが、あらゆる傷を直すと同時に、使った二人が、お互いに惚れてしまう、という、曰く付きの薬だ。これは、最後は、心中で終わる。
『ファルス』に比べて、『鳥』は、発表当初は、コーデラではぱっとしなかったんだが、チューヤの名歌手のイーナ・ウォンが歌って、逆に見直されたんだ。」
そういう話なら、たぶん、コルスフットのほうでしょう。ウスユキソウに罪はないと知って、安心した私は、花を片すのは止めました。
だけど、この時の花は、結局は皮肉だったなあ、と、後になって、思いました。贈ったリーンに、皮肉があった、という意味ではありません。
純粋な善意から出た事が、後で皮肉な意味合いになることもある、という意味でした。
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