田舎の闘士

コトプロス

第1話 視察

1話 視察


「いやーお世話になります。地元住民からは難色を示される事も多いんですよ。でもスムーズに話が進んで助かりました。」


そう言って国から派遣されてきた、いかにもビジネスマンという様な背広を着込んだ中野という男は頭を下げる。


まぁねぇ、板挟みになってて大変そうだなって


「では現地まで案内をお願いします。一応我々は資格を持っているのでそのあたりの心配は無用ですよ。」


そう言って自信ありげなセリフと反面に、中野さんの顔は疲れ切ってるな。大丈夫か?ホントに


俺は軽トラに乗り込みいつもの農道を走る。後ろに中野さんが転がしてる乗用車がついてきているのを確認しながら例の場所へと向かった。


目的地はここ。山の中に少し入った所に2メートル程地面が盛り上がっている。側面には人一人が通れるサイズの穴が開いていて、そこから地面の下に向かって道が続いている。


一応言っておくが、江戸時代頃まではあった氷室とか、戦争時代の防空壕とかそういうのじゃないんだコレは。まあアレよ現代ファンタジー特有の、言うならダンジョン。古い日本風な言い方をしたら根の国やな。


「これは……かなりの禍々しさを感じますね。どうしてもっと早く連絡しなかったんですか?!」


中野さんが俺に詰め寄る。しかし、連絡したのは1年半前でやっと順番が回って来たという事を告げると謝られた。


「本来は我々がもっと早く対処しなければならない所を、本当に申し訳ない。すぐに取り掛かります。」


中野さんは何やらブリーフケースから御神酒やら大幣、御札を取り出して烏帽子を被る。


やもすると、新車を買った時のお祓いや新しく家建てた時の地鎮祭の様なセッティングがテキパキと行われていた。大変そうだからなんか手伝う事無いかと中野さんに問うと、


「大丈夫ですから下がっていて下さい。今この瞬間にもそこから妖怪変化の類が現れるとも限りません。」


すみません。と一言断り、それならば何か飲み物買ってきましょうか、と中野さんにコーヒーが良いなそれともお茶か問うて今度はコンビニに軽トラを走らせる。


「いらっしゃっせ〜」


コンビニの冷えた空気に包まれ、それまでの蒸し暑さがいくぶんマシになる。ホント最近の異常な暑さは堪えるね………

うぅむ……飲み物だけだとつまらんだろうし、お供えモノにも出来そうだから菓子パンと饅頭をいくつか買ってくかな。アイスは食わなかったら溶けちまうから今回はやめとこう。


「ありあっした〜」


ヨシ!あの中野さんって人も暑い中こんな田舎まで来てくれてるんだから待たせたらアカンな。

せっかく買った鶴瓶の麦茶がヌルくならない様に急いで来た道を引き返す。


「こ、来ないで下さい!大田さん!」


中野さんが害獣と睨み合っていた。既に何度かイノシシに跳ね飛ばされたのか高そうな背広が全身ボロボロの泥だらけになっている。あぁやっぱり陰陽師とか言って妖怪相手に切った張ったしててもイノシシとは経験が無いか。


「このイノシシは妖力の影響を受けています!一般人である貴方はすぐに逃げて機関へ連絡して下さい!」


あーあー、大声出したら向こうも威嚇されてると思って尚更興奮するのに。まあ対処法は妖怪どもとはまったく違うだろうし、知らないからって悪く言っちゃいけないな。自分も妖怪変化の対処法は知らないからな。


「早くにげっ………」


イノシシがこちらに向かって猛烈な勢いでダッシュしてくる。こころなしかオーラみたいなのを纏ってるな。最近多いんだよなぁこのタイプ。妙に頑丈だし力も強い。でもまあ俺も最近出せる様になったし条件はイーブン。なら今まで通り対処可能なのよね。


たぶんこのオーラ、ラノベ主人公みたいな鈍感野郎じゃないんだから薄々は察してるが、なんとなくあのダンジョンが関係してるよな


俺はイノシシがこちらに向かって来ているのを確認すると、足元にくくり罠が設置されている木の根元まで走る。そのまま進んで輪に足を入れた瞬間バネが作動してワイヤーで足を締め上げイノシシの行動を大きく制限する。

 ワイヤーに引っ張られ、勢い余ってつんのめり、ひっくり返る。そうなれば脇腹を剣鉈で一刺し。動脈を裂いた手応え……アリ!


「えっ………倒し……た?あの魔猪を……?」


俺は中野さんにそれほど対した事は無い。農家で害獣駆除の為に狩猟免許をとった人間なら誰でも出来る、と。事前にくくり罠を仕掛けて置いて正解だった。二日前にも狩ってるし念の為仕掛けておいて良かった。


「いえ、あのイノシシは妖力を放っていました。そして貴方からも妖力を感じられました。本来あの力は長年の修行で身に付けるモノです。いったいどの様に?訳を聞かせてくれませんか?」


中野さんは真面目な顔で真剣に聞いてるな。

これは茶化す訳にはいかないと、心当たりを語る。すると中野さんは頭を抱えていた。


「つまり、ダンジョンには入って無いがダンジョンに出入りをしてるイノシシ、ダンジョンに影響を受けたイノシシを狩っていたというのですか?!」


中野さんが素っ頓狂な声を上げる。でも焼き肉にしたら美味かったし、食うと明らかに力が湧いて来て目に見えて腕力が上がるから最近は危なく無いと言うと、中野さんは厳しい目をしてこちらにピンと張った御札を向けて来る。


「妖怪を食って取り込み力を付ける。貴方、鬼になりかけてませんか?」


そんな鬼なんてなるはずは無い。俺はただ狩ったイノシシを捌いて食っただけだと告げる。


「一度詳しい検査を受けて貰います。」


マジか……やっぱりこの腕力って普通じゃないよなとは思ってたけど専門家がヤバいって言うぐらいなのか。一応、日帰り出来るか聞いたらダメだと言われた。まあお茶でも飲んで、ダンジョンの口を塞いでから話の続きを、となってその後中野さんに連行された。



─────────────



新しく描き始めました!

よろしくお願いします(/・ω・)/

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