第12.5話 妹と兄
‘’今日は遅くなるかもしれない‘’
兄さんからLINEが送られてきた。
‘’承知いたしました。何時ごろ戻られるのか、目処がついたら教えていただけると幸いです‘’
返信する。
すぐ兄さんから返信が来るはずだ。
兄さんが帰ってくるまでにお掃除をして、勉強も終わらせてしまおう。
そうすれば帰って来た時ずっと兄さんとお話しできる。
本当は寂しい。
友達と遊ぶのだろうか。友達と遊びたいなら私と遊べば良いのに。
最近は私と遊んでくれる機会も少なくなった。
ただそれを強制するほど、兄さんを縛ったりはしない。
きっとこれからこういう事は沢山あるんだと思う。
兄さんが会社で働いた帰りにお店に寄ったりするたびに文句を言うような妻にはなりたくないし、何より嫌われたら元も子もない。
ただこういう事があるたびに、兄さんの私以外の用事がなくなれば良いのに、とは思う。
あの『幼馴染』と『部活』が兄さんから無くなったように。
♢
おかしい、兄さんからLINEの返信が帰ってこない。
‘’兄さん?何時ごろ戻られますか?’‘
’‘返信してくださらないんですか?’‘
’‘何かありましたか?心配です’‘
気がついたら同じような内容のLINEを100件近く送っていた。
一体どうしたんだろう。
連絡は必ず返すと約束したのに。兄さんもそれを守ってくれている。
私を大切にしてくれるから。
もしかして電源が切れたんだろうか?
そういう事はたまにあるから通話をしてみる。
PPPPP
通話のコール音はなる、だが電話には出ない。
という事は電源が入っているという事だ。
兄さんが私の連絡をまた無視するなんてあり得ない。
そんな事、ある訳がない。
本当に何かあったんじゃないか。
心配で心配でしょうがない。
兄さんは私の生きる意味であり、意義であり、目的。
兄さんに何かあったら私が頑張って生きている意味も無くなってしまう。
今すぐにでも学校に行きたいが、一度連絡を無視したのを気にして学校に出向いた時、学校には来ないようにとキツく叱られた事がある。
いつものように兄さんを待つべきか、嫌われるリスクを取るべきか。
どうしよう、どの選択肢が最適解かわからなくなる。
・・・・あ、
気がつくと涙が流れていた。
私が流してるの?
そうか、泣くってこういう事だった。
久々すぎて懐かしさすら感じた。
私が物心ついてたから泣いたのは、これで6回。
その6回全てが兄さんの事だった。
兄さんといると幸せだけど、たまにこうして、たまらなく辛くなってしまう。
勉強をして成績を残したり、学友とコミュニケーションを取ったり、身だしなみを気をつけたり、たまに運動したりするのも、結局全て兄さんといるため。
私が唯一、感情を揺さぶられる存在。
今とても辛い、この感情を自分ではどうにもできない。
だから兄さん、早く帰ってきて。
♢
ひたすら玄関で待っていた。
もう20時近い。
泣いてる顔を見られたくないので顔を洗って、涙は流さないようにしていた。
警察を呼んだ方が良いんじゃないか。
こんなに遅いのはおかしい。
「ただいま」
帰ってきた!
「兄さん!!!!!!!」
思わず大声をだして兄さんに飛びついた。
良かった。
帰ってきた。
帰ってきてくれた。
私の所に。
そう思うと先ほどまでの焦燥感がどんどん消えていく。
兄さんに抱きついているので外の匂いと兄さんの匂いを嗅いで
兄さんが近くにいる事による安心感を得る。
やっぱり私は兄さんがいないとダメなんだ。
先ほどまで我慢していた涙が、逆の意味で溢れそうになる。
そして安心が、どんどん怒りに変わっていく。
・・・・私が兄さんを心配しているのは、兄さんもわかっているはずなのに。
「とにかく話は聞かせてもらいます。早く家にあがってください
兄さんの手を引っ張るようにして居間につれていく。
怒りの感情を覚えながらも、先ほどよりも冷静になった私は、我ながら獲物に逃さないよう、自分の巣に連れ帰る肉食獣のようだなと客観的にも思っていた。
結局、自分も動物の枠から出ない存在なんだ。
動物のように邪魔な奴は殺せたら楽なのに。
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