第32話 〈ファイアボール〉
「〈ファイア〉」
やってしまった。
魔力が散る前に撃たなきゃと焦っていたらミニを言い損ねてしまった。
俺の指先からはキャンプファイアーくらいの大きさ炎が吹き出し――
「あっつぅぅぅ!」
ピクシーの爺さんに直撃した。
火炎は爺さんを包み込み、焼き尽くしていく。
まずい、これじゃあピクシーの丸焼きになってしまう……!
ええっと、どうすれば――
「馬鹿もん!!!」
「ぶへっ」
突然、水がバケツの中の水をぶちまけるように飛んできて、俺の顔にヒットする。
俺は衝撃で地面に手を着く。
「ワシを丸焼きにする気かっ!」
「い、生きてた!!!」
俺は顔にかかった水を袖で拭き、目を開く。するとそこには腕を不機嫌そうに組んで俺を見下ろす爺さんの姿があった。
「咄嗟に水魔法でバリアを張っておらんかったら丸焼きになっておったわい」
「本当にすみません」
「お主、小さな炎じゃなくて火炎を思い浮かべたじゃろう」
「うっ……マジですみません」
ソロでずっと探索しているからか、実際に火属性スキルを見た事がほとんどないのだ。
そんな中、初めてみた火属性スキルがあの火竜のブレスである。
つい思い出してしまった。
「文句はもう少し言いたいところじゃが……それよりもなんなのじゃ?! お主の成長速度は」
「え?」
「魔力操作に長けているピクシーでもそんな短時間で魔力を1点に集められるようにはならぬのじゃ……それをお主は1時間も経たずに成してみるとは……」
え、そうなの?
……多分だけどそれは俺が〈ショックブラスト〉をよく使っているからな気がする。
〈ショックブラスト〉を普通に使う分には大した技術は要らないのだが、俺の場合は移動や速度減衰、ましては殴る時にも使っている。
こんなの精密に威力やタイミングをちゃんと調整しなきゃできたもんじゃないからな。
おかげで瞬間的な集中力が鍛えられていたのだろう。
「この調子なら明日には中級魔法くらいまでなら使えるようになっておるかもしれんのう」
爺さんは冗談気味にそう言う。
中級魔法ってどれくらいの魔法なのだろうか。
火竜のブレスより少し弱いくらいか?
「中級? 魔法にも強さがあるんですか?」
「そうじゃ、さっきお主が使った〈ファイア〉は初級魔法、ワシがさっき使った〈ミニファイア〉は生活魔法と呼ばれる最も低級の魔法じゃ」
……つまり、俺は全部すっ飛ばして1つ上の級の魔法を使ってたのか。
「せっかくじゃから、他の初級魔法も試してみるか?」
「お願いします!」
「よし、まず初級魔法は各属性ごとに3つずつ存在するんじゃ……火属性の場合はさっきお主が使った〈ファイア〉と火の玉を射出する〈ファイアボール〉、火の壁を作り出す〈ファイアウォール〉じゃな」
「意外と少ないのか」
「初級魔法まではそうじゃな……しかし、中級魔法からは大きく異なるぞい。例えば火属性の中級魔法の数は300じゃ」
「さ、さんびゃく……?!」
あまりの数に俺は目を丸くする。
ちなみにスキルにも〈火魔法〉というのがあるが、そのスキルによって使える魔法は全てで40種類だ。
これが魔法という力なのか。
「詳しく説明すると色々あるのじゃが話し始めると1時間以上かかるじゃろうから今度にしよう……では、早速、他の初級魔法のお手本を見せてやろう」
爺さんはそう言うと、そのまま訓練場に置いてある的に対してその小さな手を向けると――
「〈ファイアボール〉」
人の頭ぐらいの大きさの火の玉が生まれ、的に向かって飛んでいく。
――ドォォォン!!!
〈ファイアボール〉寸分の狂いもなく的の正面に着弾すると、的は跡形もなく爆散した。
え、これが初級魔法?
俺、これを撃たれて生きてる自信ないよ?
「つ、強すぎやしません?」
冷や汗が頬を流れる。
もし、この爺さんと敵対していたらと思うと震えが止まらない。
「ふぉっほっほ……ちと、出力を間違えたかのう」
ちらりと爺さんは俺の方を一瞥する。
これは俺への牽制か……いや、違う、これは挑発だ。
きっと俺を試している。
「やってやるよ……!」
俺は目を瞑り、全力で魔力を掌に集める。
火の威力を上げるにはどうしたらいいだろうか。
……温度だ、火の温度が高ければ威力は上がるはずだ!
ただの赤い火じゃダメだ、白や青色の高温の火にするんだ。
「〈ファイアボール〉」
放たれた〈ファイアボール〉は真っ白だった。
成功、成功したんだ!
そんな喜びも束の間、放たれた〈ファイアボール〉はノロノロと空気中を進んでいき、的に着弾する前に地面に落ちてしまった。
「くそっ……」
恐らく、温度に魔力を使いすぎたせいで射出速度が遅くなったのだと思う。
しかし、爺さんの〈ファイアボール〉は着弾した瞬間に爆弾のように激しく爆発していた。つまり、ただの火の玉を撃ったんじゃない。
何かしらのトリックがあるはずだ。
「いや、違うな」
俺は少し頭を冷やす。
ずっと科学知識と結びつけて考えていたが、そもそも魔法自体が科学で解明できない技術なのだから理屈なんて必要ないじゃないか。
もっと単純に考えるんだ、俺。
「〈ファイアボール〉」
赤色の〈ファイアボール〉はさっきより速く的に迫り
――ボォォン!
小さく爆発した。
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