ゲーム世界の悪役貴族に転生した俺、大ハズレと呼ばれる【錬金術】スキルで、自分だけあらゆるものを超便利な能力にチェンジして無双する。

名無し

第1話 悪役転生


 そこはダムド王国、王都ベルツヘムにある教会。


「たった今、付与いたしました。ルードさん、あなたのスキルは、【錬金術】です」


「……れ、【錬金術】!? えっと……魔術系のスキル……ではないですよね」


「ええ、その通りです。残念ながら外れスキルとなりましたが、あなたはまだ15歳でしょう? おそらく先は長いので、あまり落胆なさらないことです」


「は、はい。ありがとうございます。神父様……って!?」


 内心落ち込んでいたそのとき、僕の脳内に電撃が流れるような感覚があった。ぼ、僕……いや、は……。


「おや、ルードさん、どうなされました?」


「い、いえ……。それより、あの、神父さん。俺の名前って、ルード・グラスデン?」


「おやおや、ショックのあまり軽い記憶喪失になっておられるようで。はい、その通り、あなたの名前はルード・グラスデンといい、伯爵家のご令息であり長男です」


「……」


 なんということだ。ってことは、ここはゲームの世界なのか? というのも、俺はついさっき前世を思い出したところだった。


 不慮の交通事故で死んでしまったが、日本人として生きた記憶が蘇ってきたのだ。


 これはどう考えても前世ってやつだろう。むしろ、それが本来の自分だと確信できるくらい鮮明に覚えている。


 そのことによって、ルード・グラスデンという名前にピンときたんだ。どうやら俺はゲーム世界の悪役貴族に転生してしまったらしい……。


 どういうゲームなのかを軽く思い出してみよう。


 確か……そうそう、その名も、王道ファンタジーRPG『賢者伝説』。


 ダムド王国選りすぐりのエリートたちが集まる学園が舞台のゲームだ。


 他国との戦争や邪悪な教団との対決、冒険者ギルドでの揉め事、さらには国王の後継者を巡る権力争い等、主人公は様々な事件に巻き込まれる。


 Artificial Intelligence、すなわちAIが組み込まれたそのシナリオは無限大に生成され、超名作として後世に語り継がれるであろうゲームだ。


 場合によっては、主人公が王様になったり魔王になったり、はたまた盗賊団の首領や道具屋の店長になることもある。


 その最大の特徴の一つが、魔力システムである。


『賢者伝説』っていいうタイトル通り、魔力のレベルが高ければ高いほどこの世界では上位に行ける。


 それでも魔力レベルをサクサク上げるというわけにはいかず、普通のレベル上げと違って難易度が恐ろしく高いのだ。


 あともう一つ。


 シナリオが無限大で、フラグが立つとその時点で様々なシナリオが発生する。それ次第でどんな人生になるか決まるというもの。


 だが、それは本来の主人公に限った話。


 自分、すなわちルード・グラスデンは貴族だが悪役の一人であり、ゲームの序盤で主人公に殺されることが決まっている。ゲームの筋書き通りに進むなら、の話だが。


 ルードがどういう人物なのか、俺は少しずつ思い出していた。


 グラスデン伯爵の令息(長男)だが、正妻の嫡男でも側室の子でもなく、第三夫人で庶民の妾から産まれた子供であるという特殊なバックグラウンドを持つ。


 ゆえに、ルードは嫌味な弟や高慢な家庭教師の女、それから傲岸不遜な父や異母たちに蛇蝎の如く忌み嫌われていた。


 何故なら、俺が生まれてからこの家は妾に嫌がらせして逃げられたのち、すぐに側室との間に次男が生まれたからだ。


 それによって、俺は空気が読めない子だとか呪われた子だとか、様々なレッテルを張られ、スキルによって逆転できなければ、お前を跡継ぎどころか息子とすら認めないと父に宣言され、徐々に追い詰められていったのだ。


 このゲーム世界、スキルの重要性はかなりというか滅法高い。


 特に、魔術系のスキルを所持するのは、高名な魔術師を輩出してきたグラスデン家においては必須とされてきた。


 代表的なものを例に挙げると、大当たりスキルの【賢術】を筆頭に、【聖術】、次いで当たりスキルが【黒魔術】【白魔術】といった具合だ。


【賢術】と【聖術】は持つだけで最初から魔力レベルが3になり、【黒魔術】や【白魔術】はレベル2となる。


 魔力レベル1と2では雲泥の差があり、1レベルの者はどれだけ魔法を教えられてもほとんどが1のまま人生を終えるし、2レベルの者には一生追いつけないのが定説だ。


 あとは、【格闘術】【剣術】等、外れスキルを獲得した者は、少ない給与で貴族たちに仕える身となるか、あるいは冒険者として忙しく暮らすかという選択肢が残されている。


 しかし、【錬金術】のような特殊なスキルとなると、大外れという認定を受けてしまうのだ。


 何故かというと、その特殊性ゆえに扱い方メソッドを理解している人間が少数なため、指導者が不足しているというのもあるが、それだけではない。


 何度も言うが、この世界は魔力が重要であり、それによって魔力の少ない相手を簡単に制圧できる。


 また、魔法系のスキルを持っていると、魔力を上げることがそれを持っていない者よりずっと容易になる。


 強い者はさらに強くなり、弱い者との格差は広がる一方ってわけだ。


 魔法系以外のスキルは魔力がとても少ないところからスタートするため、それを上げることが困難であり、その効果もほとんど期待できない。


 つまり、【錬金術】では【格闘術】や【剣術】のように冒険者として最低限の狩りもできず、一人で自立して暮らしていけるかどうかも疑われるのだ。


 原作でのルードの辿った悲惨な結末について説明しよう。


 大外れスキルとされる【錬金術】を手に入れたことで、彼は父や弟らから今まで以上に軽んじられ、伯爵家の恥部として倉庫に幽閉されてしまう。


 ルードは結果として悪役貴族になっただけで、根っからの悪人というわけではなかった。そのため、家族を憎んだものの殺害しようという心境にまでは至らなかった。


 自分を冷遇した家族を見返したいとは考えていたが、そのためには魔力レベルを上げないといけない。


【錬金術】スキルの基本テクニック『マテリアルチェンジ』は、生物を除くありとあらゆるものをテクニックに変えるという異質な特性を持つ。


 しかし、魔力が少なければ大したテクニックに転化させることはできない。


 それならとばかり魔力レベルを上げようにも、普通に考えれば魔法系スキルではないので魔物を倒すこともできない。かといって、地道な訓練では一生追いつけない。そんな懊悩の日々の中で、あるときルードは呪術に頼る方法を思いつく。


 呪術とは何かというと、相手を呪う儀式のことである。大きな魔力を手っ取り早く獲得できる反面、その代償として心を病んでしまう。


 ルードは儀式を数か月間にわたって繰り返すことで、高い魔力、すなわちレベル2の魔力を手に入れたが、既に正気を失ってしまっていた。


 彼は冷遇した身内だけでなく全てを憎むようになり、進化した【錬金術】スキルによって動植物を次々と魔物に変えていったのだ。


 だが、魔物の存在は目立ちすぎた。ゲームの本編が始まってからしばらくして、その正体を突き止めた主人公によって、ルードは魔物ごと討たれるのである。


 これがゲーム序盤の大まかな流れと顛末だ。


 ルードが亡くなったのち、伯爵家のメイドに日記帳を渡された主人公は、その悲惨な過去を見て、メイドの懇願もあってルードを丁重に埋葬するという話だったはずだ。


 最近遊んだゲームということもあり、俺はその内容をすぐに思い出すことができた。


 確か、ルードがスキルを受け取ってから約半年後に本編がスタートするはず。


 彼の日記帳には半年以上前のことが事細かに書かれていたからな。


 スキルを受け取ってからの恨みつらみの半年間があり、そこからいよいよ行動に移すってわけだ。


 つまり、ゲーム自体はまだ本格的に始まってすらいなくて、俺には半年間も猶予があるということ。


 もちろん、悪役貴族が本来の主役を食うことになれば、それはゲームの存在意義が問われるわけで、脇役の俺が成り上がろうとすればするほどゲームの抵抗は大きくなるだろう。


 なので、猶予があっても決して油断はできないが、俺が原作のルードのように行動しなければいいだけの話だ。


「折角転生したんだ。悪役のままで終わってたまるか……」


 だから、死亡フラグを折るためにやるべきことをやる必要があると俺は感じていた。


 幸いにも、前世でこのゲームに関する知識は豊富にあるからなんとかなるはずだ。


【錬金術】は、魔力さえ高ければ超万能なスキル。これをとことん極めていって、ありとあらゆる死亡フラグを蹴散らして成り上がってやろうじゃないか。

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