第6話 訓練の成果


 メイドのアイラが協力してくれるようになって、一か月あまりが経過した。


 つまり、俺は修行を始めてから合計するとおよそ2か月もの間、ひたすら例の祠に籠って魔力を上げる訓練を行ったことになるわけだ。


 その結果、燭台くらいなら浮かせるどころか自由自在に動かせるようになった。今じゃ物足りなくなってきたので、今度はより重い祭壇を動かそうと計画しているくらいだ。


 っと、その前に『レインボーグラス』を使い、自身のステータスを魔力レベルを中心にチェックしてみるか。



 名前:ルード・グラスデン

 性別:男

 年齢:15

 魔力レベル:2

 スキル:【錬金術】

 テクニック:『マテリアルチェンジ』『レインボーグラス』『ホーリーキャンドル』『クローキング』『マンホールポータル』『インヴィジブルブレイド』



「おおっ、遂にここまで来たか……」


 表示された魔力レベルを見て、俺はしばし達成感に浸っていた。


 当たり前ではあるが、魔力っていうのは上がれば上がるほど上がりにくくなる。その上で、以前と同じくたった一か月で魔力を0.5上げ、2にすることに成功した。


 つまり、俺は修行を始めてから僅か2か月程度で、当たりスキルを持つ者に追いついたことになる。これは驚異的なことだ。魔力レベル1と2では、低く見積もっても10年の差があるっていわれてるにもかかわらずだ。


 こうなった理由は、魔力が上がりやすくなる特別な場所――壊れかけた礼拝堂で訓練したっていうのもあるんだが、実をいうとそれだけじゃないんだ。


『マンホールポータル』によって、祠へ直接行けるようになったっていうのが大きい。『クローキング』を使ってこっそり祠へ向かう場合、身体能力が低下して移動速度も制限されるだけに、余計に。


 祠のある渓谷まで行く時間をごっそり省略でき、その分を丸ごとトレーニングに当てられるってわけだ。帰るときもすぐに倉庫へ戻れるから便利すぎる。


 だからこそ、一か月弱という短い期間で魔力レベルを1.5から2まで上げることができたといえるだろう。


 当たり前だが、自分だけの力でやれたとは思っていない。それまで倉庫で留守番してくれたアイラのおかげでもある。


「ありがとう、アイラ。君のおかげだ。魔力が十分に上がったし、倉庫から目的地まで直接行けるようになった。だからもうここには来なくていいから」


「はい、どういたしまして……って、もう来なくていいだなんて、それって冷たくないですか!?」


「え……?」


 何故かアイラが腹を立てている様子。理由がまったくわからない。


「アイラ? んっと……俺、何か悪いことしたかな?」


「ルード様ったら、鈍感なんですね。私、こう見えてもあなたを陰で応援していたんですから」


「あ……そういうことね。応援してくれてたのに、それは悪かった。もしかしたら、ここで毎晩留守番させるのが迷惑かもしれないって思って」


「もし本当に私が迷惑だって思ってたら、最初から手伝ってません。それにしても、ルード様は魔力レベル2なのですよね? しかも、たった二か月で……早すぎませんか?」


「あ、あぁ。親父とか弟とか冷遇してきた連中を見返すために、死に物狂いで頑張ったからね」


「……なんだか事情がありそうなので詳しくは聞きませんけど、もしかして、変な術に頼ってます?」


 アイラの目がキラッと光る。怖い怖い。原作通りなら確かにルードは呪術に頼って魔力レベル2にしてるだけに。


「いやいや、そんなことはない。この通り、俺は正常だ。ほら、これを見てくれ」


「……」


 俺は負のオーラを払拭したことを証明すべく、その場で陽気に踊ってみせた。阿波踊りっぽいダンスだ。


 ……うん、違う意味で変なやつだと思われたかもしれない。


「ル、ルード様、なんだかとっても楽しげですね」


「あ、ああ、喜んでくれたならよかった」


 もちろん俺の台詞は棒読みだ。もっと別のやり方があったんじゃないかと後悔しまくっている。


 まあ、アイラが驚くのも無理はない。原作のルードだったら絶対やりそうにない突飛な行動だしな。なんていうか、真面目そうだが負のオーラに満ち溢れたキャラクターだった。


「それより、ルード様。直接目的地まで行けるといっても、ここにいるはずのルード様が一時的にいなくなることに変わりはありません。なので、私が留守番していたほうが安全です」


「……あぁ、それもそうだな。やっぱり、アイラがここにいてくれたら助かる……はっ……」


「ルード様……?」


 その直後の出来事だった。複数の足音が近づいてきたと感じたのだ。これも魔力の影響だろう。普通なら聞こえないようなものでも、魔力レベルの上昇により感覚が鋭くなっているからわかるんだ。


「誰かこっちへ来る」


「えっ……ど、どうしましょう……」


 アイラが慌てるのも理解できる。彼女は今本来の姿に戻っているとはいえ、ここに俺といることがバレたら、大問題に発展する恐れがあったからだ。箱から物を全部取り出せば入れるかもしれないが、そんなことをしたら逆に怪しまれる恐れがある。


 俺が『クローキング』で隠れて、アイラに俺に成りすましてもらうことも考えたが、彼女は見た目を真似ることはできても、受け答えまで完全に模倣できるかっていったら未知数だ。


 となると……そうだな、もうこうなったら腹を決めるしかない。


「誰か来る。アイラ、マンホールの中に入ってくれ」


「えっ……いいんですか?」


「ああ。もう時間がない。早く!」


「あ、はい……!」


 アイラがマンホールの中へ入っていく。今は例の祠に直接繋がっているため、そこが俺の秘密の訓練場所だとバレてしまうだろう。その点については、アイラなら誰にも言わないはずだし別にいい。


 ただ、彼女は俺が悪事を働くのには非常に敏感だから、それが悪用するためじゃないってことを、あとでちゃんと弁解しておかないといけない。


 そうじゃないと彼女は正義のために仕事を果たす義務を感じて、回避できないような死亡フラグが発生する恐れもあるからな。

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