当店の日常


 ――その客は決まって、毎日23時53分に入店する。

 反応しては、ならない。


「こんばんは!」


 ――その客は決まって、大きな声であいさつをする。

 反応しては、ならない。


「僕のユビ、知りませんか」


 ――その客は決まって、自分の手のユビの行方について質問をする。

 反応しては、ならない。


「ああ、指と言っても足の指じゃなくて手のユビなんですけど」

「――――」

「全部で10本、どこかにあるはずなんです」

「――――」

「僕バカだから、どこかに落としてしまって……今すごく困ってるんです」

「――――」

「ほら、証拠にこれ――」


 ――その客は決まって、自分の手の平を私たち店員に見せようとする。


 ここから先は、反応を許可する。

 ここから先は、反応を許可する。


「あ、あれ? なんで、なんで……?」

「――――」

「どうして僕に、ユビがあるの……?」

「――――」

「あれだけ、あれだけ数えたのに……まだ足りなかったの……?」

「――――」

「あ、ああ……あああ、あああ」


 ――その客は決まって、毎日23時59分に退店する。


 反応を許可する。反応を許可する。どうか、どうか反応を――反応しては、ならない。



§



 ――その客は決まって、毎日23時53分に入店する。

 反応しては、ならない。

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