第4部 再来日と裁判の結果 (1章-①手紙その1-①-ブラジルに到着~

 第1章 ブラジルからの手紙 ’その1’ ’その2’

     ブラジルの経済状況 再来日の決心


  筆者は久子さんがブラジルに帰国してから4通の手紙を受け取った。その手紙に  綴られた文字は、平仮名、カタカナと簡単な漢字を織り交ぜたもので小学校高学年レベルである。しかしその表現力は高度で、日本に来てからは ’辞書を引いて勉強する’ 態度が私には眩しく映るほどで、漢字の数も増え表現力は目に見えて冴えていた。以下そのうち2通を引用する。「手紙は全て原文のまま。但し読みやすくするために筆者が適宜に漢字に直し、手紙‘その1’には副題を付与した」


        

手紙’その1(1994年1月)

【ブラジルに到着するまで】

 お陰様で無事にブラジルに着きました。飛行機に乗った時、私は今度こそは何があっても乗らなくてはならないと思い切って乗りました。その代わり6時間ごとに睡眠薬を飲んでずっと寝てきました。6時間後には目は覚めましたが又すぐ薬を飲んで眠りました。時間ごとにエアーガールが様子を見に来てくれたみたいです。みんな親切な人達でした。最後まで面倒を見てくれました。


 2回血圧と動悸を測りに来てくれました。食事がきても「このお客様だけは起こさないでね」と上の人から言われていたらしく寝たままでずっときました。 もうすぐサンパウロという時、嬉しいのか悲しいかどっちか分からなかったけれど、ついに泣き始めました。その時もエアーガールは私と一緒に座っていろいろ話をしてくれました。サンパウロに着いたときみんなが待っていてくれました。私は夢でも見ているのではないかと何度も何度も二郎や真由美に聞きました。

「もう8時から待っていたんだよ」と二人は泣きながら、抱きしめながら言ってくれました。家に着いたら四郎兄さん(私の身体が弱い兄)も泣きながら迎えてくれました。何もかもみんな私が行った時のままでした。


サンパウロの空港には二郎、真由美、そして一夫の友達が車5台で迎えに来てくれました。ブラジルでは日本帰りだと分ると1台の車だとすぐに強盗に狙われるので、私の乗った車を後の4台が取り囲むように一緒に移動するのです。

物騒極まりない国の状況です。風邪をひいて3日目になります。のどがただれ、咳は出るし声は出ないのですが早く手紙を書かなくてはと思って毎朝少しずつ書いています。

   

【ブラジルでの葬儀・納骨】

 昨日一夫のお葬式を済ませました。私が日本から帰ったことをみんなが知っていて大勢の人が来てくれました。毎日同じことを何回も話すのは大変疲れます。お葬式は全て無料でした。マウア町の司教が全部してくれました。その時も本当に有難く思いました。とてもきれいなお葬式でした。式の後何十台もの車が墓地まで送ってくれました。

嫁(一夫の妻)はお骨を抱いて泣きっぱなしでした。2人の孫はただびっくりした顔で母親を見ているのがとても辛かった。お葬式が終わってから嫁も私も大分元気になって「これから二人で力を合わせて頑張ろうね」と言いながら子供らの世話をしていました。ブラジルではお葬式の費用が猛烈に高いのですが、有難いことに無事に済ませることが出来ました。


そしてモジ区のお墓に無事納骨もして、父・祖父母に囲まれ一夫は永い眠りにつきました。


私には今年、クリスマスやお正月はなかったのです。まだ朗らかな気持ちにはなれないのです。知っている人たちに会うたびになぜかショックを受けるので、みんなに会いたくないのです。自分でも〈これではいけない〉と思うのですが、つい嫌な感じになります。もう仕方がない。これで慣れなくてはならないと思いながらも、それでもまだ駄目です。 (第1章 ①終)


















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