第30話 やべっ
「さっき言った通り、人間を恨んでる奴は多い……だけど、無条件にお前を憎んじまっているのは間違っていると思うんだ。だから謝罪するよ」
そのガイルの言葉で場は騒然とする。
探索隊のリーダーの息子ということはこの中でのヒエラルキーは上位。
そんな彼が謝ったのだ。
これは簡単にできることではない。
「あんたはこのダンジョンをセナと一緒に攻略してダンジョンコアを抑制するのをゼロ爺さんに依頼されて来たんだよな?」
さっきからよく聞くゼロ爺さんというのは恐らく、あのピクシーの爺さんのことだろう。
「まあ、そうなるな」
半分、脅されているようなものだけどな。
「それなら、俺からも改めてお願いしたい。ゼロ爺さんから聞いてるかもしれないが、俺たちは100年間、ここに閉じ込められているんだ」
「大変だな」
「ああ、俺たちは100年間ずっと、ずっと外に出ることを渇望してきた。外に出れば美しい景色が見れる、新しい食べ物がある……そして、俺たちの失った記憶を取り戻すきっかけもあるかもしれないんだ」
「そういえばあんたたちは気づけばここにいたんだっけ……」
「ああ、俺たちは恐らく忘れてはいけない何か大切な事実を忘れている……多分、それは世界の命運を左右するような大きなことだ」
命運を左右する……ねえ。
もしも、俺が英雄や勇者のような心を持っていれば刺さるものがあったかもしれない。
しかし、俺は一般人である。
無条件で協力してやれるほど優しくもない。
それに、いくらガイルが大層な理由やピクシーの願望を語ろうと結局、戦うのも死ぬのも俺なのだ。
「最善を尽くすよ」
「ありがとう、感謝する」
彼らは訓練場の外へと出ていき、またしても入れ替わるように誰かが近づいてきた。
「み、見つかったぞ! これじゃ!」
振り向くと爺さんが小さな木箱を持ちながら飛んできていた。
「えっと、それは?」
「ふん、聞いて驚け! これは人間でも魔力を扱えるようになる指輪じゃ……多分」
パカッと爺さんが木箱を開けるとそこには木で作られた指輪が入っていた。
「多分って、確証はないんですか?」
「……この森に逃げてくる時に持ってきたものじゃからのう、薄っすらとしか性能は覚えておらぬのじゃ。じゃが、危険なものではないと約束するぞい」
本当に大丈夫なのか?
俺は疑念を抱きながら指輪を受け取ると、殴る時に邪魔にならない左手に嵌めてみた。
「あれ……?」
グワンと視界が歪み、俺は思わずよろけて、地面に手をつく。
やっぱり不良品じゃないか!
そう思って爺さんに抗議しようと立ち上がった時だった。
「――?! なんだ、これ……」
なんだ、この空気を漂うカラフルな光の粒子は。
特にピクシーたちの周りには大量の光の粒子が漂っていた。
「ほう、効果があったようじゃな」
「この光の粒が魔力なのか?」
「なんと、魔力すらも見えているのか」
「爺さんは見えないのか?」
「ワシは見えるぞい……じゃが、魔力が見えるのはピクシーの中でも一部の才ある者だけじゃ」
そんなに凄いのか、魔力が見えるのは。
俺は木の指輪を見つめる。
こんなに凄い道具を作れるなんて、流石はピクシーだな。
「それなら何でこれをピクシーたちは付けないんだ?」
「これはワシらが付けても何の効果もないのじゃよ」
「え?」
「これはワシだけが覚えている事実なのじゃが……この指輪は勇者と呼ばれていた人間の男がいつかこれを必要とする者が来ると言ってワシらに預けて来た物の一つなんじゃよ」
「勇者?」
魔法といい勇者といい……まるで少し昔のRPGのような話だな。
勇者ということはピクシーたちが居た場所には魔王でも居たのだろうか?
「人間の英雄じゃよ。ワシもよく覚えておらぬがな……そんなことよりも早速、魔法を教えていくぞ」
「は、はい!」
「まずは難易度が低い属性魔法からじゃ……〈ミニファイア〉」
爺さんがそう唱えると彼の指先に小さな炎が生まれる。
凄いぞ。
光の粒子が爺さんの指先に集まっている。
これが魔力を使った魔法か!
「これが火魔法の最も簡単な魔法じゃ。主に火種として使われることが多いのう」
「まずはこれをやってみるんですよね?」
「まあそうじゃな。しかし、最初は魔力を指先に集める練習をするのが良いじゃろう。どれだけ才あるピクシーでも最初の魔法の習得には少なくとも1日はかかるからのう」
「魔力を……集める……」
俺は神経を指先に集中させる。
こういうのはイメージが大切なはずだ。
光の粒子を指先へ……!
しかし、指先に光の粒子が集まってはすぐに散っていく。
「油断したのう。魔力は油断するとすぐに元の場所へ戻っていってしまうからのう」
「くっ……」
もう一回だ!……失敗した。
それなら、もう一回……また失敗だ。
失敗、失敗、失敗……。
俺が悪戦苦闘すること約30分、俺はようやくコツを掴んできた。
「ふんっ……!」
油断してはいけないが、力みすぎるのもダメだ。
まるで金魚掬いをするように落ち着いて、赤ん坊を撫でるように優しく……。
すると、ちょっとずつだが光の粒子が指先に集まってくる。
もっとたくさん集まってくれ!
結局、俺はそれから3分かけてピカピカと輝く大量の光の粒子を集めたのであった。
「で、できました!」
「ぬっ、なかなか習得が早いのう……ならば今度はそのまま小さな炎を想像しながら〈ミニファイア〉と唱えてみよ」
小さな炎か。
しかし、なぜか脳裏に半年前の火竜と力比べをした記憶がよぎった。
あの時の火竜のブレスは本当に凄かったな。
ってやばいやばい!
関係ないこと考えてたせいで魔力が今にでも散りそうだ。
俺は急いで魔法を唱える。
「〈ファイア〉」
やってしまったと思った時にはもう、遅かった。
「やべっ――」
――刹那、俺の視界は炎で真っ赤に染まった。
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