第36話 ツンデレエルフ女?



「あれ……もう朝か」


 俺は寝惚け眼を擦りながら起き上がる。


 昨日は色々あったな。

 突然、トラップにかかり、深層まで落ちたかと思ったらピクシーやエルフみたいなファンタジー生物に出会い、その後は魔法を教わったんだっけ。


 そしたら今度は家を間違えて……なんやかんやあったけど今はちゃんと元々泊まるはずだったログハウスにいるのだ。


「なんかテキトーに飯でも食うか」


 朝飯を作るのも食うのも面倒だが、昨日の夜から何も食べていないので何かしらは口に入れておこう。

 そう思って冷蔵庫を開けたのだが――


「何も……ない」


 考えれば当たり前か。

 元々使われていなかった家に食べられるものなんて置いてあるはずなんてないわ。


 ここは諦めて鞄に入っていた携帯食でも食べよう。

 あまりたくさんの量は持ってきていないが数日はあれで食いつなげるはずだ。


 ――ドンドン、ドンドン


 突然、扉が叩かれる音がした。

 玄関からだ。


 朝からなんだなんだ?


 俺はのっそりと扉まで歩いていき、開けると


「……誰もいない?」


 誰もいなかった。

 しかし、代わりに家の前には大きめのカゴが置いてあった。


 確認してみると中にはチーズやバゲット、桃が入っていた。

 つまり、これを食えということだ。

 正直、めちゃくちゃ助かる。


 携帯食は数日分しか持ってきていないため、これからのダンジョン探索に温存しておきたかったし、何よりあれは不味いからな。

 あの不味い携帯食を朝から食べる気には中々なれなかったので本当に助かる。


「師匠が置いてくれたのかな?」


 俺はカゴを家の中に運ぶと、取り出す。


「この桃、昨日、勝手に食べようとして怒られたやつだ」


 結構美味しそうだったから食べたかったんだよな。

 流石、師匠、わかってるじゃないか。


 俺は適当な大きさにバゲットを切るとその上にチーズを乗せて食べていく。

 味は普通に美味しかった。


 次に俺は桃を齧る。


「うん、美味い!」


 ダンジョン産だからなのか、ピクシーが育てているからなのか、普通の桃よりも水々しく、甘い。

 俺はバクバクと桃を食べていき、いつの間にかに3つあった桃は無くなっていた。




 ――――――



「ふむ、来たか」


「おはようございます! 師匠」


「この前も思っていたのじゃが、その呼び方はなんとも慣れぬのう……」


 師匠はポリポリと頬を掻きながらそう言う。


「まあ、それは慣れてくださいよ……そうだ、朝食ありがとうございました。お陰で助かりました」


「なんのことじゃ?」


「え? 今朝、俺の家の前に置いてあった食材が入ってたカゴのことですよ」


「それはワシじゃないぞい……恐らくじゃがセナヴィアがやったんじゃないかのう」


「っ?!」


 あのエルフ女が?!

 よく考えれば何も言わずに朝食を置いていくなんてこと、彼女くらいしかやらないか。


「何があったのか知らぬがセナヴィアは昨日の夕方から少し様子が変でのう」


「変?」


「お主は昨日、鍵を取り替えてからすぐに帰ったから知らぬと思うが、あの後セナヴィアがお主のことについて色々と言ってきてのう。挙げ句の果てには『私がこのダンジョンは攻略するからあの人間は地上に帰してあげて』と言ってきたのじゃ……流石に断らせてもらったがな」


「……そうなのか」


 え、マジで俺のこと好きなのか?

 好きじゃなかったらそんなこと言わないだろうし、朝食なんて届けてくれるわけないよな。


 でも、最初に会った時は人を殺せるレベルの鋭い眼で見てきたし……俺の眠っている間に何かあったのか?


 考えても考えても何もわからなかった。


「まあ、何があったのかは考えてもわからぬ。今度会った時にワシから聞いておこう……とりあえず今は訓練じゃ」


「は、はいっ! 師匠!」


 あのツンデレエルフ女のことは気になるが、俺がこのダンジョンで生き残るために今最も大切なのは魔法を身につけて生存確率を上げることだ。


「昨日は確か中級魔法に挑戦している途中で終わったのじゃったな……なら、今日は少し練習方法を変えてみるかのう」


 確か、昨日は只管、魔法陣を覚えてそれを思い出しながら中級魔法の練習をしていたのだ。

 あれ以外の練習方法があるのか?


「まず、今、お主は中級魔法が中々覚えられぬことで自信を失っておる。じゃからまずは成功体験が必要じゃ」


「そのために昨日みたいな練習をするんじゃないのか?」


「……いや、実は魔力があれば誰でも中級魔法を使える方法があるのじゃ」


「マジっすか!?」


「わしはあまり好きじゃない方法なのじゃがな……名付けて『体借りて中級魔法使っちゃおう』じゃ」


 ……それは名付けていると言っていいのか?


「つ、つまりどういうことなんだ?」


「ワシの魔法でお主の体を少し借りるんじゃ……そして感覚を共有した状態でワシがお主の体で中級魔法を使うんじゃ。こうすればお主は中級魔法を使う感覚がわかるじゃろう?」


「なるほど!」


 ネーミングは最悪だったが、流石は師匠だな。


「早速、初めていくぞい……『感覚共有』『身体占有』」

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