夜会厄介 〜たまには薔薇も粉砕する〜
そろまうれ
一章 アイトゥーレ学院編
プロローグ ミミズが太陽に勝負を挑んでどうすんだ
鏡で顔を見る。顔色が悪くてそばかすだらけ、目つきはどんより死んでいる、髪の毛はボサボサで、おまけにチビで寸胴だ。
見れば見るほどみにくい姿だ。
貴族院にいる令嬢たちと比べれば、雲泥の差どころか太陽とミミズくらい違う。
カテゴリーがそもそも違う。
記憶にある母様は「その姿は、あなたを守るものよ」とか言っていたけれど、もうちょっと加減してほしかった。いくらなんでも守りすぎだ。
はあ、と心からのため息が出る。
窓から見える青空の健やかさすら疎ましい。
わたしの最悪はまだまだ続く――
いや、なんでだ。
これは十と五年も付き合い続けた顔だ。
さすがにもう慣れてもいい。
けど、どういうわけか鏡の向こうの姿は、新鮮な落胆を日々わたしにくれた。
起きて見るたびビクッとする。
「落ち込んだところで、何も変わらないのにな?」
ここはアイトゥーレ学院、北方にある孤立した島で、今わたしがいるのは屋根裏だ。
見た目としては山小屋の中みたいで、案外住心地はいい。
わたしはクレオ・ストラウスという名の下働きで、それなりに長くここで暮らしている。
生活は厳しいけれど、あまり不満はない。
なのに――
今日の午後、わたしはこの学院で泥棒をする。
ここの学院生に――貴族令嬢に喧嘩を売る。
「やっぱ止めないか?」
鏡の向こうに問いかけた。
いくらなんでも無謀だ。
ミミズが太陽に勝負を挑んでどうすんだ。
鏡向こうの顔は情けなく眉を下げ、口はへの字に歪んでいる。
最初から負けを認めたような、とても情けない表情だ。
けれど、目ばかりは「知るか、やってやるんだよ」と意欲に燃えた。
気に食わないあの令嬢に、ほえづらかかせてやると宣言してた。
「うん」
その目を見返しながら、わたしはわたしに向けて言う。
「せっかく買った喧嘩だ、全力で行こう」
誰だって、譲れないものはある。
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