ゆきじかん

夢ノ命

第1話 【雪の朝】

 

 雪が、たくさんつもった朝でした。


 マキオは、洗面台にむかい、歯をみがいていました。

 ガラスにうつる、じぶんの顔をのぞきながら、シュッ、シュッ。

 

 とくいの、お母さんからおそわった、みがきかたです。

 これでやると、とても歯がきれいになるんだそうです。


 口から、白いチューブがあふれそうなので、ぺっ、と、ながしにはきだしました。

 あらいたての、チューインガムのようなにおいがしました。


「マキオ、おそとは雪がいっぱいだからね。あたたかくして、はやめに家をでなさいよ」


 お母さんが洗面所に顔をだしました。

 と思うと、すぐにいなくなり、バタバタとスリッパの音だけが台所のほうへ、とおのいていきました。



 あと30分たったら、もうマキオは学校へいかなくてはなりません。


 あまり時間がないなあ。


 マキオはそう思うと、いそいで口をゆすぎ、そわそわと顔を洗いました。


 洗面台のよこの、ちいさなくもり窓には、雪ごおりのかたまりが、てんてんと、くっついています。マキオは近づいていって、雪ごおりのかたまりを、よく見ようとしました。


 すると、とつぜん、窓に大きな影がうつり、外でものすごい音がしました。

 どうやら、屋根の雪がおちたようです。

 マキオはあわてて、台所へかけこんでいきました。



***



 やきたてのトーストに、マーガリンとオレンジジャム。

 マキオのお母さんがていねいにぬっていきます。


 アツアツのあまい香りのトーストが目の前におかれると、マキオは犬のデラーラのように、トーストに鼻をちかよせ、おもわずくんくんかいでしまうのです。


「おぎょうぎがわるいから、やめなさい」


 というマキオのお母さん。


 あきれるくらい、このやりとりは毎日のことで、お母さんのなかのもう一人のオニババアが、すごい目でマキオをにらみます。


 かまわずに、マキオはトーストを食べだしました。

 


 ひと口かじれば、マキオの頭の中に、しろつめくさの野原がうかびあがります。


 ふた口かじると、春の日の、地面を横断しているかたつむりの姿がよみがえってきます。



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