二話

 〈前回のあらすじ〉


 なんやかんやあって家を手放した悠。同じく家族の秋達も家を手放したらしく、急に家がなくなった。

 そこに、父親の再婚先、九條家の令嬢が現れて……?




 〈本編〉


「それなら、私達の家に住まない?」


 いくらなんでも、親父が言う通りの、再婚先の家に住まわせて貰う、というのは非常識的ではないか、と思ったが……

 この状況でこの提案はありがたかった。


「いいのか?」


 先程貰った新居候補のカタログと、七の数字が入力できない電卓に思いを馳せながら、がっつきすぎないように返事をする。


「お母様は、そう言ってたけど、どうかしら?」

「かなり困ってたから助かるんだが……本当にいいのか? 本当に」


「もちろんだけど。

 あ、ご親族の方が駄目な方?」

「後で連絡取ってみます」


「じゃあ、また一時間後に来るから、その時までに、明日いつ来るのか、とかのお時間の話を纏めておいてくれない? いいわよね?」

「ああ、はい。分かりました」


 秋はさっき連絡を取った後、家に一度帰っている。

 今頃は電車の中だろう。


 連絡事項を送信すると、すぐに既読が付く。


『さっき再婚先のお子さんが来て、事情を話したら住居を提供してくれるってさ。

 それで、明日いつくらいに来るかだけ教えてほしいって』


『住所はどこかわかってるの?』


『後で教えてもらう』


『人身事故で遅延があるらしくて、まだ改札抜けてないから、戻って来るね』


 その送信が見えたので、『分かった』と送って、一度スマホを閉じた。




 最寄り駅から六分。とはいえ事故物件なので、家賃は最寄りから二十分と同じくらい。

 なので、秋はすぐに来た。


 ピンポーンと音が鳴り、百八十度回転して、玄関まで行ってドアを開ける。


「悠、さっきのどういうこと?」


 開けたらそう言われた。


 四宮秋。私服姿に加え、右(俺から見たら左)に括った髪の毛。

 さっきの生徒会長といい、急に華やかだ。状況は全然華やかさの欠片もないが。


 掻い摘んで説明すると、じゃあ残る、と言い出した。




「この玩具懐かしい……」


 引越し前に、荷物を段ボールに詰めていると、唐突に声が上がる。

 どうやらこの玩具が気になるようだ。


 黒髭危機一髪。


 古典的だが、普通の玩具。

 幼少期やっていた玩具なのだが、荷物の仕分けとかの時に間違えてこちらに侵入したのか、現在まで棚に置かれている。

 剣入れの袋と樽、黒髭の男の三点を見て、まだ時間がありそうなので、ちょっとやっていこうと思った。


「一回やるか」


 樽を置き、黒髭を樽に挿し込んでセットする。


「悠は昔っから運が悪かったし、行けるでしょっと」


 袋から剣を取り出して、六個、六個に分ける。

 全部で十二個。刺す位置はともかく、最初に当たる確率は十二分の一だ。

 是非とも先行を取っておきたい。まあ確率なんてどっちも同じだが。


「じゃんけん……」「そりゃ!」


 睨み合って、出した拳は……俺がグーで、秋がパー。

 負けた。普通に負けた。


「行きまーす」

 ブスッと一突き。


 ――黒髭は何も反応を返さない。


「……」「……」


 十一分の一。


「っと」


 セーフ。何も反応を返さない。


「つまらないね」

「……そうだな」


 そこまで面白くなかった。

 二人でやってるのもあるが、この年だと素直に面白くない。


「オリジナルルール発動!

 今から二本刺します。悠も二本刺しましょう」


 秋は剣を二刀流に持つ。

 一発目、そして二発目。

 黒髭は、反応を示さない。


 苦し紛れのルール変更であったものの、次は……二つ、か。


「……頼むぞ」


 八分の一、七分の一。

 を、潜り抜けて、残りの穴は六つ。

 黒髭は沈黙を守っている。


「……三つ、行くね」


 サッ。人差し指と中指の間に、中指と薬指の間に薬指と小指の間に剣を差し込み、一つずつ抜いていく。


 最初の一発。

 そろそろ打ち上がってもおかしくはない。

 カチッ。と、挿し込んだ機械音。

 黒髭は――まだ、黙する。


 二発目。

 一番上の、開いてる穴。

 剣先が樽に侵入する。

 カチ。と、機械音。

 次の瞬間、黒髭が跳ねて、秋のデコにぶつかった。


「ぎゃあッ! お兄!?」


 年不相応にビビりながら、横に座っていた俺に身体的接触をしてくる。

 背中の後ろにまで回ってから、正気を取り戻したらしい。


「……秋? そんなビビってどうした?」

「あはは……いや、その。ちょっとびっくりしちゃって」

「はぁ……」


 昔の呼び名まで持ち出してくるあたり、結構びっくりしちゃったんだろう。

 秋はいつの間にか俺のことを悠と呼んでいる。

 冬は甘え上手なので未だにお兄ちゃん呼びなのだが、秋もその気自体はある。隠しているだけで。


 まあ、今追求するようなことでもないだろう、と、一旦考えを横に置いて。

 時計を見ると、もうそろそろだった。


 段ボールに少量の荷物を纏め、来訪を待つ。

 約束していた時間の五分くらい前に、ドアチャイムが鳴った。

 玄関まで行ってドアを開けると、日の傾きだけが違っていたものの、私服の知火がいた。


「どう? 決まった?」


「あの、取り敢えず中にどうぞ」


「あら……? いいの? それじゃあ、お邪魔しちゃおうかしら」


 靴を脱いで、木張りの床を軋ませながら歩く。

 小さな卓袱台の奥の方で、秋がこんにちは、と出迎えた。


「こんにちは、貴方は……?」

「悠君の実妹です」

「あら。ということは……」


 詳しいタイミングはともかく、母が死んでしまったということはなんとなく知っている。


「明日からお世話になるのよね? よろしくね」

「はい。よろしくお願いします。四宮秋って言います」

「四宮秋ちゃんね。よろしく。

 私は九條知火。これから家族になるんだから、敬語じゃなくてもいいわよ?」

「じゃあ遠慮なく……」


 と、挨拶を交わした所で。

 卓袱台で秋の対面に座って、疑問を発する。


「秋ちゃんはお話を聞きにきたの?」

「そうらしいですね」

 と俺が代返する。


「秋の家、四宮家はどうやらお母さんが死んでしまったっぽくて、未成年後見人の指定がないので、親父になったんですけど……」

「お父さんが再婚して、そのまま転勤があって、もうどこかに行っちゃって……家が急になくなっちゃって……あはは」


 と、二人で説明した。


「再婚先の九條さんの家に泊めてもらえって親父は言ってたんですけど……」


「その話はね。お母様から少し聞いたことがあるわ。

 安心して頂戴。空き部屋がいっぱいあるから、後三人くらいなら管理できるわ」


「俺含めて五人ですね」

「五人!? 三つ子とかいるの!?」


 説明すると長くなるので、そこには触れず、話を続ける。


「明日の朝の九時半くらいって大丈夫ですかね」

「大丈夫。昼は皆で歓迎会をするつもりだったから、その時に車でここに迎えに行くわね」


「車で?」


 運転免許を持っているのだろうか、と、俺も同じことを思ったのだが、俺が言う前に秋が言ってくれる。


「そうよ。私、ハンドルを握ると性格が変わるタイプだから、安心してね」

「あ、はい……」


「とにかく。九時半にここに集まってくれたら、私が送っていくから」

「分かりました」

「細かい話は明日にしましょう?」

「はい。じゃあ、今日は……」


 と、知火は立って。

 「帰らせてもらうわ」と言う。俺も続いて立って、見送りに行った。


 玄関までついて、ドアを開けて、そのついでに後ろに振り返る。

「またね、悠君」

「呼び捨てでいいっす……」

「じゃあ、またね、悠」


 呼び捨てにされた後、ドアから手が離れ、扉が閉まる。


 その後秋と少しだけ話して、秋も帰宅した。




 〈次回予告〉

「次回予告は引き続き、悠の幼馴染が担当するよ!


 転居の準備を着々と終え、引っ越し作業開始。

  ̶後̶半̶次回予告は歓迎会! しかし、あまり歓迎されている様子はなくて……


 次回 のと⁴ 第三話 『歓迎?』。


 まだワタシの出番がないんだけど!? なんで?!」

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