奴が来なけりゃホテルに直行!

崔 梨遙(再)

1話完結:900字

 二十歳の頃。もう女性を知り、女性と会話するのにもすっかり慣れていた。僕は、女友達の亜子に呼ばれて居酒屋へ行った。


 座るなり、亜子は両手を合わせて“お願い”ポーズ。


「なんやねん、何か頼み事か?」

「私の彼のこと、知ってるやろ?」

「33歳の料理人、妻子持ち」

「彼氏の家に電話してほしいねん(携帯の普及していない時代)」

「えー! ごめん、嫌」

「お願い、電話してや」

「自分で電話したらええやんか」

「女の私が電話して、奥さんが出たらどうするのよ」

「部下ですって言ったら怪しまれへんやろ」

「怪しまれるわ」

「もう、3年も付き合ってるのに離婚してくれへんのやろ? アカンやん」

「やめて、そんなことは聞きたくない。電話してくれたらええねん」

「僕に何のメリットも無いやんか」

「ほな、彼氏に電話して、1時間以内に来なかったら崔君とホテル行くわ!」

「マジ? それを早く言うてや」

「電話してくれるん?」

「なんて言ったらええの?」

「いつもの店にスグきてください、亜子が待ってます、これだけでええわ」

「わかった、任せとけ」


「もしもし、崔と申します」

「はい、中林です」

「仕事の件で、大悟さんをお願いします」

「はい、お待ちください」

「はい、代わりました」

「あ、僕、亜子さんの代理で電話しています。亜子さんが、いつもの居酒屋にスグに来てほしいと言っています。以上です。失礼します」



「亜子ちゃん、もう行こうや」

「まだ30分しか経ってないやんか」

「えー! まだ待つの?」


「よっしゃ10分前!」

「もう、崔君に抱かれようかなぁ」

「ほな、ホテルに行こうや」

「うーん、ダメダメ、やっぱりあと10分。キッチリ1時間待ってみる」



 大悟が店に着いたのは、55分経過した時だった。会うなり、大悟と亜子はハグを始めた。僕はスッと消えて、夜の繁華街を一人で歩いた。そして、風俗店に入ってしまった。この状況、風俗店に行ったことを誰も非難しないだろう。え! 非難される? どうなの? この時、僕には恋人はいなかったのですが……。とにかく、嫌な思い出だ。







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奴が来なけりゃホテルに直行! 崔 梨遙(再) @sairiyousai

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