【戯曲】伊勢海 航、異世界に渡る。
しもに
世界ランキング2位
男と女、向かい合っている。
男:あのぉ…、すみません。
女:…。
男:…いつの間にか知らない部屋にいるんですが…、その、何か知りません?
女:…。
男:何も無い、っていうか壁も扉も見当たらないんですけど…。
女:ごめんなさい!(勢いよく頭を下げる)
男:!
女:ちょっと退屈で退屈で仕方なかったから動物の魂フワフワして遊んでたら手が滑ってしまって…。
男:はぁ…。(よく分かっていない様子)
女:その、端的に言うと、間違ってあなたのこと殺しちゃいました…。
男:…。
女:何とかしようと思ったんですよ!どうにかして元に戻そうと思ったんですけど焦ってると上手くいかないものでして。いや、言い訳とかじゃないんです。申し訳無いと思ってます。思ってますよ。で、こうなった以上どうしようもなくて、もういっそのこと魂を同じものと交換してしまおう!と。それで天界に来てもらったって訳です。
男:色々よく分かんないんだけど、その、えっと…、もう帰ってもいいのかな?
女:無理なんです。
男:え?
女:同一の魂が同一の世界に複数回入ることは出来ないんです。
男:…えっと、じゃあ、魂を別のに変えてもらうとかは?
女:動物の身体は魂に合わせて形成されるので、後から魂を変えるとなると…、
男:変えるとなると…?
女:身体が爆発します。
男:爆発!?
女:はい。新しい魂が元の魂の作った身体を嫌がってリセットしちゃうんです。
男:…。
女:…それで、提案があるんです。
男:…はい。
女:異世界に興味はありますか?
男:え…、まぁ、それなりに。
女:良かった!じゃあこちらにサインをお願いします。(どこからか紙とペンを取り出す)
男:はいはい、っていやいやいや!確かに異世界には興味あるけど、今はそれどころじゃないでしょ!誘拐でもされたのかと思ったら急に殺人宣言されるし!暇潰しで殺しちゃったとか死神みたいなこと言い出すし!
女:失敬な!私は歴とした天使ですよ!
男:天使ぃ?設定厨誘拐犯の間違いでしょ。
天使A:…あなた、言って良いことと悪いことがあることをご存知でない?
男:さっきまでの低姿勢謝罪モードはお終いですか。いや、さっきのも言い訳3割、開き直り4割ってところだったけどね。
A:この私に向かってそんなこと言ったらどうなるか、分かっていないようですね。
男:ぐっ…。
A:ふふ、流石のあなたも分かっちゃいましたか。天界一の才智と美貌を兼ね備えたこの私の圧倒的なオーラ、下等な動物たるあなたでも感じ取れちゃいましたか。…いいでしょう。先程までのあなたの無礼の全て、私の余りにも寛大な心で許して差し上げましょう。
男:…開き直り10割。
A:もう許さん!何があっても絶対許さない!1番過酷な異世界に送ってやる!ゆっくり苦しめるよう───
急に扉が現れ、それを開いて天使Bが入ってくる。
B:さっきからうるさいわよ!何やってんのあんた!
A:お、お母さん…。
B:ごめんなさいね、うちの娘が。
男:あ、いえ、お構いなく…。
B:今度は何してくれたの?
A:…そこの奴の魂取れちゃったから交換してもらった。
B:はぁ、(男に)ちょっと待ってて。
天使B、新たな扉を生み出してそこに入る。少し経って、天使Cを連れて戻ってくる。
B:(男に)この馬鹿娘連れて行くから、後はその子に聞いといて。
男:はい、分かりました。
天使B、天使Aを引きずって初めの扉に入る。
C:事情は伺いました。
男:あ、じゃあ、色々聞きたいことがあって…。
C:私は転移担当の天使です。
男:…えっと、元の世界に戻れないみたいなこと言われたんだけど…。
C:私は転移担当の天使です。
男:…転移以外のことは聞けない、ってこと?
C:転移担当の天使は転移に関するご質問にお答えします。
男:転移以外のことは…、
C:転移以外担当の天使にお聞きください。
男:…じゃあ、転移以外担当の天使に聞きたいことがあるんだけど…。
C:私は転移担当の天使です。
男:呼んできてもらうことは出来ないですかね?
C:私は転移担当の天使です。
男:…(小声で)天使って皆こんななのか…?
C:何か言いましたか?
男:いえ!何も。
C:では手続きに移りましょうか。
男:まだ何も聞いてないけど!?
C:…では、転移について説明しましょう。転移とは、魂が1度も訪れたことのない世界に生きたまま移動することです。今回は事情が事情なので好きな世界を選んで良いことになってます。こちらが人気100位までの世界カタログです。
男:(1位のページを開いて)これが…異世界!…魔法に妖精、ドラゴンも!
C:世界が異なると物理法則も異なるので注意してください。
男:物理法則はどれくらい変わるの?
C:例えば人気1位の世界に入った瞬間、あなたはブラックホールになります。
男:ブラックホール!?
C:物理法則が異なるのですから、そういうこともあります。
男:あるんですか…。
C:はい。
男:じゃあ、俺でも生きていける世界はどのくらいある?
C:カタログで言えば42位と97位くらいです。
男:少なっ!…あ、でもカタログに載ってないのとかもあるよね…?
C:もちろんありますが、先に97位を確認してください。
男:97位は…(ページを捲って)、毒霧の世界…。俺でも生きていける世界のはずじゃ…、
C:はい。潰れたり爆発したりはしないので。
男:そのレベルで2つだけ!?
C:カタログ外になると毒より酷いのでおすすめは出来ません。
男:…。
C:ということで、42位の方で手続きを進めます。
男:ちょっと待って。(ページを捲る)
C:選択肢なんてないでしょう。
男:どんな世界かくらい知っておかないと。…どれどれ、42位は…魔法の世界。(読み込んで)ふむふむ、なんだ、王道って感じで良さそうじゃないか。
C:はい。昔はずっと1位だった程度には良い所です。
男:え?1位から42位まで落ちたの?
C:はい。魔王のせいです。
男:これまた王道な…。
C:魔族から成る魔王軍がその他の知的生命体を殲滅して回ってます。
男:行きたくない…。
C:今回の人気投票でその世界に投票したのは殆ど魔族側です。
男:行きたくない…!
C:それではこちらにサインをお願いします。
男:転移しないっていうのは…?
C:その場合はこの空間で一生を過ごすことになります。
男:…。
C:では、サインを。
男、サインする。「
C:ちなみにあなたがいた世界は人気2位ですね。
伊勢海 航、異世界に渡る。
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