幼馴染みな後輩生徒会長と半同棲生活をすることになりました

七星 天導

一章 九月 幼馴染みな後輩と半同棲生活の始まり

プロローグ 食卓に並ぶ夕食

 食卓に並べられた数々の料理からただよってくる匂いが鼻腔をくすぐる。

 炊きたてなのか、茶碗に盛られた白米からは湯気が立ち上る。

 その隣には具だくさんの味噌汁があり、メインディッシュにはデミグラスソースのハンバーグがあった。

 その他にも、小鉢に盛り付けられたほうれん草のおひたしや、小さめのお皿にはポテトサラダが盛られていた。


 どれもこれもとてもおいしそうで、これらを作った人は相当の料理の腕を持っていることが窺える。


 さて……。

 猫の箸置きに置かれた箸を手に取り、まずは味噌汁からいただく。

 ………………。

 うん。


 一度白米で舌をリセットさせて、ハンバーグを一口。

 ……………………。

 うん。


 ほうれん草のおひたしも、ポテトサラダも。

 口に入れた瞬間に、うまみが波となって押し寄せる。


 この感覚を、どう表現すれば良いのだろうか。

 グルメリポーターではない俺から、果たして、これ以外の言葉が出てくることがあるのだろうか。いや、ない。


 と、いうことで。

 ありきたりではあるんだが……。


「うまい」

「ほんと?」

「ああ。まさかお前が、ここまでの腕を持っているとは思わんかった」

 俺のつたない感想に、前に座る美少女――古町こまちかえでは笑顔を浮かべた。


「よかった。……じゃあ、わたしもいただきます!」

 かえではそう言って、俺と同じように味噌汁から食べ始める。

 料理を次々と口の中に放り込んでいく彼女を見ながら、俺も食事を進めていく。


「……うん。我ながら良い出来だね! これなら将来も安泰だし、なによりわたしの旦那様になる人は幸せ者だね!」

「自画自賛が過ぎるだろ……。いや、ホントにその通りなんだろうけどよ」

 一口大に切り分けたハンバーグを口に放り込みつつ俺はつぶやく。


「何々? もしかしてみっくんがわたしの旦那様に立候補しちゃう感じ?」

 どうやら聞こえていたみたいだ。ニヤニヤと、からかうような表情でかえでがそんなことを聞いてきた。


「……アホ言ってねえでさっさと食え」

 それはそれでいいかもな……、なんて思ったけど、どうやら素直になれないお年頃(?)な俺は自分の気持ちを隠すことにした。


「むぅ……」

 ちらり、とかえでの方を見やると、両頬をぷくっと膨らませていた。

 どうやら俺の回答がお気に召さなかったらしい。


「んだよ……」

「んーん。なんでもなーい」

 かえではそっぽを向いてしまった。


 「みっくんの意気地無し……」なんて声が聞こえた気がするが、小さかったので気のせいだったことにして、俺は意識を再び夕食に向けた。


 しかし……。

 俺はふと、かえでという美少女と食卓を囲む、という、ラブコメじみた今の状況について、なぜ、こんなことになっているのか考えてみることにした。

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