冥界転生記
93音
第1話:エピローグ
ここは…どこだ?
俺は気がつくと見覚えのない空間にいた。
少し広めの部屋のようだ。ただ空間があるだけで家具や装飾が施してあるわけでは無かった。
内装はとても綺麗で、埃一つ見当たらないほどだ。
「目が覚めたみたいね」
突然、背後から声をかけられた。
慌てて振り返ると、そこには1人の少女が立っていた。
「うおっ」
急に現れた少女に驚いている俺をよそに、彼女は続けて言った。
「私は天使のリリア、よろしくね」
まだあどけない顔に、白く透き通るような短髪がよく似合っていた。
「よ、よろしく…」
とりあえず返事をしたが、この状況も彼女が何を言っているのかもさっぱり分からなかった。
「んじゃ、早速始めちゃおっか」
「始めるって何を?」
彼女は威勢よく言った。
「転生くじ!」
「転生くじ…?」
聞き覚えのないワードに困惑していると、彼女がふと何かを思い出したように言った。
「ごめんごめん、ちゃんと説明するの忘れてた。今からきちんと説明するから聞いててね」
彼女は少し悪びれた様子で語り出した。
「まず、あなたは死にました」
開口一番彼女はそう言った。
いきなりのトンデモ発表に俺の思考はそこでストップした。それでも彼女は俺に構わず喋り続ける。
「んで、人間としての生命は終わったわけだけど、魂は消滅しないから次の転生先を…」
「ちょっと待って!!」
俺はたまらず、喋り続ける彼女にストップをかける。
「何か分からないことでもあった?」
彼女がケロッとした顔で言った。
「分からないことだらけだよ。まず、俺って死んだの?」
俺の言葉を聞くと、彼女はキョトンとしたのち、はぁ…とため息を吐いて呟いた。
「無自覚系か…」
「無自覚系?」
「うん、死んだことに気づいてない人のことをそう呼ぶの」
俺は自分で気付かないうちに死んでいたというのか?
彼女は続けて言った。
「あなたの昨日の1日を振り返ってみて」
彼女に言われ、俺は昨日のことをゆっくりと思い返してみた。
※
その日はどうも寝覚めが悪かった。
朝、目が覚めた時から二日酔いのような気持ち悪さがあった。何とか大学へ行き、授業後、速攻で帰宅しベッドに倒れ込んだところまでは覚えている。
「そのまま永遠の眠りについたってこと」
回想中に、突然彼女の声が割って入って来た。
「ちゃんと健康診断に行ってないからこうなるのよ…」
面倒だと感じ、健康診断に行かなかった俺は何も言い返せなかった。
仕切り直しだと言わんばかりに、パチンと手を叩き少女は言った。
「んじゃ、本題に戻るけど、早速転生くじを引いてちょーだい!」
「だからその転生くじって何だよ」
「あなたの転生先をくじ引きで決めるの。同じ人間界もあれば、憧れの異世界もある。とにかく色んな世界に転生できるチャンスってことよ!」
転生って前世で積んだ徳の大きさとかで決めるんじゃないのか?という言葉は飲み込んだ。俺自身が何の徳も積んでないからだ。
「んじゃ、さっそく引いちゃっていいわよ」
そう言うと少女は、どこからか少し大きめの抽選箱を取り出し、俺に突き出してきた。
「さぁ、あなたの運命やいかに」
少女はどうやらこの状況を楽しんでいるようだった。たった今死んだことを知らされた俺の気も知らないで。
異世界のようなファンタジー世界に行けたらいいなぁ…と思いつつ、抽選箱に手を突っ込んだ。テキトーに一枚掴み引き上げる。
恐る恐る取り出した紙を見る。そこには、こう書いてあった。
『"冥界行き"』
冥界…?俺が呆然としていると、少女が大きな声で喋り出した。
「おめでとう!あなたの転生先は冥界に決定しました!」
「冥界…?」
「そう!冥界!!言葉は通じるようにしとくから安心してね!」
言葉云々の前に、冥界って人が死んだら行く"あの世"的な場所だよな。普通の死後の世界じゃねーか。
ガッカリしている俺をよそに、少女は続けた。
「んじゃ、早速転生させまーす。それ!」
「あっ、ちょっと待て!」
俺の静止もやむなく、俺の周りを無数の光が囲んだ。
どんどん視界が眩しくなってくる。
「いってらっしゃーい」
少女の声は遠くに聞こえ、俺の意識は朦朧としていった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます