その時、僕の心が折れた!

崔 梨遙(再)

1話完結:2100字

 男ばかりの高校に入って2年。その頃の僕は、恋人がほしくて仕方が無かった。だが、バイト先でも好きな女性と付き合えなかった。学校に出会いは無い。僕は、卒業するまで彼女は出来ないと諦めかけていた。


 そんな時、最寄りの駅で違う高校に進学した中内とバッタリ会った。中内はギターを背負っていた。


「久しぶりやな、中内。まだギターやってたんや」

「おう、定期的にライブハウスでライブやってるで」

「そうか、かっこええなぁ」

「崔は? なんか暗いけど、どないしたんや?」

「彼女ができなくて落ち込んでるねん」

「出会いは無いんか?」

「男ばかりの学校やからなぁ」

「バイト先は?」

「先輩を好きになって、フラれた」

「でも、俺も男子校やけど彼女いてるで」

「それは中内がバンドやってるし男前やからやろ」

「よし、崔に女を紹介したるわ」

「マジで?」

「マジやで」

「ええの?」

「ええで、土日は空けとけよ」



 スグに中内から電話があった。次の日曜、出動と言うことだった。



 場所はスケート場だった。まず、中内の彼女に挨拶した。セッティングしてくれたことに対して礼を述べた。中内の彼女の麻美は、背が高くてカッコイイ、スレンダーな美人だった。服のセンスも良い。中内が羨ましかった。


 紹介されたのは谷野ちゃん。下の名前は知らない。麻美ほどでは無いが長身でスレンダー。顔は……麻美の方が魅力的だった。だが、谷野が僕を選んでくれるなら、僕は絶対に大切にする!


 ところが、谷野に話しかけるように並んで滑ると、スグに麻美の方へ逃げる。何度かお近づきになれるように話しかけたが、やはり逃げられた。流石に悟ってしまう。


“僕は好かれてない!”


 僕は中内に、“足を捻った”と言って観客席に逃げた。これ以上、心が削られるのは良くない。その時すでに、僕はかなり凹んでいたのだ。


 その日は、みんなの分の食事をご馳走して帰った。



 その晩、中内から電話があった。


「あのなぁ、今日の紹介の件やけど」

「うん」

「アカンかったわ」

「そやろなぁ、あれでOKやったらビックリするわ」

「理由は、“好みじゃなかったから”らしいわ」

「整形か? もう、僕、整形するしかないなぁ、ありがとう、諦めるわ」

「いや、ほんでな」

「うん」

「来週、紹介2発目が決定したから来週も土日は空けとけよ」

「2回も紹介してくれるの?」

「おお、乗りかかった船や。次回は頑張ってくれ」



 次に現れたのは、中宮歩美、160センチ弱のグラマーボディー。麻美とはタイプが違うが、歩美もモテそうだった。


 今度は話が出来た。歩美が男子との会話に慣れているのだろう。話している内に、僕は段々期待し始めていた。“もしかしてやけど、これは付き合えるのでは?”そういう想いに支配される。


 スケートの後、またみんなに食事をご馳走して解散。ドキドキしながら中内からの連絡を待った。



 電話が鳴った。


「もしもし!」

「ああ、中内やけど」

「うん、うん」

「今日の紹介やけど」

「うん、うん」

「アカンかったわ」

「マジ? 今日は結構トークは出来てたはずやで」

「アカン理由はな」

「うん」

「元彼のことが忘れられないんやってさ」

「なんじゃそりゃー!」

「まあ、そういうことやから」

「わかった。中内には感謝してる、ありがとうな」

「で、紹介第3弾やねんけど」

「まだ、あるんかーい! 嬉しいけど、ええんか?」

「今度はテーマパークでデートや!」



 テーマパーク。来たのは亜子。小柄でかわいい。僕の好みのタイプだった。全員分のフリーパスを僕が買って、夕方まで2組に別れて自由行動することになった。


 亜子も喋りやすかった。僕は中学から女性と話していなかったので、“女子とどんな会話をしたらいいのかわからない病”にかかっていたが、歩美といい、亜子といい、未熟な僕のトークをフォローしてくれる。楽しい時間が流れた。


 ところが、観覧車で言われた。


「崔君、私、崔君とお付き合いできへんねん」

「まあ、女性と何を話したらええかもわからんダサイ男やからな、僕は」

「そういうことではないねん、私、好きな人がいるねん」

「ほな、なんで今日来たん?」

「好きな人がいること、友達に話してへんねん」

「なんで?」

「30歳の妻子持ちやから」

「ああ、それは言いにくいやろな」

「だから、ごめん、崔君と付き合われへんわ」

「わかった、ええよ。ああ、これで3連敗かぁ」

「私がコーチしてあげる! 崔君に彼女が出来るまで」

「マジで?」

「うん、マジ。女子の立場からアドバイスするわ。崔君に彼女が出来るまで」

「ほな、師匠と呼ぶわ」

「うん、師匠って呼んでくれたらええよ」



 中内からの電話。


「今回も残念やったなぁ」

「いや、もう、全力は尽くしたから」

「ほんなら、第4弾を計画せなアカンなぁ」

「ごめん、中内、もうええわ。ほんまにありがとう。3連敗で僕の心が折れたから、第4弾はもうええで、ほんまにありがとう!」



 3連敗で完全に心が折れた僕だった。まあ、1人、師匠は手に入れたけれど。フラれても気にしない人はいるけれど、僕は気にしてしまう。高校時代の苦い経験だ。今、思い出しても……やっぱり苦い。甘酸っぱくはならない。打たれ弱いでしょうか? ここで心が折れても、許していただけますよね?







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その時、僕の心が折れた! 崔 梨遙(再) @sairiyousai

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