第35話 成長スピード
「キラちゃん、ウッドちゃん。ご飯ですよ~」
「「わぁいっ」」
アイラが作ってきたばかりの朝食を、擬人化したキラとウッドが美味しそうに頬張る。
「がぶがぶ。あおおっ、おいちい!」
「もぐもぐ。うららっ。おいひーでしゅうぅ」
元々が蟻の魔物ってことで、キラにはケーキやクッキー、フルーツジュースといった甘い食事を与えている。木の魔物ウッドには野菜サラダや水を提供していた。その中には、俺が『マテリアルチェンジ』で食材変換したものも当然のように含まれている。
メイドのアイラが世話役を引き受けてくれたこともあり、キラとウッドはすくすくと育っていて今じゃ言葉も話せるまでになったんだ。俺が普通に世話するだけじゃこうはならなかったと思う。
魔物としての名残なのか、『あおお』、『うらら』、なんていう原始的な言葉を未だに発することもあるが、そこは矯正せずに彼女たちの個性として受け入れてやればいい。アイラもその教育方針には同意してくれた。
何より、人間化してからたった三日でここまでのことができるようになったんだ。アイラの教え方が優れてるのもあると思うが、やはり動物よりも魔物は賢いといわれるだけあり、物覚えの速さが抜きんでていると感じる。
僅か数日でスプーンやフォークを使っての食事をこなせるようになっただけでなく、衣服の着脱やトイレの使用も、ぎこちないもののちゃんとできるようになってるからな。これは地味に見えるかもしれないが驚異的な成長力だ。
「ウッド、あたち、それほちい! ちょうらい!」
「キラ、ダメでしゅよ……」
「……」
キラはウッドの食べ方がゆっくりなせいか、食べかけのサラダを奪おうとしている。キラは食いしん坊かつ活発な性格で、ウッドは小食で物静かな印象だ。
ちなみに、キラとウッドは俺が新たに雇ったメイド候補ということになっている。こうしてグラスデン家の屋敷にいる以上、外部の人間に存在をいつまでも隠し通せるはずもないからだ。
これなら本来の魔物として連れ歩くよりはよっぽど怪しまれにくいということもあるし、ゆくゆくはちゃんとしたメイドとしてアイラと一緒に行動させようと思っている。
キラとウッドが掃除や洗濯、料理などの基本的な家事を学んでくれたらアイラの負担も大幅に減るからな。その分訓練できる時間が増えて今後にも繋がっていくだろう。
ただ、彼女たちは本来人間じゃなく魔物なので、遠方限定ではあるがたまには元の姿で大いに暴れさせてやるつもりだ。ドッグランならず、デーモンランってわけだ。
ところで、アイラはロゼリアと違い、キラとウッドの擬人化した姿を披露しても動揺するような気配は一切なかった。ロゼリアのケースと違って服を着てるっていうのもあるだろうが、もしかしたら人間じゃないことを初見で見抜いたのかもしれない。
【慧眼】という鑑定系のスキルを持つロゼリアですら看破できなかったというのに。なんというか、前々から思っていたことではあるが、アイラには得体のしれない大物感というか風格が備わってるんだ。
伯爵家のメイドでありながら王室に仕える間者という立場ってこともあり、その特殊なバックグラウンドのせいかもしれないが。彼女は小さい頃の記憶がない件といい、何か重大な秘密があるような気もしてくる。
……って、最近の俺ってやつは人のことばかり考えてるな。自分だって少しは成長したんだから、たまには己の内面にも目を向けなくては。というわけで『レインボーグラス』を自身に使用する。
名前:ルード・グラスデン
性別:男
年齢:15
魔力レベル:4.5
スキル:【錬金術】
テクニック:『マテリアルチェンジ』『レインボーグラス』『ホーリーキャンドル』『クローキング』『マンホールポータル』『インヴィジブルブレイド』『スリーパー』『ランダムウォーター』『サードアイ』『トゥルーマウス』『クリーンアップ』『デンジャーゾーン』
死亡フラグ:『呪術に頼る』
従魔:キラ(キラーアント)、ウッド(デーモンウッド)
魔力レベルは遂に4.5まで達した。父ヴォルドを越えたばかりだというのに、第一王子ローガの4.7を超えるまでもう少しのところまで来ている。魔力レベルというのは高ければ高いほど差がなくなってくるため、ここまで来たらもうほとんど魔力の差はないといえるだろう。
「――あ、あの、ところでルード様、大事なお話があります……」
ん、何を思ったのかアイラが真顔で俺の顔をじっと見つめてきた。
「だ、大事なお話だって……?」
「はい……」
『大事なお話』という言葉が俺の頭の中でこだまして、俺の心臓が否応にもドクンドクンと高鳴る。
ま、まさかこれって、いわゆる愛の告白ってやつなのか……? 俺は前世でもそういうのは経験したことが一度もないからさっぱりわからんが、もしそうなら文字通り初体験ということになる……。
「……わ、私……」
「……あ、ああ……」
「ルード様と同じように、マギーア学園の入学試験を受けようかと……」
「えっ……」
「無謀だと思われるかもしれませんが、ヨーク様の礼拝堂で何か月も修行したことで魔力レベルも2まで上がり、自信もついたので……」
「そ、そうか。なるほどな……」
勝手に愛の告白だと勘違いした俺がバカだったらしい。それにしても、まさか彼女もエリート学園マギーアの入学試験を受けるつもりだとは思わなかった。
「アイラはマギーア学園に入って、将来何を目指すつもりなんだ?」
「……それが、まだどんなことをしたいのかは、具体的には決めてないんです。でも、ルード様もお受けになると聞いてたので、ご一緒に色んなことを学べる機会があるならと……」
「なるほど。そこで色々経験してから、何になるかを決めるっていうのもありかもな……って、それってつまり、ここのメイドを辞めちゃうってこと?」
「……そうですね。もし合格したらそうなっちゃいますけど、それまでにキラちゃんとウッドちゃんを私が一人前のメイドになるように仕向けます!」
「おー、そりゃいいな」
「……もちろん、私が学園から帰ってきたら、ルード様の専用のメイドとして、一生懸命ご奉仕しますね」
「……た、助かる」
「はい……」
恥ずかしそうに俯きながら言うアイラを見て、俺は心の中がじんわりと熱くなるのがわかった。
「そ、それじゃ、アイラ。そのときが来るまで、魔力トレーニングを一緒に頑張ろうか?」
「は、はい。ルード様、頑張りましょう!」
照れ隠しっていう意味合いもあり、俺はアイラと互いに気まずそうな笑みを向け合うのだった。
これから先、マギーア学園の入学試験やゲームの本編が始まるまで何が起きるかはわからない。それでも、今まで俺を支えてくれたアイラと一緒なら、どんなことがあっても乗り越えられるような気がしていた……。
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