第5話 ローレベルな男のやる気
ある日、田中は突如として「このままではいけない」と思い立ち、ユーチューバーを目指すことにする。彼の頭の中には、「これが成功への近道だ」という漠然とした期待があった。スマートフォン一つを握りしめ、自己紹介動画やゲーム実況、さらにはメイドカフェやキャバクラでの体験談を語る動画を次々とアップロードし始める。
しかし、彼の動画は視聴者の関心を引くことなく、再生回数は二桁にも届かない。画質や音質も悪く、コンテンツもどこか薄っぺらい。「視聴者なんて簡単に集まるだろう」と考えていた田中にとって、その現実は厳しかった。彼のチャンネルには、ほとんどコメントがつかず、時折辛辣な言葉が投げかけられるのみだった。
「自分がやっていることは、何かが間違っているのだろうか?」と一瞬だけ疑問を抱くが、すぐにその考えは消え去る。田中は三ヶ月でユーチューバーとしての活動を諦めることになる。「やっぱり才能がないんだ」と、自己嫌悪と苛立ちが心を支配する。
田中は成功しているユーチューバーたちが、何年もかけてコツコツとコンテンツを積み上げ、試行錯誤を重ねてきたことなど知る由もない。彼にとって、成功は一夜にして得られるものだという幻想があった。一発逆転の思考に囚われていた田中にとって、その幻想が打ち砕かれた今、残ったのは失望と不満だけだった。
「世の中は不公平だ」「努力しても意味がない」と、田中はまたSNSで不平不満をぶちまける。彼のタイムラインには、皮肉や批判的な投稿が次々と並ぶ。何もせずに成功を待ち望む、その思考自体が間違っていることには気づかない。
結局、田中はまた一つ、黒歴史を作っただけだった。自分を変える努力をする代わりに、他人を羨み、批判する日々が続いていく。一発逆転を夢見るその姿勢が、自分をさらに深い底へと引きずり込んでいることに気づかないまま。
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