六話
〈前回のあらすじ〉
家を案内してもらった。
今のところは三つ空き部屋があり、誰がどれを使うかで話し合うことになった。
〈本編〉
「エンペラーサイズベッド……か」
と俺は誰にも聞こえないほど小さな声で呟く。
とても良さそうな寝心地だ。ただ、屋根裏部屋というのが難点だろう。
座椅子も快適そうだ。
「悠、ここがいい?」
春が訊いてくる。
「どこでもいい」
「……」
ここは争奪戦になる……と思っていたのだが。
「あたしは下がいい。廊下に音が響くのはちょっと……」
「……あはは……ジブンも下がいい、かなぁ……」
「お兄ちゃんと一緒に寝たい!」
「「え??」」
意外な事に、音が漏れる、というのがピンポイントで嫌な様子だ。
「自分も、下にする。
フユ、今日はどこで寝るの?」
春も改めて自分の意思を示す。
が、同時に先程の冬の意思を問いただす。
「お兄ちゃんと一緒に寝たいから、お兄ちゃんと一緒に寝る。お兄ちゃんはどこで寝たいの?」
「俺は……屋根裏部屋、かなぁ……」
「そうなんだ。じゃあ、今日はいい?」
「一旦落ち着いてからにしような」
やんわりと断る。
「ふーん……お兄ちゃんと一緒に寝るの、興奮して下の階に音が聞こえちゃうかもしれないけど、気にしないでね」
「……誤解を招く言い方はやめよう」
「え、なんのこと? まさかお兄ちゃん、わたしで……」
「無い。それは無い」
依存気味の冬を、三人がそれぞれ眺める。
フォローを出したのは秋だった。
「じゃあジブンも、エンペラーベッド使いたいかも……あはは」
「秋が寝ても持て余すだけじゃないか?」
「一回寝てみたくない?」
特注仕様とのことで、寝てみたい気持ちが抑えられないのだろう。
「一回だけなら、あたしも寝たい!」
「ナツ姉。アキ……わたしが先に言い出したから、端っこになら寝ていいよ」
「でもさ、フユ。フユも本当は一人部屋がいいでしょ?」
「それは、そうだけど……」
ナツは部活動で疲れていることも多い。
睡眠の質も意識しているのか、寝たいと言い出した。
「皆。聞いて」
と、春も喋りだす。
「皆それぞれ寝たい時があるから、交換するのはどう?」
「交換?」
「私室は全員にあるから、屋根裏部屋は悠の私室。もし寝たいなら、自分達の私室も見せないと対等じゃない」
謎理論だが、まあ確かにと思った。
「ハルの考えだと、その勇気があったら、交換や同衾を認めるってこと?」
と、夏が訊く。春が頷いた。
「それにしてもいいかもね……賛成の人」
秋が賛否を確認しに声を発した。ここは春に同調した方がいいと判断したのだろう。
俺は勿論手を挙げる。秋、そして春も手を挙げた。
夏は、「部屋の中を見られるのは……」と妙に頬を赤らめて、挙げかけた手を下げた。
冬はもちろん反対する為、手は挙げない。
「賛成多数だし、俺は屋根裏部屋で、もし寝たいなら交換するって条件でいいよな」
と改めて確認を取ると、それぞれが頷いた……
部屋のことは少し先延ばしにした、という感じだ。
荷物の運び込みに加えて、空き部屋の片付けも後日にある。
春休み自体はまだあるものの、四月に入った部活が再開する。
夏は余計に忙しくなる。とすれば、部屋の交換、なんて悠長なことは言えないはずだ。
結局、実際に部屋の交換とかはなさそうだ。
部屋の座椅子に凭れつつ、Wi-Fiについて少し調べる。
ルーターは引越し業者が持って来てくれるらしいんで、それまでの事前調べだ。
スマホを眺めていると、階下で廊下を歩く音が聞こえたり、階段の上り下りの音が聞こえる。
静かではあるが、雑音とも、雑音じゃないとも言えない……どちらかというと雑音、といった大きさだ。
ただ、その雑音が急に大きくなる。
階段を見ると、人が登ってきているようだった。
「今ちょっといいかしら?」
と、部屋に入らないで声が掛けられる。
「はい」と答え、座椅子から立ち上がって階段の方へ。
階段を降りている途中で、知火と出会う。
知火は階段を降り、それに続いて会話する。
「トラックが来たらしいわよ」
「予定より早いな……
じゃあ、荷物取ってきます」
「手伝ってもいいかしら?」
「いえ、結構です」
「そう? 何かあったら遠慮せず呼んでね」
下に行く。
道路からガレージに回ると、トラックがあった。
金持ちらしい一軒家だ。
とはいえ、ここは特別金持ちが多く住む所らしい。
ただ単に、そういうお高い場所という訳であり、普通にタワマンがいくつか突っ立っていたりする。
トラックの方に行くと、既に四宮家は揃っていた。
「悠」
と、秋が話しかけてくる。
「これ、ジブン達の業者のトラックだから」
「そうか? 手伝うぞ」
「いや、大丈夫」
「遠慮しなくていい」
「……じゃあ、お願いしよっかな。あはは……」
ということで、荷解きで一時間くらい時間が潰れた。
温泉施設みたいな洗面所で手洗い嗽をして、一旦部屋に戻る。
階段の所で呼び止められた。
「ちょっといいかい」
と、ボブカットが揺れる。水愛だ。
「どうかしたか?」
「いや。トラックがもう一台来てるから、出迎えてあげてはどうかな」
「ああ、もうこんな時間か。
悪い、行ってくる」
玄関を開けると、一人の女の子がいた。
整った顔に、カラフルな髪の毛。低い身長と反比例したムチムチの体が特徴的な……
俺の幼馴染であり、大親友。
「うわ、いたのか?」
「初っ端から雑な扱い!?」
初っ端からかっこいい苗字にかっこいい名前なこいつは、割と金持ちの家だ。
どこかの財閥の長だとかなんだとかで、財閥の中でも一段と格が高いだとか。
知り合った経緯は色々とあったのだが、あの時から交友は続いている。
あんな急なトラックの手配も財閥のコネと力があればちょちょいのちょいだ。
世話になりっぱなしではある。
「じゃあうわ出た」
「ワタシのことゴキブリみたいに言わないでね!?」
「っと。トラック出してくれたのはお前じゃないよな?」
「大丈夫。運転手の運転免許はゴールドだよ。
まあここ十年間乗ってないらしいけど」
「返納させようや」
と、それはともかく。
「荷出しか」
「部屋入っていい?」
「前の使用者がいるから、結構豪華だぞ。前の家よりは少なくとも」
と。家の中に……通そうとして、少し考える。
「悪い、少し待っててくれ」
「あ、うん。こっちも運転手と話してくる」
一度知火の部屋をノックし、知火を呼び出す。
中に入れていいかだけ確認して、下へ戻った。
「大丈夫らしい」
「そう? じゃあお邪魔するね」
後ろの方の業者の人三人が、段ボールを持ってくる。
家に通した。
荷物、といっても、学校関連の荷物しかない。
「椅子ふわふわじゃん!」
「いいだろ」
と言いつつ……
業者の三人から荷物を受け取り、あらかじめ考えた置き場に置いていく。
「ベッド広い。何これ。ワタシの別荘のものより広い」
「別荘って、あれだろ? 駅前の」
小学校の時は別荘から通っていたらしい。
あの時の風呂やベッドもクソ広かった思い出があるが、確かにこのサイズのベッドは見たことない。
とはいえその言い方だと、別荘じゃない所にはあると言っている様に聞こえるが。
「荷解き手伝おっか?」と訊いてくる。「いや大丈夫」と答えつつ、開封。
学生服、鞄、予備の靴下や習字セットなど、中学生の頃のものも一応入っているが、もう使うことはない。
「ここが新居かぁ……ねぇ、なんで屋根裏部屋なの?」
「部屋が足りなかったからだ。説明はしただろ」
「あ、うん」
星宙は荷物だけ確認して……
「じゃあ、お邪魔しました」
「ああ。下まで行くか」
そうして一度下まで来る。
「また」
「うん。じゃ、また」
トラックの荷台に乗ると、荷台が閉鎖される。
残り三人を乗せたトラックは、ガレージから出ていく。帰っていったようだ。
一息付いて、洗面所に手洗い嗽をしにいった。
〈次回予告〉
「ようやく出番が貰えたね、やったね!
と言うわけで、次回予告はこちら!
とうとう始まった新生活での一日目。
最初の晩餐いざここに!
次回 のと⁴ 第七話!
『修羅場』
じゃあ皆、来週また会おう!」
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