第34話 えっと、これなんてエロゲ???




「はぁぁぁ、疲れた……」


 俺は本日2回目のセリフを吐きながら、のそのそと夜道を歩く。


 走ったり、戦ったりしたわけではないのに俺は異様に疲れていた。

 やっぱり、魔力を使うのは体力を使うのと同じように疲れるみたいだな。

 じゃあ……もしも魔力が尽きたら……。


 絶対ヤバいじゃん、考えたくもないよ……。


 ちなみに今、俺はどこへ向かっているのかというと――


「ここか?」


 そこには丸太で作られた小屋――いわゆるログハウスが2つあった。


 そう、俺が向かっていたのは今日の寝床だ。

 俺はそこら辺で野宿する気だったのだが、爺さんが『余っておる部屋があるからそこを使っても良いぞ』と言ってくれたので、地図を頼りにここまで来たのだ。


「確か、屋根が赤い方だって言ってたよな?……って、あれ?」


 そのログハウスのカーテンの隙間から微かに明るい光が漏れ出していることに気づく。


 前の利用者が明かりを消し忘れたのかな?


 俺は気にせずに爺さんから貰った家の鍵を差し込み、扉を開けようとする。


 いや、それか――

 もう一つの可能性が脳裏をよぎる。

 しかし、もう遅かった。


「ッ――?!」


「ふぇ?!」


 純金の髪、白磁のように白い肌……そして、はだけたバスローブから覗く均整のとれた美しい豊満な胸。

 そこにはバスローブ姿の女神がいた。


 俺が見惚れていると、白かったはずの耳が徐々に赤く染まっていく。

 やべっ、見惚れてる場合じゃ――


「死ねッ!」


 そんな鋭い言葉と共に、氷柱が顔面目掛けて飛んでくる。


 あっぶねぇぇぇ!

 あと0.1秒遅かったら俺の顔面に穴が空いてたんですけど?!


「ちッ、しぶとい奴め」


 彼女は悪態を吐くと、次々と氷柱を飛ばしてくる。


 待ってその数は本当に死ぬ!


「〈ショック〉」


 少し弱めに〈ショックブラスト〉を放ち、氷柱の勢いを相殺する。


「なんなのよ、本当に! 〈アイスビーム〉!」


 今度はビームが飛んできたので、しゃがんで躱す。

 すると、ビームは俺と扉を通過して外にあった木に着弾した。


 木はたちまち凍っていく。


 不味い、このままだと次こそ魔法が家に当たる。

 借りている側として、それだけは避けなければ……!


「待ってくれ! 話を聞いてくれ!」


「いやぁ! 近づかないでッ!」


 彼女は後ずさるとこちらに向けて両手を突き出す。

 そして、その両手には見たことがないほどの量の魔力が集まっていく。


 え、これって止めないと、かなりやばくないか?


「〈ショック〉」


 俺は後ろに〈ショックブラスト〉を放ち、加速する。

 頼む、間に合ってくれ……!


 俺はセナヴィアに高速で肉薄していき――

 あっ、これ止まれないやつだ。


「きゃぁぁぁっ!!!」


「ごめんッ!」


 ――バンッ


「ッ〜〜〜!?!?」


 気づけば端正な顔が目と鼻の先にあった。

 そして、そのすぐ横には俺が壁についた手が……。


 これはいわゆる、壁ドンと言うやつじゃ――


「し、死ね死ね死ね!!!」


 彼女は流れるように両手を突き出す。


「〈氷柱アイシクル〉!」


「ちょ待っ――」


 至近距離で放たれる氷柱を俺は身を捩らせて紙一重で避ける。


「〈氷柱アイシクル〉!!!」


 一発目の氷柱で完全に避けのリソースを使い果たした俺の目の前には当たれば絶対に無事じゃ済まない鋭さの氷柱。


 それが俺の最後の記憶だった。




 ――――



「ぅん……」


 俺は起き上がると、寝惚け眼を擦りながら辺りを見渡す。

 どうやら、俺はソファの上で寝ていたようだ。


 どうして……?


「そ、そうだ! 魔法が俺に直撃して……」


 意識を失う直前、俺は顔に氷柱が直撃して強い痛みを感じたのだ。


 俺は一度、深呼吸をすると、恐る恐る自分の頬をさすってみる。

 もしも、治っていたとしてもあれ程の傷であれば現代のポーションを用いた医療技術でも痛々しい傷跡が残っているはずだ。


「あれ……?」


 しかし、頬はすべすべとしており、どこを触っても傷跡らしきものはなかった。

 ど、どうしてだ……?!


 ――ガチャ


 俺が戸惑っていると一番近くの扉が開いた。


「あら、起きたのね。意外と早いじゃない」


 そこにはお盆を持った、金髪をポニーテールで纏めたエプロン姿の美少女が立っていた。


 えっと……これなんてエロゲ???

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