第17話 ハイレベルな男の休日VSローレベルな男の休日

有馬の休日は、コンラッドの高級ホテルのベッドで目覚めるところから始まる。ゆったりとした空気の中、静まり返ったオフィス街を見下ろしながら、まずは一杯のコーヒーを味わう。平日の間にすべてのタスクを完了させたため、彼には時間のゆとりがある。どこまでも続く景色を眺めながら、平日の成果を振り返り、将来の目標を再確認する。この瞬間、胸の中にとてつもない幸福感が満ちてくる。


「幸福とは自分への感謝なのだ」と、有馬は思う。やりたくないことに挑戦し、難しい課題を乗り越えた自分に対する感謝。その努力があったからこそ、今この場所に立っていられるのだ。すべてがうまくいくという確信が、彼の心を支えている。


高層階のプールで体を動かし、洗練されたラウンジでゆったりとした時間を過ごす。豪華な食事を楽しみながら、有馬は未来を見据えている。ゆるやかに流れる時間の中で、自分が何度もこの場所に立ち、街を見下ろす姿を強くイメージする。


「何をやっても、すべてがうまくいく」有馬にはそんな確信があった。



一方で、コンラッド大阪から数十キロ先、豆粒のように小さなマンションの一室で、田中の休日が昼過ぎに始まる。彼が目を覚ますのは、既に正午を過ぎた時間。雑然とした住宅街を見渡しながら、狭いアパートの窓を開け、爪を切ってそのまま外に放り投げる。


「おらっ、俺の爪をくらえ」


四畳一間のアパートの窓は老朽化が進み、建て付けが悪い。なかなか閉まらない窓にイラつき、田中は思わず壁にパンチを見舞う。その一撃で壁には穴が開く。


数日後に友人が遊びにきた時には、「ここ、イラついて殴って穴を開けたんだぜ?」と自慢げに語るが、何のアピールにもならない。その上、金がないのに修理代が嵩むことになる。だが、それすら考えようとしない。


また別の休日では、田中はまた無駄な散財に走る。金がないにもかかわらずデリヘルを呼び、「めちゃくちゃブスがきた。腹にスイカ入れてるのかと思った」と友人に電話で愚痴をこぼす。しかし、もちろんそのままやめることなく、だらだらと風俗を利用し、さらに金を浪費する。


たまに外出しても、ウインドウショッピング程度。時計を見れば既に16時を回っている。この時間からできることは限られている。道中、変な時間に起きて変なものを口に入れる。手にしたのはコンビニの「からあげくん」。


「鳥の消費量半端ないな」


夕食は安上がりな松屋で済ませる。友人たちが勧めた対面のトンカツ屋には行かない。金がないのだろうか。しかし、なぜか「大盛りにしよっ」と注文する。さっきのからあげくんが明らかに不要であることに気づかない。


友人には、「せっかくの休みなのに、今日一体何をしたのか言ってみろよ」と問い詰められるが、田中は答えられない。こんなものは休日でなくともできることだ。


「やばいな」と思ったのか、彼は微妙な雰囲気のバーに足を運ぶ。


「俺らくらいの歳になったら、このくらいのワインを飲まなあかんな」「ここのソルティドッグ、ちゃんと塩ついてるで」「あそこの女性レベル高いでえ」


だが、彼の言葉にはどこか虚しさが漂う。まるで何かを知ったふうな態度だが、雑魚丸出しである。そんなことは、ハイレベルな男が20歳くらいの時に通り過ぎた道に過ぎない。


田中の休日は、何も得るものがないまま、ただ過ぎ去っていく。何も成し遂げることなく、無駄な時間と金を消費し続ける。彼の人生は、まるで迷路の中で同じ場所を何度も巡るかのように停滞している。

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