第12話 焦燥感

いや落ち着け。


彼らがここに入ってくる訳はないんだ。

今は関係ない。集中しよう。



彼らに邪魔されてないのに手を止めてしまったら、本当に心の底から負けているって事じゃないか。



聞き耳を立てながらも、決意し筆を持つ手に力を入れる。


すぐに声は教室から遠ざかって・・・はいかず教室のドアの前でピタッと止まり、ドアが数回ノックされた。


え?


ノックの後に扉が勢いよく開く。


「夏希ーやってんのー・・・・・・」


「・・・」


「・・・」


扉を開けたのは慶太君だった。

後ろには取り巻きも見える。


「何でお前見たいな奴がここにいるんだよ。あ?」


僕を見た後に、硬直した慶太君だったが、すぐに表情が怒気を孕む物に変わってこちらに近づいてきた。


慶太君が余りにもシリアスな表情をしていて、自分が何かとんでもない事をしでかしたのかのような気持ちになる。


「何でって」


ただ悪い事をしている心当たりがない。

僕はただ部活を探して、ここにいるだけで。


「それは私のセリフ。お前が何様なん。部外者はおのれやろ」


堂々とした声が、僕の横から発せられる。横を見ると空見が目つきを強めて慶太君を見ていた。


「部外者じゃねーよ。俺も書道部なんだから」


へ?

慶太君が?書道部?


彼が中学までバスケ部だったというのは聞いた事があったが、てっきり今は帰宅部だとばかり思っていた。


「じゃあ言う良い機会ができて良かったわ。アンタはクビ、用無しね。バイバイ」


僕らより1年下のはずの空見は、慶太君相手にも容赦がない。

やはり誰にでもこうなのか。


それとも、もしかして部活の仲間とは別に、この2人は知り合いなのか?


「俺の人数合わせが埋まったからって事か?こんな奴いれんなよ」


慶太君が僕の方を一瞥して言う。

後ろのクラスの取り巻き達も、こんな事になるとは思っていなかったのか、慶太君が感情的に乱暴な言葉を使っている様子を見て驚いているようだった。


僕も慶太君はいつも飄々としているイメージで、グループの中でも口数は多くないが、リーダー的な立ち位置だったので、ここまで感情を表に出しているのは初めてみた。


「私のする事は私が決める。誰を置いて誰をクビにするかもね。シンプルにサボる、やる気のない奴の席は無いって言ってるだけ。じゃ、もう邪魔だから出ていって良いよ」


一瞬静寂になる。

慶太君も今の空見の言葉は効いたようで少し口籠もっているように見えた。


クラスではリーダー的な存在でみんな慶太君には好意的だし、こんなきつい事を言う人は少なくともクラスではないだろう。


慶太君は空見から僕に目線を移して、再度空見を見る。


「・・・・夏希、お前、知らねーんだろ。こいつの事」


僕の事?


「お前、絶対嫌いだよこんな奴。こいつはな」


ガン!!!!!!!!

瞬間壁から鈍く、とても大きい音がした。


大きな音に脳が思考停止してしまい、何が起こったのかわからなかったが、音のなる方を見て何とか理解できた。


壁に近づかなくてもわかるほど壁が凹んでいて、近くに墨入れが転がっている。

空見が壁に投げたんだろう。


慶太君の後ろのグループの女子たちも驚いたようで、各々驚きの声をあげていた。


ただ女子グループの中で茜だけは特に驚いた表情を見せていなかった。

あれ、僕も思い出の中の茜は大きな音とか苦手だったはずなのに。


「今はコイツの話じゃなくてお前の話をしてんねん。私はお前に出てけって言ってるから出てけや。それとも力ずくで出ていかせてやろーか?」


「・・・」


二度目の静寂。

何か言いた気な表情をだったが、今度こそ慶太君は踵を返して早足で出ていった。


後ろにいた取り巻きを押しのけて出ていったため、教室に取り巻きのグループだけ残され、彼らも慌てて出ていく。


確かに僕は自分の学校生活を変えたくて部活に入った。


でもそれは、今起きている負の問題には触れず、楽しい時間を増やそうという取り組みだった訳で、部活に入る事でこんな事になるとは夢にも思っていなかった。


これからの学校生活は一体どうなってしまうんだろう。

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