第11話 ティータイム
うーん、どうしようか……? 迷った挙句、俺は承諾することにした。
こういうのに慣れてないので一瞬頭に血が上ったものの、冷静に考えてみたらただお茶を飲むだけだしな。
「ああ……もちろんだよ、アイラ。一緒にお茶を飲もう」
「ほ、本当ですか? ありがとうございます、ルード様! それでは、こちらにどうぞ」
アイラの顔がぱっと明るくなったかと思うと、メイドらしく手際よくお茶とクッキーの準備を始めた。
周囲に紅茶やお菓子の甘い香りが漂う中、俺たちは倉庫の片隅に設けられた簡素なテーブルに座り向かい合う。
「「……」」
お互いにしばらく無言だったが、アイラのほうから先に切り出してきた。
「ルード様、最近の訓練はどうですか?」
「……ん、あぁ、すこぶる順調だよ。アイラのおかげで、魔力レベルも上がってきた」
「それは良かったです! 私も祠での修行を続けていますが、初日から効果を実感しています」
「そりゃ、あそこはよく上がるからなあ」
「ですね!」
まああの祠は特別だからな。こうしてお茶を飲みながら、俺たちは訓練や日常のことについて話し合った。アイラの笑顔と優しい言葉に、俺は心が温かくなるのを感じた……って、何をやってるんだ俺は。
心が温かくなってる場合じゃない。なんだかいい雰囲気になったこともあり、俺はそれを急に意識してしまってドキドキしてきた。おいおい、子供か。
「「……」」
お互いに沈黙が続く。こうして、改まってアイラと向き合うとやはり照れ臭い。こうなったらお茶を飲むことだけに集中しよう。
「ズズッ……」
あ、つい音を出してしまった。伯爵令息なのに行儀が悪い。焦って小指も立ててしまいそうな勢いだ。
アイラのほうをちらっと一瞥すると、お茶も飲まずに俺のほうを嬉しそうにじっと見ててどぎまぎした。
「……えっとだな。アイラ、悪い気分じゃないんだが、俺とお茶なんか飲んで、そんなに嬉しいか?」
「何を仰るんですか、もちろん嬉しいですよ! だって、ルード様っていかにも闇落ちしそうなイメージなので……」
「……そ、そうか、なるほどな。そんな俺を闇落ちから救えると思って嬉しかったんだな」
「……」
コクコクと頷くアイラ。ん? その際、何やら小声で呟いてたような気もするが、よく聞こえなかった。
もしかしたら彼女にとって、俺――ルードは兄のような存在なのかもしれない。それに加えて、家族から虐められて闇落ちしそうで心配だった人が、一緒にお茶を飲むほど柔和になってるならそりゃ嬉しいか。
おや、アイラがテーブルに腕枕で突っ伏したかと思うと動かなくなった。
「アイラ、どうした? 具合でも悪いのか?」
返事がない。どうやら寝落ちしたようだ。祠での瞑想に熱が入りすぎたんだな。魔力トレーニングは自分が思っている以上に精神力を消耗するから、油断するといきなりこんなことになってもおかしくないんだ。
そう考えると、彼女が頷いてたのも急激な睡魔に襲われてウトウトしてただけなのかもしれない。
俺は『マンホールポータル』を使い、彼女をメイドの部屋まで送ってやることにした。屋敷に住んでいてその記憶がある以上、ここで知らない場所は俺にはないからな。
アイラをベッドに寝かせてから倉庫へ戻る。ふう。こんなもんでいいだろう。
さて。魔力レベル2.3になったわけだから、倉庫内の物を技能に変換する作業を開始するとしよう。
「お……」
変換作業を始めてからいきなり成功した。穴が幾つも開いたヤカンに『マテリアルチェンジ』を使ったとき、ウィンドウが出てきたんだ。
『ランダムウォーターを習得しました。熱湯の塊が出現し、不規則な動きでターゲットに襲い掛かります』
『ランダムウォーター』か。これは、普通の水魔法よりよっぽど強力なんじゃないか? 期待できそうな感じのテクニックだ。
よーし、この調子でどんどん能力に変換していこう。
「――はぁ、はぁ……」
幸先はよかったものの、魔力レベル2.3という中途半端な数字が災いしたのか、『ランダムウォーター』を習得以降、俺は変換に苦労していた。
だが、魔力レベルが上がったこともあって、まだまだ気力は維持できている。もう少し粘るつもりだ。
……お、よし。本日の二回目の変換に成功した。翼をつけた眼球の置物だ。
『サードアイを習得しました。自分が一度見た視点を視界に置き、リアルタイムで観察することができます』
『サードアイ』……これって、両目とは別の第三の視界っていう意味か。また凄い能力が出てきたな……。
どういう風に使おうか? そうだな。試しに倉庫の前の視点を視界に置いてみよう。お、いけた。しかも、視界の大きさも自由に調節できる。これなら、祠で修行をしている間に誰か来てもすぐ戻れるぞ。
「――よしっ!」
そこから立て続けに変換に成功した。今度はぐねぐねした歪な形の角だ。魔物かなんかの角っぽい。
『マテリアルチェンジが強化されました。現在の魔力レベルに応じて、人間を除く生き物を魔物に変換することができます』
「……」
これは……そうか。本来の意味での能力を得たといえるのか。まさに闇の力ともいえるテクニックだしな。レベルに応じてなら、いきなり自分より強い魔物と戦わなくても済む。
現在の俺の魔力レベルは2.3なので、もし魔物変換に成功した場合、同等のレベルの魔物が登場してくるってわけだ。
『マンホールポータル』を使って、人がいない場所で生き物を魔物に変化させて戦えばいいんだ。そうすれば誰かに危害を加えたり目撃されたりする可能性も低い。
『サードアイ』もあるし準備万端だ。別に転生して若返ったからってわけじゃないが、遠足へ行く前のようなワクワク感を俺は思い出していた。よーし、これから魔物に変換するチャレンジ開始だ。
……っと、その前に一応ステータスと死亡フラグを『レインボーグラス』で確認しておくか。
名前:ルード・グラスデン
性別:男
年齢:15
魔力レベル:2.3
スキル:【錬金術】
テクニック:『マテリアルチェンジ』『レインボーグラス』『ホーリーキャンドル』『クローキング』『マンホールポータル』『インヴィジブルブレイド』『スリーパー』『ランダムウォーター』『サードアイ』
死亡フラグ:『呪術に頼る』
うんうん、どれもこれもいい感じだ。死亡フラグは増えてなかったから、魔物変換による魔物狩りは現時点だと安全ってことなんだろう。
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