第27話 ローレベルな男の投資

田中は、一発逆転を夢見て投資に希望を抱いた。これまでの副業が全て失敗に終わり、彼は「もう投資しかない」と自分に言い聞かせていた。しかし、決意を固めたものの、彼は最も重要な一歩を踏み出すことができなかった。


証券口座を開くこと。投資を始めるには、まずその基本的なステップが必要だった。だが、田中はなぜかその一歩を踏み出さなかった。証券口座を開くという行動に躊躇し、実際の投資には踏み込めないまま時間が過ぎていく。彼は行動に移すことを恐れていた。投資に失敗することへの漠然とした不安が、彼の足を引っ張っていたのだ。


代わりに、彼が選んだのは投資の本を買って勉強することだった。書店で投資に関する本を何冊も購入し、読み漁ることに没頭した。彼は次々とページをめくり、投資の基本、リスク管理、分散投資、チャートの見方などを学んでいく。だが、その勉強に時間を費やすほど、彼はあることに気づき始めた。


「これをしても、金は増えない…」


いくら勉強しても、彼の財布にお金は入らない。投資の本を読んで学んだ内容をツイートすることも、同様に無意味だった。彼は、学んだ知識をひたすらツイートしては「役立つ情報を発信している」という自己満足に浸っていたが、フォロワーもほとんど増えず、誰も彼のツイートには関心を持たなかった。


「これじゃあ、ただの労働だ…」


田中はようやく気づいた。彼がしていることは、投資の勉強という名の労働に過ぎないということに。投資の最大の魅力は、「自分が寝ていても、遊んでいてもお金が自分のポケットに入ってくる」という点だ。しかし、田中はその本質を掴むことができず、労働のループに嵌り込んでいた。


本を読むこと、ツイートすること、知識を増やすこと——どれも直接的にお金を増やすための行動ではなかった。田中は、効果に直結する努力ができないまま、ずっと遠回りをしていたのだ。投資の旨味を感じるどころか、彼は単に情報の海に溺れていた。


その結果、田中の生活には何も変化が起きなかった。貯金も増えず、時間だけが過ぎていく。彼は、いくら勉強しても、実際の投資を始めなければ何も変わらないという事実に気づかないまま、投資本とSNSの海で迷走し続けた。


「これじゃ投資じゃない、ただの勉強だ…」と、田中は心のどこかで分かっていたが、リスクを取る勇気もなく、結局はその場で立ち止まり続けるしかなかった。そして、その迷走が続く限り、彼の生活が劇的に変わることは決してなかった

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