第29話 もしや、魔力を知らぬのか




「セナヴィアの親友が殺されたって……」


 セナヴィアの姿が見えなくなってから俺は爺さんにそう聞く。


「ああ、それかのう……さっき言ったじゃろう? 10年前の人間の襲撃で多くの戦士が死んだと……その中にはセナヴィアの親友も居たのじゃ」


「っ……」


 爺さんの言葉からは未だ残る遺恨が滲み出していた。


 自分がやったわけではない。

 それなのに、俺はまるで自分がやってしまったかのような責任感を抱かずには居られなかった。


「ほっほ、お主が気に止む必要はない。ピクシーに悪い者と良い者がいるように人間にも悪い者と良い者がいるのはわかっておる。じゃが……それが理解できていても、感情は中々コントロールできるものではないのじゃ」


「そりゃあそうですよね」


 噂を聞きつけたのか、訓練場の周りにはさっきよりもピクシーたちが集まっていた。

 その中のピクシーには殺意や敵意を抱いている者も少なくなかった。


「まあ、この話は一旦よいとして早速、訓練を始めるぞい」


「うっす」


「ワシらがこの1週間でお主に教えるのは認識阻害と属性魔法じゃ」


 認識阻害に属性魔法を教える?

 それらは何らかのアイテムを使わない限り、スキルでしか発動できないはずだ。


 つまり、後から努力をいくらしても身につけることはできないのだ。


「えっと……俺はその二つのスキルは持ってないんですよね」


「何を言っておるんじゃ、じゃから今から身につけるんじゃろう?」


「も、もしかしてスキルオーブがあるんですか?!」


 スキルオーブは元々持っていなかったスキルを身につける唯一の方法だ。

 流石、ピクシー。

 スキルオーブを二つも用意してくれるなんて。


「何を言っておるんじゃ。アイテムは使わぬぞ。お主の努力だけでこれらを身につけるのじゃ」


「へ?……いや、無理無理無理!」


「なぜじゃ? ピクシーは皆、そうやって魔法を身につけておるぞい?」


「いやいや、人間がアイテムを使わないでスキルを習得したなんて話聞いたことないですから!」


 そんなことができるなら、絶対に話は広まっているはずだ。

 すると、爺さんは困惑したように首を傾げる。


「さっきからお主は何を言っておるのじゃ。これから身につけるのはスキルではないぞ? 魔法じゃ」


「え? 魔法系スキルじゃないんですか?」


「何じゃその魔法なのかスキルなのかよくわからぬものは……魔法というのは魔力を使って魔法を行使するものじゃ」


 どういうことだ?

 もしや、ピクシーはスキルを使わずとも魔力という謎の力を扱って魔法を使うのか?


「お主……もしや、魔力を知らぬのか」


「は、はい……」


 俺がそう答える爺さんは深く考え込む。

 爺さんはきっと俺が魔力を扱えることを前提として俺を鍛えようとしたんだろう。


「そうじゃ! あれがあった!」


「……?」


「すまんがしばらくそこで待っていてくれ」


 突然、顔を上げたかと思うと爺さんは訓練場の外へと飛んでいく。


 何かいいアイデアが浮かんだのだろうか。


「あんたが爺さんに依頼された人間か」


 突然、背後から少年のような声が聞こえる。

 振り向くとそこにはじっとこちらを見る三人の少年のピクシーがいた。


 すると、声をかけてきた少年の後ろにいた一人が俺を指差す。


「お前が俺の父さんを殺した人間だなっ! ゼロ爺さんがいない今、殺しちゃえば――」


「や、やめとけよ。こいつはあのセナ姉ちゃんと互角にやり合えるぐらい強いんだぜ? お前が返り討ちにされるに決まってる」


「でもよぉ、俺許せねえよ……!」


 彼は苦虫を潰したような表情をしながらもう一人の仲間に宥められながら引き下がっていった。

 そりゃあそうだよな。


 人間だってモンスターに親友が父親が殺されたとしたら、強い憎しみを抱く。

 そして、モンスターを駆逐するまで完全にその憎しみは晴れない…いや、晴らせないだろう。


「あー、わりぃな。うちらの中には家族や友達を人間に殺されたやつは多くてな」


「……君は?」


 そのピクシーは赤髪の少年のピクシーであり、どこか感じたことのある雰囲気を感じる。


「俺はガイル……探索隊のリーダーのガルラの息子って言えばわかるか?」


 ガルラ……確かさっき突然現れたあのピクシーだ。

 その息子が俺に何の用だ?


「ちょっと言いたいことがあってな」


「……?」


 なんだ?

 あのエルフみたいに俺に宣戦布告でもしてくるのだろうか。


 そう思って身構えていたのだが、彼が取った行動は意外なものだった。


「まずは……すまない!」


 突然、彼は頭を深々と下げて謝罪した。


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