四話

 〈前回のあらすじ〉


 遂に家にまでやって来た。歓迎会が始まる。

 のと⁴、本格始動。




 〈本編〉


 春は長髪だ。

 夏は短髪だ。

 秋、冬はそれぞれ肩の下くらいで、髪をそれぞれ、右に左に纏めている。

 ただ、知火もぜんぜん違う髪型だったし、シャンプーは高級なんだろうか……と思いながら過ごしていると、足音が聞こえる。


「……」


 そうして。ボブカットの少女がやってくる。

 髪は後ろで緩く括っている。

 どうやら席は決まっているらしく、俺の隣にサッと座ってくる。


 後から春が来る。春は対角に座った。

 そして……


 最後に、一人来た。


「ジブ。こっち」


 と、知火が言う。

 それを無視して、俺の横にまでやってくる。

 ジブ、と呼ばれた女の子は、ベリーショートだ。

 春先だからか、長袖のパーカーを着ている。フードまで被っていた。


「……おにーちゃん」

 どちらかというとヤクザのような口調だった。


「そこ、退いてくんない?」


 イントネーションがヤクザだった。


「あ、ああ……」

「……」


 絶句。キャラを取られた、と言わんばかりに、向こうの席の冬が手を出そうとして、やめる。


 たじろぎながらも立って、春の隣に移動した。

 春は、その態度に釘を差すように、「そんな言わなくてもいいじゃない」と言うが……

「オレは男なんざ認めたくねーよ」

 事前に用意していたであろう答えが返ってくるだけだ。


 ジブが席に俺が退いた後の席に着くと、今度はジブの隣のやつが釘を持ってくる。

「……ジブ」

「なんだ、ミア」

「ボクも少しはそう思ってるけど、その言い方はよしなよ。

 初対面で印象を悪くする必要はないよ」

「どうせすぐ出ていくだろ」

「全く……」


 ミア、と呼ばれた女の子とのやり取りが終わって、春がパン、と手を叩いた。


「自己紹介にしたいのだけれど、いいかしら?」

「……」

 あまり喋ってはいないが、同意の雰囲気を感じ取ったのだろう。

 知火が話し始める。


「私は九條知火。九條家の長女で、遷季学園の生徒会長なの。これからよろしくね」


 知火が立って自己紹介する。

 ミア、ジブ、俺はともかく、俺の実姉実妹からは控え目な拍手が送られている。

 そのまま立ちつつ、更に話し始める。


「上から順に行くと、次は地金ちかなんだけど、地金は今、部屋にいるの。

 ちょっと引き籠もりだけど、私と双子だから、根はいい子よ。仲良くしてあげてちょうだい」


 そうして席を座ると、続いて、俺の対角……即ち、ミア、というボブカットの女の子が立つ。


「ボクは九條 水愛みあ。今年から遷季学園に通うんだ。これから一緒に暮らすんだから、なるべく仲良くしたいかな。家事とかは基本ボクがやるよ。後、ジブとは双子だね」


 水愛は自己紹介を終えると、知火と同じように座った。


「九條 死風じぶ。死ぬって漢字から、じ。風、風量や風向とかの風から、ぶ。言っとくけど、オレは絶対に男は認めないつもりだ」


 死風は座って、興味なさげに俺の親族四人の方を眺めた。


 その視線に押されたのか、それとも順番的になのか、春が立ち上がる。


「皆。自分は、四宮春。よろしく」


 コミュニケーションが取れない春にしては大分頑張ったのだろう。春が何とか言い切って、何とか座る。

 フォローに回るように、夏が立ち上がる。


「あたしは四宮夏。ハルとは双子。四月から遷季学園二年生で、水泳部で活動してる。皆とは仲良くしたいって思ってる。よろしく」

「あら、同じ高校だったの? 偶然もあるのね」

「あたし達は全員二年に上がるので、後一年よろしくお願いします」


「……全員かい?」

 知火と夏の会話に割って入ったボクっ娘、水愛が疑問を発する。


「あはは……年子なんです。実は」

「年子? ということは、片方は三つ子かい?

 ボク達の家もかなり頓珍漢な構成をしているけど、それ以上に珍しい一家だとは……」

「そうなんです……あはは。

 あ、ジブンは四宮秋です。悠とは家族ですが、三つ子じゃないです。よろしくお願いします」

「こちらこそ、同じ三女同士、仲良くしようじゃないか」


 秋は味方を増やすのと自己紹介をするのを同時にやった。

 生まれた順でいくなら俺なのだが、俺が飛ばされたということは、次は冬の番だ。


「わたしは四宮冬。お兄ちゃんとかアキとかハル姉ナツ姉とは仲がいいけど、まだ皆とは仲良くないから、仲良くしてくれると嬉しいな」


 無難に自己紹介を終える。無難な歓迎が起きる。

 さて、次は……


「俺は……」

 言い始めた瞬間、対角に座る死風が、じゃあ、と言って、奥の階段へ行った。

 聞くつもりは無いのだろう。階段を上がって右に曲がると、姿が見えなくなる。


 気を取り直して、自己紹介を始める。


「俺は削畑悠。遷季学園の二年だ」

「あら、全員遷季なの?」


 知火は驚く。

「まあ、はい。俺は普通科ですけど、他は理数科です」

「普通科の子なのね。勉強ならお姉さんが教えてあげられるわよ?」

「いや、今は遠慮します……」


 もう言い終えたので座ると、知火が、じゃあ、と纏める。

 皆、よろしくね、と。ある程度紆余曲折がありつつも、一応大雑把に歓迎はされたらしい。


 それから、知火に家の案内をしてもらった。

 手洗いうがいを済ませて、部屋の場所を教えてもらう。


 それが終わると、昼時だ。


「聞きたいのだけど悠って養子なのかしら?」


 知火は冷蔵庫からサンドイッチを取り出しつつ訊いた。

 知火が家の案内をしている時に、水愛がサンドイッチを仕込んでいたらしい。


「いや、実子ですね。だいぶ早産したっぽくて」

「早産? ということは、アキちゃんとフユちゃんも早産なのかしら」


「一応年度は同じです。でも、あんまり大きな声では話せませんけど……あはは」

「そうなのね」


 死風は食事の席には来ないだろうと思いつつも、二実姉二実妹一義姉一義妹テーブルを囲む。


「にしても、ボクの方が年下か」

 と、水愛が呟く。

 白のシャツに黒の短パンで、一目では大人らしく見えるのだが、自己紹介の様子を見るに、実際は下から二番目らしい。


「中々、大人になれた気がしないね」

 確かに、と同意してしまう。

 年下からしたら、年上が一気に四人も増えたのだ。

 俺は丁度半々だったからあまり変わらないが、一人称で見た時のバランスはあるだろう。

 というか……


「双子率高いな」

 と、俺が切り込む。


「そうね~……」


 知火の手で、サンドイッチが乗っかった皿が運搬され、机の上に置かれる。

 勝手に取っていって勝手に食べていく形式なのだろうか。

 苗字のイメージとはあまりそぐわない効率的な一面だ。


「まあ、何億もの家庭があれば、そういうこともあるわよね」


「……そういえばなんだけど。なんで悠さんは削畑という苗字なんだい?」


 知火の言葉を、水愛が展開する。

 その疑問に答えた。


「親父と母さんが離婚して、苗字が変わってるんだ。母さんの記憶はそんなに無い。

 その母さんが最近死んだらしくて、親父が丁度再婚して転勤したから、四宮と九條で分かれてるんだ」

「そうなのか。複雑なんだね」


 会話が止むと、いただきます、と手を合わして、知火達は食べ始める。

 四宮家もその様子を見て、サンドイッチを食べ始める。

 俺もそれに倣って食べ始める。


「悠さんはどうだ? 足りそうかい? 男に合わせた料理を作るのは慣れていないんだ。」

「問題ない。

 なあ、いつまでも悠さんって言い方は、ちょっと距離を感じるんだが……」

「それはよかった。

 では、悠義兄にいさんはどうかな」


 義兄さんという言葉が聞こえた瞬間、あっちのテーブルから冷気が発せられる。

 冬だ。そんな目で水愛を見ないであげて欲しい……


「普通に呼び捨てでいい。そっちの方が良いかもしれない」

「そうか。では、悠、と呼ばせてもらうとしよう」

 正面から軽い微笑みを向けられた。瞬間、隣のテーブルから笑ってない笑みがやってくる。


「フユ、やめよう」

「ハル姉……」

 普段はあまり意思を表に出さない春も、これには注意をしている。

 俺は精一杯気付かないふりをするしかなかった……


 昼食の時間は過ぎていく。




 〈次回予告〉


「質問来てた!(来てない)


 『次回予告は何ですか?』


 結論。


 次回は引き続き歓迎会! 屋根裏部屋に案内されて、家の中も紹介!


 次回! のと⁴ 第五話!


『屋根裏部屋』


 この間取り…何か変…?

 そんなアナタに、このワタシ、篠刻雨法律事務所まで!」

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