閑話「四番目の私」-上


「もー、シーちゃん。そんなに落ち込まなくてもいいでしょー?」


「そうですよ、シルクも頑張ってるし。ただ運がないだけです」


「あー、そこが大変なんですよー!」


 机に被さる様に倒れこむ。


 もう最近辛い事ばっかだ。さっきも、30階層まで行った冒険者が急に来なくなったなーって思ったら、今日その知人と話して、辞めたっていう事を聞いてしまった。これで一人攻略者が減ったんだけど。


「ほら。元気だしなよ! 冒険者ぐらいまた、来るから。はい! これでも飲んで!」


「うー、なんですか……えっ? おいし!」


 落ち込んでるところで、シュナさんが差し出してくれた飲み物を一口飲む。

 何これ美味しい! 甘くて口の中で広がって、後味はすっきりしてて。なんて名前のジュースなんだろう?


「美味しいでしょ? この前あの人に教えて貰ったんだぁー」


「あの人ですか? えっと、確かセリエーヌさんの……」


「そうそう! ヒカルさんだよ! 見た目がっしりしてて、強そうなオーラ。攻略は冒険者の中ではダントツのトップ。でも、見た目とのギャップの優しさ! しかも、料理まで出来るって! もー完璧でしょ! あー、あの人の隣にいる女性は嘸かし幸せなんだろうなぁー」


 シュナさんがいつも以上に興奮している。そこまで凄い人なんだなぁ。ヒカルさんかぁ。私はまだ見たことないんだけどな、どんな人なんだろ。


「シュナさん、あの人恋人いないって言ってましたよ?」


「本当に? サラちゃん! じゃあ私にも可能性が!?」


「いや、それは無いと思います。だって、セリエーヌさんの担当ですから」


「あ、そうだった。それは無理だなぁ、セリエーヌさんがいたらそっちに行っちゃうでしょ……」


「その通り」


 シュナさんとサラちゃんが盛り上がってる。さっきまで私の話してたのにもう関係ない話をしてる。まあ、どっちも成績いいからなぁー。はあ、いいなぁー、できる冒険者がいるって。

 私もヒカルさんみたいな人の担当だったらもっと楽しいんだろうけどなぁー。


「でも、セリエーヌさん最近こっちに顔出さなくなっちゃったよね? シーちゃんは事情とか知ってる?」


「え、セリエーヌさんですか? シュナさんも言ってた通りトップ冒険者の担当ですよ? 毎日忙しいんですよ。だから今は私もあまり知らないです」


「そっかぁ、シルクも知らないか。また一緒に仕事したいのになぁー」


「それは多分難しそうですよねー」


 セリエーヌさんは今はギルドで一番仕事が出来ていて、みんなと違う形でヒカルさん達専属になっている。そんな人とまた同じ仕事ができるようになるのは難しいと思う。

 でも羨ましいな、そういう担当になれたら。でも今は、ヒカルさんからセリエーヌさんの話になって私の話はうやむやになってるけど、私の中ではうやむやにならないよ! ずっとモヤモヤしてるよ。


「……はあ、私も良い冒険者の担当になりたいよ」


 担当の成績は冒険者の成績によるから、良い冒険者に出会えないと成果は上がらない。セリエーヌさんはヒカルさん始めそのパーティの人達。シュナさんはジエイタイの人達の一班を任されているし。サラちゃんは中々強い女性パーティの担当だし。みんな成績は良い部類に入ってる。

 はあ、私の担当の冒険者だけあまり良いのがいない。一番良い冒険者のケンジさん達でもまだ50階層手前だし。

 運が無いって言われるけど、ほんとずっとこの調子だし、もうどうにかなっちゃいそうだよ!


「どんな人でもいいから凄い冒険者が入って来ないかなぁ……」







「ようこそ、冒険者様」


「おお! びっくりしたぁ! え、何々? ここ何もないね? てか君すっごく可愛いね! 俺は祐也って言うの。君はなんて名前なの?」


「わ、私はシルクって言います」


 え、何急にこの人。凄く喋る。


「シルクちゃんって言うのか! 可愛い名前だね。エルフも初めて見たし、本物の耳なんだなー、キュートな耳だね! てか、芸能人並みに可愛いわ」


 な、なんかグイグイ来るし。私の苦手なタイプだ。何というかチャラいってやつかな?


 最近冒険者が少なくなって来ていたから久しぶりに私が担当として来たけど、

 はあ、また変な人の担当になっちゃったよ。どうして私が担当になる人はみんな変なんだろう。




 それから見ていたけど、この人はモンスターを倒すのに躊躇はなかった。


 チュートリアルはしっかりクリアでき、今のところは不安はなかった。あの立ち回りはちょっと強引なところがあるけど、これから経験していけば安定しそうだと思う。

 もしかして少し期待しても良いのかも?


「お! この新人は調子いい感じだね!」


「あ、シュナさん。そうですね、割といい感じでクリアしてくれました。ちょっと期待できるのですけど、でも、ね……」


「あまり得意なタイプでは無いってやつだね」


「あ、バレてますかぁ」


 シュナさんも側から見てたと思うし、バレるのは仕方ないなぁ、私とはあまり合わないだろうって思ってると思う。

 今の私には人がいないから関係なしに頑張るしかないけど、期待したいけど、苦手意識が出てしまう。うーん、これからユウヤって人とどう付き合っていけば良いのだろう。




「え? ユウヤさんの友人達ですか?」


 後日友達という二人を連れてダンジョンに来た。


「そう。こっちが将貴で、こっちは里奈。こいつらも様なんてつけなくていいしね!」


「よろしくお願いします。シルクさん」


「よろしくね、シルクちゃん!」


 ユウヤさんの仲間かぁ。ユウヤさんは10階層をクリアしてるし、そのお仲間なら期待してもいいのかな?

 うん、期待しよう! ユウヤさんは私が担当する中で一番の期待株だし!他の冒険者は30階層以降来なくなったり、死んじゃったりしたからね、だったら早くこの三人には先に進んで欲しいな。


「よろしくお願いします! マサキさんにリナさん!」




「そうかぁ……」


 で、この二人ユウヤさんみたいに強くなかった。


 ユウヤさんはしっかりモンスターを倒して強くなっている。今も15階層まで一人で行っているのに、この二人はまだ3階層かぁ。

 チュートリアルもギリギリだったし、期待してたんだけどなぁ。

 いや! ユウヤさんに頑張ってもらえれば大丈夫だと思う。まだ始まったばかりだし。


「シルク、新人の二人はどうですか」


「あ、サラちゃん。うーん、まあまあなのかな? チュートリアルでの動きは普通より良くないぐらいだけど、ユウヤさんがいるから大丈夫だと思いたいって感じかな?」


「そう。シルクは空回りする事が多いから、ゆっくりした方がいいと思うよ。ここに来た理由も理由でわかるけど、焦らない方がいい」


「うん、わかってる。サラちゃんの言う通りだね。気をつけるよ」


 でも、焦るなって言われても難しい。早くセリエーヌさんみたいになりたいから。成績は上げないとダメだから。

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