第2話 凛の日常
凛の今の仕事は事務職だった。有期雇用で、書類の点検やそれに伴う他社とのやりとりをしていた。仕事でつまずくことはなかった。人格は破綻気味だが、IQに異常はない。
電話が鳴る。あの番号だ。いつものクレーム野郎が。
凛は電話に出ようとしたが、もう一人の事務員の女性のミナミさんがとった。
「ええ……はい……ですから……ええ……申し訳ございません……」
電話に出て、出だしからクレームを言っているらしい。対応履歴データを見ると、そいつの名がずらりと並んでいる。ミナミさんもそいつの電話番号くらい覚えたらいいのに、と凛は思った。
凛もクソ人間なんぞとは一言も話したくないと思っている。だが、電話に出るのは凛とミナミだけだ。ミナミは妊娠しているから、ミナミにカスハラのストレスを受けてほしくなかった。でも結果的にこうなってしまった。
少子化対策の一環として、妊婦をいじめるカスハラを殺せるようにすればいいのにと凛は思った。凛は、そいつの家に火をつける妄想をした。
十五分経ったが、ミナミが相槌と謝罪の言葉以外で喋ったのは一分程度だった。ミナミがようやく受話器を置いた。
「ミナミさん、そいつの電話、これからは私が取りますよ。ストレス良くないから」
凛がそう言うと、ミナミは笑った。
「大丈夫、大丈夫。この人、なんかうちの旦那に似てるんだよね」
は? マジか。家にイカれた野郎がいるとか、信じらんねぇ。
夫婦ってわかんないな、と凛は思った。
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